39話 自分の味で
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「今日はクタクタだよー!しっかり寝て、明日また頑張ろう!」
アパルトマンに戻り、寝る準備をしていちごと樹は一緒に寝室に入った。すぐさまベッドに転がったいちごが、大きく息を吐いている。樹はその姿に労うような笑みを向けて、遅れてベッドに腰を下ろした。
「結局、レシピが消えていた原因は?」
「あのレシピはね、宮廷レシピ入りしてスイーツ王国に保管されてたみたいなの」
何だそれは、と樹が面食らう中、いちごは説明する。スピリッツと一緒に作り上げたレシピは、その素晴らしさが認められて宮廷レシピ入りすることがある。厳重な保管が要されるため、王宮の図書館に記録が全て持ち帰られるというのだ。
この世界の人間の著作権等は多分適用されていない。
何と言うか勝手な話に、樹は呆れ半分で笑いを漏らした。
「それで、保管されていたレシピをどうしたの?所在だけ確認して終わり?それでいちごは納得したの?」
「ううん、図書館の館長さんがこのレシピ帳にレシピを返してくれたの。スイーツ王国の言葉になってるけど・・・このままでもいいかな、と思うの」
「そう・・・」
完全とは言えないが、おばあちゃんの思い出はひとまずレシピ帳の中に帰ってきたらしい。自分の味で勝負すると決めたいちごには、却ってその方が良いようだった。樹も、勝手に持っていかれたレシピは一応取り戻されたということで、納得できた。
樹にとっては、思い出の品に手を出されたという事実が一番引っかかっている部分だったのだ。
「その館長さんね、わたしのおばあちゃんのパートナーだったんだって」
「え?」
「レシピ帳の鍵も、前にスイーツ王国に行った時その人がくれたの。おばあちゃんのレシピを託しても良いか、わたしのこと見てたみたい」
「そうだったの・・・」
「それでね!樹ちゃん!」
突然思い出したように、いちごは身体を起こして樹の方をまっすぐ見た。
「その人が言ってたの!わたしのおばあちゃんと樹ちゃんのおばあちゃんは、友達だったんだって!」
「う・・・うそ」
「その人と、樹ちゃんのおばあちゃんのパートナーも仲良しで、よく一緒にケーキ作ってたって。そのスピリッツももう亡くなっちゃったらしいんだけど・・・樹ちゃんのおばあちゃんはね、怒るとすごくこわかったんだって!」
笑いを隠し切れないといった感じで、嬉々として語るいちごを唖然として見つめながら、樹は不意に胸が熱くなる気がした。
おばあちゃんにもスピリッツのパートナーがいた。
あの不思議なスイーツ王国に、おばあちゃんのことを知っている人がいるなんて。
そして———
「もしかしたら」
樹は、ぽつりと呟く。胸が締め付けられるような心地だったが、歯を見せて笑っているいちごに釣られて、破顔する。少しだけ泣きそうな笑顔が溢れた。
「聖マリーでいちごのおばあちゃんやスピリッツと出会ったから、おばあちゃんはこの学校が好きになったのかもしれない。私を入れたいと思ったのかもしれない」
少し時間がかかったけれど、祖母の歩いた道が確かに自分の軌跡と重なっている。妙に感慨を覚えてしまって、静かに目を潤ませている樹を見て、いちごも釣られて涙腺を緩ませる。
「樹ちゃんのおばあちゃんは、すごく仲間思いだったんだって。よく人のことを見てて、厳しいことも言うけれど、みんなから好かれてたって」
いちごは、そう続けて樹に向かっていつもの底抜けに明るい笑顔で、にっこりと笑ってみせた。
「樹ちゃんにそっくりだよ!」
その言葉を聞いて、樹は余計に瞳を潤ませる。
嬉しい。
嬉しくて、温かくて、何だかなつかしい。
樹の胸に、むかし家のキッチンで祖母と並んでケーキを作っていたときの記憶が甦る。
チョコレートの匂い、鼻先にかかる湯気の熱さ、祖母に支えてもらうボウルの大きさ。
リビングで話す両親の声。
「まあまあ、今日も樹はお義母さんとケーキ作り?」
「今日は休みの日だから一日中作れるって、すごいやる気だぞ」
「外で遊ぶより、よっぽど楽しいのね」
「本当に樹は、母さんそっくりだなあ!」
記憶の中の祖母が笑う。たどたどしくゴムベラを操る小さな樹も、はにかむように笑う。二人の頭上にはキラキラとした優しげな光が、友を見守るように、微かに零れていた。
アパルトマンに戻り、寝る準備をしていちごと樹は一緒に寝室に入った。すぐさまベッドに転がったいちごが、大きく息を吐いている。樹はその姿に労うような笑みを向けて、遅れてベッドに腰を下ろした。
「結局、レシピが消えていた原因は?」
「あのレシピはね、宮廷レシピ入りしてスイーツ王国に保管されてたみたいなの」
何だそれは、と樹が面食らう中、いちごは説明する。スピリッツと一緒に作り上げたレシピは、その素晴らしさが認められて宮廷レシピ入りすることがある。厳重な保管が要されるため、王宮の図書館に記録が全て持ち帰られるというのだ。
この世界の人間の著作権等は多分適用されていない。
何と言うか勝手な話に、樹は呆れ半分で笑いを漏らした。
「それで、保管されていたレシピをどうしたの?所在だけ確認して終わり?それでいちごは納得したの?」
「ううん、図書館の館長さんがこのレシピ帳にレシピを返してくれたの。スイーツ王国の言葉になってるけど・・・このままでもいいかな、と思うの」
「そう・・・」
完全とは言えないが、おばあちゃんの思い出はひとまずレシピ帳の中に帰ってきたらしい。自分の味で勝負すると決めたいちごには、却ってその方が良いようだった。樹も、勝手に持っていかれたレシピは一応取り戻されたということで、納得できた。
樹にとっては、思い出の品に手を出されたという事実が一番引っかかっている部分だったのだ。
「その館長さんね、わたしのおばあちゃんのパートナーだったんだって」
「え?」
「レシピ帳の鍵も、前にスイーツ王国に行った時その人がくれたの。おばあちゃんのレシピを託しても良いか、わたしのこと見てたみたい」
「そうだったの・・・」
「それでね!樹ちゃん!」
突然思い出したように、いちごは身体を起こして樹の方をまっすぐ見た。
「その人が言ってたの!わたしのおばあちゃんと樹ちゃんのおばあちゃんは、友達だったんだって!」
「う・・・うそ」
「その人と、樹ちゃんのおばあちゃんのパートナーも仲良しで、よく一緒にケーキ作ってたって。そのスピリッツももう亡くなっちゃったらしいんだけど・・・樹ちゃんのおばあちゃんはね、怒るとすごくこわかったんだって!」
笑いを隠し切れないといった感じで、嬉々として語るいちごを唖然として見つめながら、樹は不意に胸が熱くなる気がした。
おばあちゃんにもスピリッツのパートナーがいた。
あの不思議なスイーツ王国に、おばあちゃんのことを知っている人がいるなんて。
そして———
「もしかしたら」
樹は、ぽつりと呟く。胸が締め付けられるような心地だったが、歯を見せて笑っているいちごに釣られて、破顔する。少しだけ泣きそうな笑顔が溢れた。
「聖マリーでいちごのおばあちゃんやスピリッツと出会ったから、おばあちゃんはこの学校が好きになったのかもしれない。私を入れたいと思ったのかもしれない」
少し時間がかかったけれど、祖母の歩いた道が確かに自分の軌跡と重なっている。妙に感慨を覚えてしまって、静かに目を潤ませている樹を見て、いちごも釣られて涙腺を緩ませる。
「樹ちゃんのおばあちゃんは、すごく仲間思いだったんだって。よく人のことを見てて、厳しいことも言うけれど、みんなから好かれてたって」
いちごは、そう続けて樹に向かっていつもの底抜けに明るい笑顔で、にっこりと笑ってみせた。
「樹ちゃんにそっくりだよ!」
その言葉を聞いて、樹は余計に瞳を潤ませる。
嬉しい。
嬉しくて、温かくて、何だかなつかしい。
樹の胸に、むかし家のキッチンで祖母と並んでケーキを作っていたときの記憶が甦る。
チョコレートの匂い、鼻先にかかる湯気の熱さ、祖母に支えてもらうボウルの大きさ。
リビングで話す両親の声。
「まあまあ、今日も樹はお義母さんとケーキ作り?」
「今日は休みの日だから一日中作れるって、すごいやる気だぞ」
「外で遊ぶより、よっぽど楽しいのね」
「本当に樹は、母さんそっくりだなあ!」
記憶の中の祖母が笑う。たどたどしくゴムベラを操る小さな樹も、はにかむように笑う。二人の頭上にはキラキラとした優しげな光が、友を見守るように、微かに零れていた。