39話 自分の味で
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そのページは、明らかに異常だった。他のページにあるような情報量がごっそりと抜け落ちている。表題のガトー・ショコラを残したまま、まるで後からレシピを書いた部分のインクだけを吸い取ったかのように文字が不自然な消滅を遂げていたのだ。
樹たちも、驚きを隠せずに思わずソファから降りてテーブルのすぐ側に体を寄せる。ぽっかりと不気味に空いた白いページが、思い出した様に文字を現わすなどということはない。
「やっぱり、おばあちゃんのレシピ帳と同じだ!」
自室から件のレシピ帳を持ってきたいちごが、パリ本校の本と並べると、状況が酷似していることが分かった。いちごのレシピ帳も、他のページにはなんの異常も無いのに、その1ページだけがきれいに消え去っている。
「日本とフランス、遠く離れた場所で同じ様な消え方をしているなんて・・・」
安堂が首を捻る横で、図書館の本を取り上げた花房は文字が残っている隣のページに顔を寄せて観察する。
「こっちはすごく古いインクで書かれているね」
「そうだ!もしかしたら・・・!」
いちごはおもむろに花房から本を奪い取り、キッチンの方へ移動しはじめた。
「何をする気だ?」
不審に思った樫野が聞くと、いちごは得意気に答えた。
「炙り出しよ!探偵ドラマみたいに、大事なところは砂糖水で書いてあるのかも!」
「やめて!」
おもむろにコンロに火を点け、貴重な本を火に近づけはじめるいちごの行動に肝を潰した樹は素早く立ち上がって両腕でいちごの体を後ろに強く引いた。
「ちょ、ちょっとー!」
二人はそろって尻餅をつき、いちごの手は衝撃で本から離れた。放り出された本が敷物の上に落ち、その拍子に何かキラキラした粉のようなものが本から零れたように見えた。尻をついた痛みに眉を顰めつつも、樹は本から零れたものを凝視する。
「全く・・・丁寧に扱えよ」
呆れる樫野の横で、樹と同じくその鱗粉のような微かな輝きを目の当たりにしたスピリッツたちは、はっとして目を見張った。
「んっ?」
「これは・・・!」
近付いて粉をよく観察したスピリッツたちは、何か納得したように顔を見合わせている。
「僕たちスイーツスピリッツと同じものだ・・・」
「それも、私たちのものではありませんわ!」
「どういうことだい?」
花房が尋ねると、いつになく真面目な顔をしているキャラメルが告げた。
「消えてしまったレシピには、スイーツスピリッツが関わってるかもしれないですぅ」
樹はその言葉を聞いて妙に納得する。アリスのことを思い出したのだ。自在に魔法を使う彼女のことを考えれば、この程度のことはありそうな気がする。しかし、理由と目的が分からない。バニラたちもその辺りは見当がつかないようで、首を傾げている。
「何か訳があってレシピをスイーツ王国へ持ち帰ったとか!」
「考えられるけど、そんな話今まで聞いたことありませんし」
「だったら聞きにいってみようよ!」
いちごは敷物の上に膝をついたまま、おもむろにパチンと手を合わせて明るい声を挙げた。
「えっ?」
バニラが聞き返す。
「おばあちゃんのレシピ帳の鍵もスイーツ王国でもらったものだし・・・あの人はおばあちゃんのスピリッツだったのかもしれない!もしかしたら、消えたレシピのことを知ってるかも」
いちごの言っていることは分からないが、これまでにスイーツ王国絡みで何かあったらしい。次に何を言い出すか分かった気がして、樹は考え込みながら静かに立ち上がった。
「あたし、スイーツ王国に行ってみる!」
続いて勢い良く立ち上がったいちごがそう宣言すると、花房と安堂が困惑するような表情を浮かべた。
「本当に行く気なのかい?」
「今は決勝前の大事な時期なんだし、そんな時間は・・・」
「ううん、決勝の前だからなの。まだテーマも課題も発表されてないけど、もしできるなら、あたし決勝でおばあちゃんの苺タルトを作ってみたい!こんな素敵な苺があるんだし、レシピが分かればきっと、大好きだったおばあちゃんの苺タルトを再現できると思うの!」
渋い顔をされても怯む事無く主張するいちごの様子に、二人は気持ちを察してあっさりと表情を和らげた。
「そっか」
「天野さんがそこまで思ってるなら・・・」
「本当にそれでいいのか?俺がこのレシピ本を借りてきたのは、あくまで技術を参考にするためだ。同じものを作るためじゃない」
しかし、やはり樫野だけは厳しい視線を和らげることなく意見する。顔を曇らせたいちごはその言葉に思わず口をつぐんだ。
「俺たちパティシエは、他人が作ったものじゃなくて自分が作ったオリジナルの味で勝負すべきだ。俺はそう思うがな」
「それは・・・」
「とにかく、行くなら一人で行け。俺は俺でやることがたくさんあるんだ」
突き放すように言って背を向ける樫野に、いちごは一瞬傷ついたような顔を見せたが、すぐにふくれて意地を張るように声をあげた。
「いいもん!わたしは最初から一人で行くって言ってるんだし!樫野の助けなんて要りませんよーだ!」
「なっ・・・!」
その態度に樫野が思わず苛立ちを現わすのにも構わず、いちごは早急に事を運ぶべく、スピリッツに向かって膝をついた。
「お願い!」
「バニラは構わないけど・・・」
樫野の態度に思うところがあるのか、バニラは僅かに躊躇している様子だ。王国でどのように手がかりを探せばいいか分からないという不安もあるのだろう。安堂が、ちらちらと様子を伺っているキャラメルに気付いて微笑んだ。
「キャラメル、行ってあげて」
「了解ですぅ!バニラ一人じゃ心配ですぅ!」
「カフェくんも」
「ええ、お供します」
「わたしも消えたレシピが気になりますわ。樫野!よろしいですわね!」
「・・・好きにしろ」
樹たちも、驚きを隠せずに思わずソファから降りてテーブルのすぐ側に体を寄せる。ぽっかりと不気味に空いた白いページが、思い出した様に文字を現わすなどということはない。
「やっぱり、おばあちゃんのレシピ帳と同じだ!」
自室から件のレシピ帳を持ってきたいちごが、パリ本校の本と並べると、状況が酷似していることが分かった。いちごのレシピ帳も、他のページにはなんの異常も無いのに、その1ページだけがきれいに消え去っている。
「日本とフランス、遠く離れた場所で同じ様な消え方をしているなんて・・・」
安堂が首を捻る横で、図書館の本を取り上げた花房は文字が残っている隣のページに顔を寄せて観察する。
「こっちはすごく古いインクで書かれているね」
「そうだ!もしかしたら・・・!」
いちごはおもむろに花房から本を奪い取り、キッチンの方へ移動しはじめた。
「何をする気だ?」
不審に思った樫野が聞くと、いちごは得意気に答えた。
「炙り出しよ!探偵ドラマみたいに、大事なところは砂糖水で書いてあるのかも!」
「やめて!」
おもむろにコンロに火を点け、貴重な本を火に近づけはじめるいちごの行動に肝を潰した樹は素早く立ち上がって両腕でいちごの体を後ろに強く引いた。
「ちょ、ちょっとー!」
二人はそろって尻餅をつき、いちごの手は衝撃で本から離れた。放り出された本が敷物の上に落ち、その拍子に何かキラキラした粉のようなものが本から零れたように見えた。尻をついた痛みに眉を顰めつつも、樹は本から零れたものを凝視する。
「全く・・・丁寧に扱えよ」
呆れる樫野の横で、樹と同じくその鱗粉のような微かな輝きを目の当たりにしたスピリッツたちは、はっとして目を見張った。
「んっ?」
「これは・・・!」
近付いて粉をよく観察したスピリッツたちは、何か納得したように顔を見合わせている。
「僕たちスイーツスピリッツと同じものだ・・・」
「それも、私たちのものではありませんわ!」
「どういうことだい?」
花房が尋ねると、いつになく真面目な顔をしているキャラメルが告げた。
「消えてしまったレシピには、スイーツスピリッツが関わってるかもしれないですぅ」
樹はその言葉を聞いて妙に納得する。アリスのことを思い出したのだ。自在に魔法を使う彼女のことを考えれば、この程度のことはありそうな気がする。しかし、理由と目的が分からない。バニラたちもその辺りは見当がつかないようで、首を傾げている。
「何か訳があってレシピをスイーツ王国へ持ち帰ったとか!」
「考えられるけど、そんな話今まで聞いたことありませんし」
「だったら聞きにいってみようよ!」
いちごは敷物の上に膝をついたまま、おもむろにパチンと手を合わせて明るい声を挙げた。
「えっ?」
バニラが聞き返す。
「おばあちゃんのレシピ帳の鍵もスイーツ王国でもらったものだし・・・あの人はおばあちゃんのスピリッツだったのかもしれない!もしかしたら、消えたレシピのことを知ってるかも」
いちごの言っていることは分からないが、これまでにスイーツ王国絡みで何かあったらしい。次に何を言い出すか分かった気がして、樹は考え込みながら静かに立ち上がった。
「あたし、スイーツ王国に行ってみる!」
続いて勢い良く立ち上がったいちごがそう宣言すると、花房と安堂が困惑するような表情を浮かべた。
「本当に行く気なのかい?」
「今は決勝前の大事な時期なんだし、そんな時間は・・・」
「ううん、決勝の前だからなの。まだテーマも課題も発表されてないけど、もしできるなら、あたし決勝でおばあちゃんの苺タルトを作ってみたい!こんな素敵な苺があるんだし、レシピが分かればきっと、大好きだったおばあちゃんの苺タルトを再現できると思うの!」
渋い顔をされても怯む事無く主張するいちごの様子に、二人は気持ちを察してあっさりと表情を和らげた。
「そっか」
「天野さんがそこまで思ってるなら・・・」
「本当にそれでいいのか?俺がこのレシピ本を借りてきたのは、あくまで技術を参考にするためだ。同じものを作るためじゃない」
しかし、やはり樫野だけは厳しい視線を和らげることなく意見する。顔を曇らせたいちごはその言葉に思わず口をつぐんだ。
「俺たちパティシエは、他人が作ったものじゃなくて自分が作ったオリジナルの味で勝負すべきだ。俺はそう思うがな」
「それは・・・」
「とにかく、行くなら一人で行け。俺は俺でやることがたくさんあるんだ」
突き放すように言って背を向ける樫野に、いちごは一瞬傷ついたような顔を見せたが、すぐにふくれて意地を張るように声をあげた。
「いいもん!わたしは最初から一人で行くって言ってるんだし!樫野の助けなんて要りませんよーだ!」
「なっ・・・!」
その態度に樫野が思わず苛立ちを現わすのにも構わず、いちごは早急に事を運ぶべく、スピリッツに向かって膝をついた。
「お願い!」
「バニラは構わないけど・・・」
樫野の態度に思うところがあるのか、バニラは僅かに躊躇している様子だ。王国でどのように手がかりを探せばいいか分からないという不安もあるのだろう。安堂が、ちらちらと様子を伺っているキャラメルに気付いて微笑んだ。
「キャラメル、行ってあげて」
「了解ですぅ!バニラ一人じゃ心配ですぅ!」
「カフェくんも」
「ええ、お供します」
「わたしも消えたレシピが気になりますわ。樫野!よろしいですわね!」
「・・・好きにしろ」