41話 予期せぬ帰還
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花房は、先ほどまで食べていたタルトを改めて眺める。
「一つ一つ見ていこう。まずは生地だけど・・・これはパート・シュクレだね?」
「うん。焼き色の濃いタルトにしたくて」
タルト生地は大まかにパート・シュクレ、パータ・フォンセ、パート・サブレの三種に分かれるが、パート・シュクレに比べパータ・フォンセは砂糖控えめで甘みがなく、パート・サブレはバターが多い等の違いがある。
「なるほど・・・パート・シュクレは苺タルトにはベストチョイスだと僕も思うよ」
生地それ自体も味や食感といい、しっかりできている。樹は改めてタルトの中に敷き詰められたクリームを口にした。
「クリームはこれ・・・クレーム・フラジパンヌよね」
「なにそれ?」
いちごが首を傾げるので、樹はつんのめりそうになった。
「これ、カスタードとアーモンドクリームを両方混ぜて作ったやつなんだけど・・・両方のクリームを味わいたくって!」
「それがクレーム・フラジパンヌだ!知らないで作ってたのか・・・?」
無邪気に告げるいちごを、樫野は信じられないような目で見る。この期に及んで底が知れない女だ。花房と安堂も改めてクリームを口に入れた。
「繊細な風味のクレーム・フラジパンヌなら・・・」
「フルーツとの相性もばっちり・・・」
「最高の組み合わせですう・・・」
キャラメルも自分の身体ほどあるタルトを一つまるごと食べきり、丸々としている。他のスピリッツたちは恐れをなしたようにその姿を遠巻きに見ていた。
「タルト生地も中のクリームもそこそこ出来てるってわけか・・・」
「そこそこ・・・」
樫野の総括に、いちごはやはり複雑な面持ちをする。
「となると、上に乗せる苺、もしくは苺を使ったコンフィチュールに改善の余地がありそうだな」
「うん。樫野の言う通り、あたしが納得いかないのもそこなの」
「安物の苺でも使ったんじゃないですの?」
「いちごはそんなもん使ってないもん!」
追求に疲れたショコラがつい疑うのも無理のない話ではあるが、改めて食べてみても苺そのものは悪いものではないと皆口を揃えた。いよいよ行き詰まりを感じたいちごは思わず溜息を吐く。
「はあ・・・おばあちゃんの育ててたあの苺があればなあ・・・あの味は本当に特別だった・・・」
「品種は何だったか覚えてないの?」
「実の大きさとか、形とか」
「うーん・・・子どもだったし、品種は気にしてなかったよ・・・見た目とかも、見つけたら『これだー!』ってなるかもしれないんだけど・・・」
花房と樹の質問にも渋い顔をする。さすがのいちごでもそこまで細かい記憶をたどるのは厳しい。
「そっか・・・でも苺探しなら僕らも一緒に手伝うからさ。根気よく探そうよ」
安堂は尚もフォローの姿勢を崩さない。親切な言葉にいちごの表情も少しだけ晴れたような気がした。
「ありがとう。でも、苺探しはあたし一人でやるよ。それに見つかるかどうか・・・」
「天野!」
「え?」
不意に、樫野が鋭い声をあげた。
「これから決勝を戦おうって時に、そんなネガティブでどうするんだよ。作り手の気持ちはスイーツに表れる」
樫野の目が、不安で揺らぐいちごの瞳をしっかりと見据えていた。動揺したいちごは思わず俯いてしまう。
「今の天野じゃ人を笑顔にするどころか、不安にする味しか作り出せないぜ」
いちごの目標や夢を知っているからこそ告げられる言葉が痛い。これ以上どうやって進めばよいか分からない現状。さっきから何度も吐いてしまった弱音。胸がいっぱいになったいちごの目から涙が零れた。
「・・・あたし、ちょっと外の空気吸ってくる!」
「待っていちご・・・!」
いちごは駆け出して調理室の外へ消え、それをバニラが追いかけていった。樹は少し気になるように短く息を吐き、花房と安堂がさすがに気遣うような表情を見せる。
「僕らも追いかけた方が・・・」
「心配ねえよ。今の天野は前ほど弱くない」
言い切った樫野の表情は妙に清々しく、信頼の程が伺える。その態度に思うことがあった三人は誰からともなく視線を合わせ、一斉に吹き出した。
「な、なんだよ・・・」
これまでにも見たことがある三人の妙な結束に良い気がしない樫野は、きまりが悪そうに毒づくのだった。
「一つ一つ見ていこう。まずは生地だけど・・・これはパート・シュクレだね?」
「うん。焼き色の濃いタルトにしたくて」
タルト生地は大まかにパート・シュクレ、パータ・フォンセ、パート・サブレの三種に分かれるが、パート・シュクレに比べパータ・フォンセは砂糖控えめで甘みがなく、パート・サブレはバターが多い等の違いがある。
「なるほど・・・パート・シュクレは苺タルトにはベストチョイスだと僕も思うよ」
生地それ自体も味や食感といい、しっかりできている。樹は改めてタルトの中に敷き詰められたクリームを口にした。
「クリームはこれ・・・クレーム・フラジパンヌよね」
「なにそれ?」
いちごが首を傾げるので、樹はつんのめりそうになった。
「これ、カスタードとアーモンドクリームを両方混ぜて作ったやつなんだけど・・・両方のクリームを味わいたくって!」
「それがクレーム・フラジパンヌだ!知らないで作ってたのか・・・?」
無邪気に告げるいちごを、樫野は信じられないような目で見る。この期に及んで底が知れない女だ。花房と安堂も改めてクリームを口に入れた。
「繊細な風味のクレーム・フラジパンヌなら・・・」
「フルーツとの相性もばっちり・・・」
「最高の組み合わせですう・・・」
キャラメルも自分の身体ほどあるタルトを一つまるごと食べきり、丸々としている。他のスピリッツたちは恐れをなしたようにその姿を遠巻きに見ていた。
「タルト生地も中のクリームもそこそこ出来てるってわけか・・・」
「そこそこ・・・」
樫野の総括に、いちごはやはり複雑な面持ちをする。
「となると、上に乗せる苺、もしくは苺を使ったコンフィチュールに改善の余地がありそうだな」
「うん。樫野の言う通り、あたしが納得いかないのもそこなの」
「安物の苺でも使ったんじゃないですの?」
「いちごはそんなもん使ってないもん!」
追求に疲れたショコラがつい疑うのも無理のない話ではあるが、改めて食べてみても苺そのものは悪いものではないと皆口を揃えた。いよいよ行き詰まりを感じたいちごは思わず溜息を吐く。
「はあ・・・おばあちゃんの育ててたあの苺があればなあ・・・あの味は本当に特別だった・・・」
「品種は何だったか覚えてないの?」
「実の大きさとか、形とか」
「うーん・・・子どもだったし、品種は気にしてなかったよ・・・見た目とかも、見つけたら『これだー!』ってなるかもしれないんだけど・・・」
花房と樹の質問にも渋い顔をする。さすがのいちごでもそこまで細かい記憶をたどるのは厳しい。
「そっか・・・でも苺探しなら僕らも一緒に手伝うからさ。根気よく探そうよ」
安堂は尚もフォローの姿勢を崩さない。親切な言葉にいちごの表情も少しだけ晴れたような気がした。
「ありがとう。でも、苺探しはあたし一人でやるよ。それに見つかるかどうか・・・」
「天野!」
「え?」
不意に、樫野が鋭い声をあげた。
「これから決勝を戦おうって時に、そんなネガティブでどうするんだよ。作り手の気持ちはスイーツに表れる」
樫野の目が、不安で揺らぐいちごの瞳をしっかりと見据えていた。動揺したいちごは思わず俯いてしまう。
「今の天野じゃ人を笑顔にするどころか、不安にする味しか作り出せないぜ」
いちごの目標や夢を知っているからこそ告げられる言葉が痛い。これ以上どうやって進めばよいか分からない現状。さっきから何度も吐いてしまった弱音。胸がいっぱいになったいちごの目から涙が零れた。
「・・・あたし、ちょっと外の空気吸ってくる!」
「待っていちご・・・!」
いちごは駆け出して調理室の外へ消え、それをバニラが追いかけていった。樹は少し気になるように短く息を吐き、花房と安堂がさすがに気遣うような表情を見せる。
「僕らも追いかけた方が・・・」
「心配ねえよ。今の天野は前ほど弱くない」
言い切った樫野の表情は妙に清々しく、信頼の程が伺える。その態度に思うことがあった三人は誰からともなく視線を合わせ、一斉に吹き出した。
「な、なんだよ・・・」
これまでにも見たことがある三人の妙な結束に良い気がしない樫野は、きまりが悪そうに毒づくのだった。