39話 自分の味で
夢小説設定
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こうしてスピリッツ全員の同行が決定し、一同は揃ってパリ本校の調理室へ移動することにした。スイーツ王国に繋がっているのは学園のオーブンに限られているし、全員が練習しようと思ったら、オーブンが一つしかないアパルトマンは狭すぎる。
練習の準備をする四人の傍らで、スピリッツの魔法で小さくなったいちごは、開いたオーブンの蓋に引っ張り上げてもらっている。
「樹ちゃん」
小さい声でいちごに呼ばれて樹がオーブンに近付くと、いちごは少し不安そうな顔をして囁いた。
「樹ちゃんも、レシピ探しに行くの、反対?」
「・・・反対はしないわ。そもそも、こんな時にグランプリの他に気になることがあるっていうのが心配。あっちに行って解決してこられるのなら、むしろそうした方がいいんじゃないかしら」
「うん・・・」
結局賛成とも反対ともつかない樹の言葉に、いちごは不安の色が残る返事をする。樹は息を吐くと、人差し指でいちごの頭をつついた。
「まあ、気をつけて行ってらっしゃい」
その口元が優しげに緩んでいるのを確認したいちごは、ようやく安心して頷いた。見送ろうと側で待っていた安堂と花房に顔を向ける。
「安堂くん、花房くん、ごめんね・・・なるべく夜には戻ってくるから」
「うん」
「ほら!樫野もお見送り!」
「ん?ああ・・・」
安堂に言われて、樫野がオーブンの方を仕方無さそうに見る。その瞬間いちごは樫野に向かってあっかんべえをした。
「べーだ!」
「コノヤロ・・・」
思わずイラッとした樫野が何か言う前にオーブンの扉は閉まり、いちご達はスイーツ王国へと出発していった。オーブンの中が不思議な光で溢れて、消える。
出発を見届けた樫野はオーブンの前で肩を竦めた。
「どうかしてるだろ。決勝前の今になって、なんで今更あんなタルトのこと気にしなきゃいけねえんだよ」
「確かにそうよね」
樹は固い表情で同調する。いちごを援護したい気持ちと理性が拮抗しているのが明らかに伝わってくる顔を見て、花房と安堂も困った様に弱々しく笑った。
「でも、いちごは何というか、良くも悪くも全部が気持ちに左右されるでしょう。気になっていることがある状態で決勝に臨むよりはマシなんじゃないかしら」
「確かにね。気分がノッてて楽しそうなときや、ここ一番の集中が天野さんの発想力が生きる時だよね」
「それに、おばあちゃんの苺タルトはいちごちゃんの原点なんだよね。人間誰しも、ルーツを辿ることで困難に立ち向かえるというし」
「毎度のことだけど、お前よくそこまで利いた風なこと言えるな」
自分に言い聞かせる様に絞り出した樹の発言に二人も同調し、樫野は呆れながらも表情を少し和らげたようだった。
こうしていても仕方ない。四人は誰からともなく、自然と各々の練習を始めるべくオーブンに背を向けた。
土壇場でいちごのように超人的な発想を生むことができる可能性など、自分には万に一つもないと皆分かっている。信じられるのは、コンスタントに取り組み続けた努力から成る自分の技術力、ただそれだけだと分かっているから、こんな時こそ手を休められない。
練習の準備をする四人の傍らで、スピリッツの魔法で小さくなったいちごは、開いたオーブンの蓋に引っ張り上げてもらっている。
「樹ちゃん」
小さい声でいちごに呼ばれて樹がオーブンに近付くと、いちごは少し不安そうな顔をして囁いた。
「樹ちゃんも、レシピ探しに行くの、反対?」
「・・・反対はしないわ。そもそも、こんな時にグランプリの他に気になることがあるっていうのが心配。あっちに行って解決してこられるのなら、むしろそうした方がいいんじゃないかしら」
「うん・・・」
結局賛成とも反対ともつかない樹の言葉に、いちごは不安の色が残る返事をする。樹は息を吐くと、人差し指でいちごの頭をつついた。
「まあ、気をつけて行ってらっしゃい」
その口元が優しげに緩んでいるのを確認したいちごは、ようやく安心して頷いた。見送ろうと側で待っていた安堂と花房に顔を向ける。
「安堂くん、花房くん、ごめんね・・・なるべく夜には戻ってくるから」
「うん」
「ほら!樫野もお見送り!」
「ん?ああ・・・」
安堂に言われて、樫野がオーブンの方を仕方無さそうに見る。その瞬間いちごは樫野に向かってあっかんべえをした。
「べーだ!」
「コノヤロ・・・」
思わずイラッとした樫野が何か言う前にオーブンの扉は閉まり、いちご達はスイーツ王国へと出発していった。オーブンの中が不思議な光で溢れて、消える。
出発を見届けた樫野はオーブンの前で肩を竦めた。
「どうかしてるだろ。決勝前の今になって、なんで今更あんなタルトのこと気にしなきゃいけねえんだよ」
「確かにそうよね」
樹は固い表情で同調する。いちごを援護したい気持ちと理性が拮抗しているのが明らかに伝わってくる顔を見て、花房と安堂も困った様に弱々しく笑った。
「でも、いちごは何というか、良くも悪くも全部が気持ちに左右されるでしょう。気になっていることがある状態で決勝に臨むよりはマシなんじゃないかしら」
「確かにね。気分がノッてて楽しそうなときや、ここ一番の集中が天野さんの発想力が生きる時だよね」
「それに、おばあちゃんの苺タルトはいちごちゃんの原点なんだよね。人間誰しも、ルーツを辿ることで困難に立ち向かえるというし」
「毎度のことだけど、お前よくそこまで利いた風なこと言えるな」
自分に言い聞かせる様に絞り出した樹の発言に二人も同調し、樫野は呆れながらも表情を少し和らげたようだった。
こうしていても仕方ない。四人は誰からともなく、自然と各々の練習を始めるべくオーブンに背を向けた。
土壇場でいちごのように超人的な発想を生むことができる可能性など、自分には万に一つもないと皆分かっている。信じられるのは、コンスタントに取り組み続けた努力から成る自分の技術力、ただそれだけだと分かっているから、こんな時こそ手を休められない。