41話 予期せぬ帰還
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「樹ちゃんに負けてられないからね、僕もマカロン作ってみたよ」
聖マリー学園パリ本校の調理室もいよいよ馴染んできた。今日も5人の中からいつものように何かが生み出され、そして消費されてゆく。
名指しされた樹は、その声にいち早く反応した。
「10分後にいただくわ」
「俺は今食べる」
「僕も」
ライトの下で黙々と飴の花びらを形づくっている樹を差し置いて、今しがたオーブンに生地を突っ込んだところの樫野と安堂が花房のもとへ向かっていく。皿の上に並べられたマカロンを手に、樫野はまずその外見を眺めた。
「・・・ツヤもピエも上手く出てる」
「表面はさっくり、中はしっとり。美味しく焼けてるよ」
口にした安堂も頷き、花房はほっとする。
「ありがとう———あれ、いちごちゃんは?」
「ああ、そういえば一番最初に来そうな奴がいないな・・・おい、天野!」
違和感に気付いた樫野が調理室の端に向かって声をあげた。様子を見ようとそのまま近付いたところで、信じられないような景色を目の当たりにする。
「げっ・・・なんだこの苺タルトだらけは・・・!」
大きな調理台の一面、一人分サイズのいちご流苺タルトで埋め尽くされている。どの品も最後までデコレーションが施された紛れもない完成品だ。
「ず、ずいぶん作ったんだね・・・」
「今日の夕飯は決まりだな・・・」
花房と安堂も様子を見て絶句する中で、樫野が嫌なことを言う。
「苺タルト、あたしなりにチャレンジしてみたんだけど、どうしても納得いかなくて・・・」
いちごはこの調理台だけでは足りないとでも言わんばかりだ。隣の調理台に一瞬目が向いた気がして、樫野が何となくそれを遮るように移動する。
「そう?美味しそうに見えるけど・・・」
安堂が出来栄えを一瞥して言うと、いちごが試食を勧めるので三人とスピリッツ達はフォーク片手に皿を頂戴した。
「・・・うん、悪くないと思うよ」
「これって完成に近いんじゃない?」
「ああ・・・言うなればどこにでもある平凡な味だな」
「平凡・・・」
安堂と花房が当たり障りの無い感想を述べた後に告げられた樫野の批評に、いちごは頭を打たれたように落ち込む。調理台を埋め尽くす程手をかけた結果がこれでは致し方ない。いちごのメンタルを守るため、安堂と花房は慌てて樫野の口を塞ぎ押さえた。
「樫野、はっきり言いすぎだって」
「いや、はっきり言ってやらなきゃだめだろ!世界ケーキグランプリのレベルの高さを考えたら、この苺タルトじゃ勝負にならねえ!」
しかし、樫野は二三度もがいただけで拘束を脱し強く述べる。
「そうね、はっきり言うべきよ。時期的にも」
いつの間にか自分の作業を終えていた樹が会話に加わった。早くも苺タルトにフォークを入れ、味を確認し終えている。
「普通に美味しいけれど、テーマ性を度外視した純粋な単品勝負になったとして、天王寺さんにしろフランソワにしろ、あの人たちが作るスイーツの奥行きや深みにまるで対抗できる要素がないわ」
「やっぱそうだよね・・・」
辛辣なコメントを受け、いちごは切なげにタルトの皿を持ち上げて見つめる。
「おばあちゃんのレシピに頼らないで自分なりに頑張ってみたけど、あたしの実力なんてこの程度・・・」
「あのね、そうじゃないでしょ?そもそもなんでこのタルトを作りたかったのか思い出しなさいよ」
「そうだよ。ここまで仕上がってるんだしさ、後は更に美味しくなるように考えていけば大丈夫だよ」
落ち込んでいる場合ではないと前を向かせようとする樹の言葉に同調し、安堂も明るい声をあげた。
聖マリー学園パリ本校の調理室もいよいよ馴染んできた。今日も5人の中からいつものように何かが生み出され、そして消費されてゆく。
名指しされた樹は、その声にいち早く反応した。
「10分後にいただくわ」
「俺は今食べる」
「僕も」
ライトの下で黙々と飴の花びらを形づくっている樹を差し置いて、今しがたオーブンに生地を突っ込んだところの樫野と安堂が花房のもとへ向かっていく。皿の上に並べられたマカロンを手に、樫野はまずその外見を眺めた。
「・・・ツヤもピエも上手く出てる」
「表面はさっくり、中はしっとり。美味しく焼けてるよ」
口にした安堂も頷き、花房はほっとする。
「ありがとう———あれ、いちごちゃんは?」
「ああ、そういえば一番最初に来そうな奴がいないな・・・おい、天野!」
違和感に気付いた樫野が調理室の端に向かって声をあげた。様子を見ようとそのまま近付いたところで、信じられないような景色を目の当たりにする。
「げっ・・・なんだこの苺タルトだらけは・・・!」
大きな調理台の一面、一人分サイズのいちご流苺タルトで埋め尽くされている。どの品も最後までデコレーションが施された紛れもない完成品だ。
「ず、ずいぶん作ったんだね・・・」
「今日の夕飯は決まりだな・・・」
花房と安堂も様子を見て絶句する中で、樫野が嫌なことを言う。
「苺タルト、あたしなりにチャレンジしてみたんだけど、どうしても納得いかなくて・・・」
いちごはこの調理台だけでは足りないとでも言わんばかりだ。隣の調理台に一瞬目が向いた気がして、樫野が何となくそれを遮るように移動する。
「そう?美味しそうに見えるけど・・・」
安堂が出来栄えを一瞥して言うと、いちごが試食を勧めるので三人とスピリッツ達はフォーク片手に皿を頂戴した。
「・・・うん、悪くないと思うよ」
「これって完成に近いんじゃない?」
「ああ・・・言うなればどこにでもある平凡な味だな」
「平凡・・・」
安堂と花房が当たり障りの無い感想を述べた後に告げられた樫野の批評に、いちごは頭を打たれたように落ち込む。調理台を埋め尽くす程手をかけた結果がこれでは致し方ない。いちごのメンタルを守るため、安堂と花房は慌てて樫野の口を塞ぎ押さえた。
「樫野、はっきり言いすぎだって」
「いや、はっきり言ってやらなきゃだめだろ!世界ケーキグランプリのレベルの高さを考えたら、この苺タルトじゃ勝負にならねえ!」
しかし、樫野は二三度もがいただけで拘束を脱し強く述べる。
「そうね、はっきり言うべきよ。時期的にも」
いつの間にか自分の作業を終えていた樹が会話に加わった。早くも苺タルトにフォークを入れ、味を確認し終えている。
「普通に美味しいけれど、テーマ性を度外視した純粋な単品勝負になったとして、天王寺さんにしろフランソワにしろ、あの人たちが作るスイーツの奥行きや深みにまるで対抗できる要素がないわ」
「やっぱそうだよね・・・」
辛辣なコメントを受け、いちごは切なげにタルトの皿を持ち上げて見つめる。
「おばあちゃんのレシピに頼らないで自分なりに頑張ってみたけど、あたしの実力なんてこの程度・・・」
「あのね、そうじゃないでしょ?そもそもなんでこのタルトを作りたかったのか思い出しなさいよ」
「そうだよ。ここまで仕上がってるんだしさ、後は更に美味しくなるように考えていけば大丈夫だよ」
落ち込んでいる場合ではないと前を向かせようとする樹の言葉に同調し、安堂も明るい声をあげた。