41話 予期せぬ帰還
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どうやら自分は、他の子とは違うらしい。
そのことにアリスが気付くまで、そう長い時間はかからなかった。
まだ小さい頃、アリスは自分のお母さんとお父さんを知らない子供たちの中で育てられていた。
でも、寂しくなかった。喋りたいと思えばお気に入りの人形と喋れたし、遠くに行きたければ一瞬で飛んで行き、帰ってこれた。楽しい思いつきはなんでも形になった。
そうしたことを他の子供たちはできなかった。だから一緒に遊ぼうと思っても、何かが噛み合わない。
みんなが楽しそうにしていることを、楽しいと思えない。
自分と同じように遊ぶ力を、誰も持っていない。
違うのだ。そのことを自然と確信していた。
同じ年頃のスピリッツ達と揃ってスイーツ修行の時期を迎える頃には、与えられたスプーンも使わずにどんなものも曲げたり伸ばしたり飛ばしたりできた。
他の子と同じように好きなものが一つだけ、それがスイーツだった。
だから、宮廷パティシエに憧れていたし、不思議な力が強い自分には造作も無いことだと思っていた。
だけど、どうしたことかその力はお菓子作りには全く効果を発揮しなかった。
卵を割る力加減がどうにも分からない。火の扱いだって強すぎたと思えば弱すぎる。ものを混ぜる順序、回数、時間、そういったものが全く頭に入ってこない。
詰まるところ下手くそだった。
アリスにはそれが耐えられなかった。
「人とは違う」それが優れている意味だという自負だけがあった。それを大切に守ってきたというのに、崩れていく感覚があった。崩れた先にあるのは、ただの孤独だ。
宮廷パティシエを目指す一般的なスピリッツは、修行の一環で人間界に送られる時期があり、そこで同じくパティシエを目指す人間の学生を一人パートナーに選び、共に学ぶのだ。
人間界に送るだけの資格が無いのではないか、と囁かれているのを知っていた。
受けた試験はどれも惜しいところにすら届かず不合格。周りのスピリッツが「人間界に行ったらあれをしたい」などと話しているのが喧しい。
自分だけが夢に近づけない。
みんなが自分を蔑んでいると思った。
ああ、ここは私の居場所ではないのだ。
気付いた瞬間は、自由になった心地すらした。
姿だって変えられる、力を使うのに道具も要らない、パティシエになるつもりだって本当はないのだ。
ここでなければ、と強く願うと同時、皆とお揃いのスプーンに小さくヒビが入った。これだって、こんな与えられた力だって自分には必要じゃない。何度か力を込めて念じると、スプーンは柄のところでパキリと真っ二つに折れ、草が覆う地面に転がった。
それを拾い上げる指先はしなやかに長く、もはやアリスの姿形は妖精族のものではなかった。
傍らに菫の花が咲いている。
それを見たとき、そういえば一度だけ、一人だけ、自分を見てくれた人がいたなとアリスは思い出した。
妖精族ではない、ちょうど今のアリスと似た姿の。
菫色の目をしていた。
あの人が、私のスイーツを食べてみたいと言ったんだっけ。
アリスは記憶の底に眠る彼の朧げな姿の輪郭を象ろうとして、やめた。
あいにくと彼の言葉は、叶いそうにない。
そのことにアリスが気付くまで、そう長い時間はかからなかった。
まだ小さい頃、アリスは自分のお母さんとお父さんを知らない子供たちの中で育てられていた。
でも、寂しくなかった。喋りたいと思えばお気に入りの人形と喋れたし、遠くに行きたければ一瞬で飛んで行き、帰ってこれた。楽しい思いつきはなんでも形になった。
そうしたことを他の子供たちはできなかった。だから一緒に遊ぼうと思っても、何かが噛み合わない。
みんなが楽しそうにしていることを、楽しいと思えない。
自分と同じように遊ぶ力を、誰も持っていない。
違うのだ。そのことを自然と確信していた。
同じ年頃のスピリッツ達と揃ってスイーツ修行の時期を迎える頃には、与えられたスプーンも使わずにどんなものも曲げたり伸ばしたり飛ばしたりできた。
他の子と同じように好きなものが一つだけ、それがスイーツだった。
だから、宮廷パティシエに憧れていたし、不思議な力が強い自分には造作も無いことだと思っていた。
だけど、どうしたことかその力はお菓子作りには全く効果を発揮しなかった。
卵を割る力加減がどうにも分からない。火の扱いだって強すぎたと思えば弱すぎる。ものを混ぜる順序、回数、時間、そういったものが全く頭に入ってこない。
詰まるところ下手くそだった。
アリスにはそれが耐えられなかった。
「人とは違う」それが優れている意味だという自負だけがあった。それを大切に守ってきたというのに、崩れていく感覚があった。崩れた先にあるのは、ただの孤独だ。
宮廷パティシエを目指す一般的なスピリッツは、修行の一環で人間界に送られる時期があり、そこで同じくパティシエを目指す人間の学生を一人パートナーに選び、共に学ぶのだ。
人間界に送るだけの資格が無いのではないか、と囁かれているのを知っていた。
受けた試験はどれも惜しいところにすら届かず不合格。周りのスピリッツが「人間界に行ったらあれをしたい」などと話しているのが喧しい。
自分だけが夢に近づけない。
みんなが自分を蔑んでいると思った。
ああ、ここは私の居場所ではないのだ。
気付いた瞬間は、自由になった心地すらした。
姿だって変えられる、力を使うのに道具も要らない、パティシエになるつもりだって本当はないのだ。
ここでなければ、と強く願うと同時、皆とお揃いのスプーンに小さくヒビが入った。これだって、こんな与えられた力だって自分には必要じゃない。何度か力を込めて念じると、スプーンは柄のところでパキリと真っ二つに折れ、草が覆う地面に転がった。
それを拾い上げる指先はしなやかに長く、もはやアリスの姿形は妖精族のものではなかった。
傍らに菫の花が咲いている。
それを見たとき、そういえば一度だけ、一人だけ、自分を見てくれた人がいたなとアリスは思い出した。
妖精族ではない、ちょうど今のアリスと似た姿の。
菫色の目をしていた。
あの人が、私のスイーツを食べてみたいと言ったんだっけ。
アリスは記憶の底に眠る彼の朧げな姿の輪郭を象ろうとして、やめた。
あいにくと彼の言葉は、叶いそうにない。