41話 予期せぬ帰還
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「熱っ・・・!」
シャッターの降りた元グラスリーのキッチンから、パリの夜に似つかわしくない焦げ臭い匂いが漂っている。まただ、とアリスが匂いを薙ぎ払うように手を振ると、フライパンの上の焦げた生地が匂いごと消えた。
あれから1年近く経つだろうか。
アリスはいま、華の都パリで夜な夜なキッチンに立っている。重なる失敗の痕跡を何度消したか分からない。日本校にいた時と比べて進歩しているのかどうかも分からない。それでも、手を動かした分だけ前に進んでいると信じるしかない。
「せめて、樹のパリ留学が決まるまでに・・・」
アリスは両頬を手の平で二度叩いた。
ずっと考えていたことがある。
スイーツ王国に戻り、もう一度正式にスプーンを貰うことができたなら、自分はやっと、胸を張って彼女のパートナーを名乗れるはずだ。
そのためには、自分の力でまともにケーキを作れるようにならなければいけない。
「いつか、アリスが作ったスイーツを食べてみたい」
目を閉じたアリスの脳裏に、いつかスイーツ王国で見た銀色の髪とすみれ色の瞳が過る。
スイーツ王国での修行が始まる少し前ぐらいのことだっただろうか。
力を制御できず飛び回っている内に迷い込んだ広大な庭の片隅、小さな花を眺める姿があった。
勢い良く目の前に飛び出したアリスに何故ここにいるのか、と聞く声が優しかった。
聞かれることに答える内に自然と心を開いていて、気がつけば今までのことやこれからのこと、何でも彼に喋っていた。
しばらくそんな他愛ない話のためにアリスは庭に通っていたが、修行が始まって足は遠のいた。
後で知ったのだが、その人はスイーツ王国の中でもいっとう特別な存在だった。
きっと、アリスと話したことなど覚えていないだろう。
それでも、アリスにとってはスイーツ王国で唯一の「誰か」との思い出だった。
こうしてまた頑張れば、あの時の言葉も現実にすることはできるだろうか。
そうだったらいい、と思いながらアリスは卵を割った。
人間がみな寝静まる暗がりの中、自らが立てる音だけを相棒にお菓子作りは続く。
シャッターの降りた元グラスリーのキッチンから、パリの夜に似つかわしくない焦げ臭い匂いが漂っている。まただ、とアリスが匂いを薙ぎ払うように手を振ると、フライパンの上の焦げた生地が匂いごと消えた。
あれから1年近く経つだろうか。
アリスはいま、華の都パリで夜な夜なキッチンに立っている。重なる失敗の痕跡を何度消したか分からない。日本校にいた時と比べて進歩しているのかどうかも分からない。それでも、手を動かした分だけ前に進んでいると信じるしかない。
「せめて、樹のパリ留学が決まるまでに・・・」
アリスは両頬を手の平で二度叩いた。
ずっと考えていたことがある。
スイーツ王国に戻り、もう一度正式にスプーンを貰うことができたなら、自分はやっと、胸を張って彼女のパートナーを名乗れるはずだ。
そのためには、自分の力でまともにケーキを作れるようにならなければいけない。
「いつか、アリスが作ったスイーツを食べてみたい」
目を閉じたアリスの脳裏に、いつかスイーツ王国で見た銀色の髪とすみれ色の瞳が過る。
スイーツ王国での修行が始まる少し前ぐらいのことだっただろうか。
力を制御できず飛び回っている内に迷い込んだ広大な庭の片隅、小さな花を眺める姿があった。
勢い良く目の前に飛び出したアリスに何故ここにいるのか、と聞く声が優しかった。
聞かれることに答える内に自然と心を開いていて、気がつけば今までのことやこれからのこと、何でも彼に喋っていた。
しばらくそんな他愛ない話のためにアリスは庭に通っていたが、修行が始まって足は遠のいた。
後で知ったのだが、その人はスイーツ王国の中でもいっとう特別な存在だった。
きっと、アリスと話したことなど覚えていないだろう。
それでも、アリスにとってはスイーツ王国で唯一の「誰か」との思い出だった。
こうしてまた頑張れば、あの時の言葉も現実にすることはできるだろうか。
そうだったらいい、と思いながらアリスは卵を割った。
人間がみな寝静まる暗がりの中、自らが立てる音だけを相棒にお菓子作りは続く。