7話 パティシエのパートナー
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「だいたい、なぜあなたがAグループなんですの!?納得いきませんわ!」
謎の小さい少女の攻撃はおさまらない。樹は呆然と彼女が宙に浮きながら喚く様を見守っていた。いちごは困惑しながらそんなこと言われても、と正直に漏らす。
その言葉に三人が反応した。
「えっ?」
「いちごちゃん・・・?」
「天野おまえ、まさかこれが見えるのか?」
「えっ?えー・・・」
続いて、いちごの胸ポケットからも少女が飛び出した。黒髪ロングの先方とは違い、金髪の巻き毛だ。
「ショコラ!いい加減にしなさいよ!」
「バ、バニラ!」
二体の少女はフォークとスプーン、それぞれの得物を手に激しいチャンバラをはじめる。花房は呆然と呟いた。
「いちごちゃんにもスイーツスピリッツがついていたなんて・・・」
「う、うん・・・」
「スイーツスピリッツですって・・・これが!?」
「えっ、樹ちゃん・・・?」
樹は動揺して大声を上げた。その音に、飴屋先生が振り返る。いちごはとっさに、2体の上にボウルをかぶせて隠した。先生は特に異常がないのを見て、向き直る。
「大丈夫だ。他の人には見えていない。見えるのは、スイーツスピリッツのついている人だけ」
安堂が言い、花房がボウルを持ち上げると、クリームまみれになった2体が恨めしそうにいちごを見上げていた。実は転校初日にスピリッツのバニラと出会い、行動をともにしていたいちごは、花房や安堂にも彼らが見えることに驚いた。しかし、樹にはそれ以前の問題だった。
「待って、私にはこのちびっこいのが見えるわよ」
樹は落ち着いた声色で言った。
「東堂さんもだったなんて・・・で、そっちのパートナーは・・・?」
「けど・・・私、こんなのついてないわよ」
樹はてきぱきと言い、四人はあぜんとした。
五人は再び夜に調理室へやってきた。スイーツスピリッツについて今一度確認をするためだ。いちごと樫野が早速既に顔合わせをしたバニラとショコラを紹介したが、二人は再び取っ組み合いのけんかをはじめる。
「落ちこぼれコンビ!」
「気取りやペア!」
「やめてー!けんかしないでー!あああああ!」
安堂のポケットから仲裁に飛び出したスピリッツがいると思えば、着地に失敗して流しに転がり込んでいった。少々ドジな子らしい。
「うえーん、痛いですぅ・・・」
「大丈夫?」
「まったく、しょうがないな。この子、僕のパートナー、キャラメル」
「こ、こんばんはです・・・」
バニラやショコラに欠けている純粋な可愛らしさを持ち合わせた様子に、いちごは目を輝かせる。樹はといえば、押し黙ったままスピリッツを鋭い目つきで観察していたので、キャラメルはすくみ上がった。安堂は苦笑した。
「東堂さん、威嚇しない」
「は?見てるだけなんだけど」
「僕らはみんな精霊界の同期なんです。バニラとショコラはむこうでもよくけんかしていました」
花房の手のひらには、やたらと行儀の良い小さな男の子が乗っている。完全にフォロー役のポジションにあるようだ。落ち着き方のレベルが違う。
「彼は、カフェ君」
「Bonsoir,いちご、樹」
「よろしく!」
「・・・どうも」
樹は新たな出会いにウキウキしている様子のいちごと対照的にスイーツ王子の耳に濃厚に残る言葉で短く応じた。転校初日の教室で、ほとんど樹はその一言で会話を成り立たせていたのだ。口癖なのかもしれない。
「この学園と精霊界はあちこちでつながっていて、僕ら、修行のために出てくるんです」
カフェが樹に近づいて丁寧な説明を施す。だから精霊界とか普通に言われても困るのだが、と樹は眉をひそめる。いちごが元気よく口を挟んだ。
「あたしそれ知ってる!人間とペアを組んで、スイーツの練習をするんでしょ?宮廷パティシエになるために!」
「宮廷パティシエ!」
その言葉に、スピリッツ達四人は目を輝かせた。それを見ていると、なかなか精神年齢は人間換算でいくと低そうだった。
「みんな、本当にパティシエになりたいんだね!」
「僕たちだって、そうだろ?」
「そういえば!安堂君は実家の和菓子屋さんの隣に、和洋をドッキングさせたお店を出すのが夢だったね!」
「僕は、華道家の母と、衣食住のコーディネーターを目指しているんだ」
「俺は絶対、一流のパティシエになって、一流の店を持つ。だから、ここもトップで卒業する。しなきゃならないんだ」
「へえ・・・みんな具体的・・・東堂さんは?」
話題はいつの間にか夢の話に飛んでいた。樫野が目を背けるのが樹には確認できた。
「・・・・未定。もうちょっと身の振り方が定まってから決めようと思うの」
「なるほどね」
「あはは、あたしもそういうことにしとこ!」
ぼんやりとおいしいお菓子を作ってみんなを笑顔にさせたいな、などと思っていたいちごは、一番具体的な目標を作っていそうだと思っていた樹の言葉に少し驚きながらも、なんだか安心した。もっとも、『身の振り方』などという言葉をさらりと織り交ぜるやり方は、いちごには真似できなさそうだったが。
「とりあえず、論点がずれたわね。スピリッツの話をもう少ししてもらおうかしら」
樹は何でもないように話を戻しはじめたが、樫野は彼女が夢の話題を避けたいのだと感づいた。自分には告げた夢を、なんでここでは言わないのか聞いてみたい気もしたが、前のように何でもずけずけとつっこむわけにはいかなかった。この手の話題で、以前自分が彼女を傷つけたことは明白だったからだ。
人に言葉を投げかけることが怖いと思ったのは、初めてだった。
謎の小さい少女の攻撃はおさまらない。樹は呆然と彼女が宙に浮きながら喚く様を見守っていた。いちごは困惑しながらそんなこと言われても、と正直に漏らす。
その言葉に三人が反応した。
「えっ?」
「いちごちゃん・・・?」
「天野おまえ、まさかこれが見えるのか?」
「えっ?えー・・・」
続いて、いちごの胸ポケットからも少女が飛び出した。黒髪ロングの先方とは違い、金髪の巻き毛だ。
「ショコラ!いい加減にしなさいよ!」
「バ、バニラ!」
二体の少女はフォークとスプーン、それぞれの得物を手に激しいチャンバラをはじめる。花房は呆然と呟いた。
「いちごちゃんにもスイーツスピリッツがついていたなんて・・・」
「う、うん・・・」
「スイーツスピリッツですって・・・これが!?」
「えっ、樹ちゃん・・・?」
樹は動揺して大声を上げた。その音に、飴屋先生が振り返る。いちごはとっさに、2体の上にボウルをかぶせて隠した。先生は特に異常がないのを見て、向き直る。
「大丈夫だ。他の人には見えていない。見えるのは、スイーツスピリッツのついている人だけ」
安堂が言い、花房がボウルを持ち上げると、クリームまみれになった2体が恨めしそうにいちごを見上げていた。実は転校初日にスピリッツのバニラと出会い、行動をともにしていたいちごは、花房や安堂にも彼らが見えることに驚いた。しかし、樹にはそれ以前の問題だった。
「待って、私にはこのちびっこいのが見えるわよ」
樹は落ち着いた声色で言った。
「東堂さんもだったなんて・・・で、そっちのパートナーは・・・?」
「けど・・・私、こんなのついてないわよ」
樹はてきぱきと言い、四人はあぜんとした。
五人は再び夜に調理室へやってきた。スイーツスピリッツについて今一度確認をするためだ。いちごと樫野が早速既に顔合わせをしたバニラとショコラを紹介したが、二人は再び取っ組み合いのけんかをはじめる。
「落ちこぼれコンビ!」
「気取りやペア!」
「やめてー!けんかしないでー!あああああ!」
安堂のポケットから仲裁に飛び出したスピリッツがいると思えば、着地に失敗して流しに転がり込んでいった。少々ドジな子らしい。
「うえーん、痛いですぅ・・・」
「大丈夫?」
「まったく、しょうがないな。この子、僕のパートナー、キャラメル」
「こ、こんばんはです・・・」
バニラやショコラに欠けている純粋な可愛らしさを持ち合わせた様子に、いちごは目を輝かせる。樹はといえば、押し黙ったままスピリッツを鋭い目つきで観察していたので、キャラメルはすくみ上がった。安堂は苦笑した。
「東堂さん、威嚇しない」
「は?見てるだけなんだけど」
「僕らはみんな精霊界の同期なんです。バニラとショコラはむこうでもよくけんかしていました」
花房の手のひらには、やたらと行儀の良い小さな男の子が乗っている。完全にフォロー役のポジションにあるようだ。落ち着き方のレベルが違う。
「彼は、カフェ君」
「Bonsoir,いちご、樹」
「よろしく!」
「・・・どうも」
樹は新たな出会いにウキウキしている様子のいちごと対照的にスイーツ王子の耳に濃厚に残る言葉で短く応じた。転校初日の教室で、ほとんど樹はその一言で会話を成り立たせていたのだ。口癖なのかもしれない。
「この学園と精霊界はあちこちでつながっていて、僕ら、修行のために出てくるんです」
カフェが樹に近づいて丁寧な説明を施す。だから精霊界とか普通に言われても困るのだが、と樹は眉をひそめる。いちごが元気よく口を挟んだ。
「あたしそれ知ってる!人間とペアを組んで、スイーツの練習をするんでしょ?宮廷パティシエになるために!」
「宮廷パティシエ!」
その言葉に、スピリッツ達四人は目を輝かせた。それを見ていると、なかなか精神年齢は人間換算でいくと低そうだった。
「みんな、本当にパティシエになりたいんだね!」
「僕たちだって、そうだろ?」
「そういえば!安堂君は実家の和菓子屋さんの隣に、和洋をドッキングさせたお店を出すのが夢だったね!」
「僕は、華道家の母と、衣食住のコーディネーターを目指しているんだ」
「俺は絶対、一流のパティシエになって、一流の店を持つ。だから、ここもトップで卒業する。しなきゃならないんだ」
「へえ・・・みんな具体的・・・東堂さんは?」
話題はいつの間にか夢の話に飛んでいた。樫野が目を背けるのが樹には確認できた。
「・・・・未定。もうちょっと身の振り方が定まってから決めようと思うの」
「なるほどね」
「あはは、あたしもそういうことにしとこ!」
ぼんやりとおいしいお菓子を作ってみんなを笑顔にさせたいな、などと思っていたいちごは、一番具体的な目標を作っていそうだと思っていた樹の言葉に少し驚きながらも、なんだか安心した。もっとも、『身の振り方』などという言葉をさらりと織り交ぜるやり方は、いちごには真似できなさそうだったが。
「とりあえず、論点がずれたわね。スピリッツの話をもう少ししてもらおうかしら」
樹は何でもないように話を戻しはじめたが、樫野は彼女が夢の話題を避けたいのだと感づいた。自分には告げた夢を、なんでここでは言わないのか聞いてみたい気もしたが、前のように何でもずけずけとつっこむわけにはいかなかった。この手の話題で、以前自分が彼女を傷つけたことは明白だったからだ。
人に言葉を投げかけることが怖いと思ったのは、初めてだった。