38話 旅するボンボンショコラ
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「大安吉日、雲一つない星空・・・。まさに絶好の結婚日和だわ!真くん、この勝負、チーム小城が勝ったら即、結婚だからね!」
集合時間が訪れ五人が城の広場へ到着すると、小城が待ち受けていた。のっけから人間の常識的な感性を揺さぶるトンデモ発言をかましてくる彼女に返す言葉も無く、一同はぽかんと固まる。
「・・・そうなの?」
「知るか!あっちが勝手に言ってるだけだ!」
いちごが一応という感じで訪ねると、樫野は苦虫を百匹程噛み潰したような顔をして怒鳴った。一方、審査員としてやってきた小城の父は愛娘の発言に思うところがあるらしい。目頭を押さえながら悲しげに俯いていた。
「パ、パパ?なに泣いてるの?」
「美夜・・・ほんとにお嫁に行っちゃうのかい・・・?」
「そうよ・・・パパ、ヴァージンロードを一緒に歩いてね!美夜、真くんと幸せになるわ!」
いつもよりフリルが控えめなデザインながら、相変わらず高価そうなグリーンのドレスに身を包んだ小城の晴れ姿と劇的な台詞に、父と佐藤、塩谷が号泣している。
「お嬢様!お美しゅうございます!でも・・・淋しゅうございます・・・!」
「パパも淋しいよー!」
「・・・泣いてるよ?」
「違う!」
揃いも揃って感情の爆発の仕方が真に迫っているので、いちごが念のためもう一度確認してみると、樫野は一層激しく首を振った。樹は逆に感服した様子で彼らを見守っていた。
「想像だけであんなに賑やかにできるなんてすごいわ。役者になれるんじゃないかしら」
「東堂さん、聞こえるよ・・・」
「・・・お取り込み中のところ失礼します。そろそろ、準決勝の二回戦を始めたいのですが・・・」
「さっさと始めましょう!とっとと勝って、結婚式よ!」
やっとのことでシュリさんが咳払いしながら割って入ると、小城があれだけ大騒ぎしておいて手の平を返したように大会モードに切り替え出す。
直ちにアンリ先生が高らかに試合開始を告げ、五人は広場内に調理用スペースとして設置されたテントに潜り込む。見た目はロマンチックな古城と言えど、作業場所は半屋外という環境。完全にチョコレート対決をするロケーションではないが、ここまで一心にチョコレートに魂を注いできた樫野の温度管理に余念は無い。慎重に、且つ迅速に作業は進んだ。
各国の素材を使ったショコラに、感じた風土を表現したセンター。いちごがスケッチブックに描いたデザインをベースに、見た目も様々な遊び心のある四種類のボンボンショコラが完成した。
制限時間を告げられ、二チームがそれぞれのテントから作品を持って出てくる。樹が横目で相手を見ると、したり顔の小城と目が合った。それでも、自信があるのはこちらも同じ事だ。樹は堂々とその視線を受け止めながら、自然と口の端を持ち上げた。
「樹ちゃん、良い顔」
横目でその表情を見た花房が耳打ちする。樹がそちらを見返すと、彼も彼で僅かに緊張感を孕みつつも至って涼しげな表情を浮かべていた。
「花房くんもね」
言い返した樹の表情も、言い返された花房の表情も同時に綻ぶ。二人の様子が目に入った樫野は、こうも余裕綽々の態度でふたり暢気に笑っているというのは流石にいかがなものかと内心首を傾げた。
試食はチーム小城の方から先に行われた。アンドラ公国校の三人にほぼ一任されたと思われるボンボンショコラは、華やかで美しい表面の細工やチョコレートのテリを見る限り侮れなさそうな出来栄えだ。
「・・・フランボワーズのガナッシュですね?深みのある甘酸っぱさが口いっぱいに広がります」
「レモンのゼストが入ったプラリネをビターチョコレートでコーティング・・・!ナイスバランス!」
「工夫を凝らした数々のボンボンショコラ・・・スイーツ作りが楽しい!そんな気持ちが伝わってきますね」
「ええ」
ショコラを賞味する審査員は揃ってにこにこと笑顔を浮かべ、朗らかな雰囲気だ。好感触が見て取れる反応に、三人組は歓声を上げる。一方で小城は作品の方などそっちのけで相変わらず樫野だけを見つめており、鼻息が荒い。
「真くん、もうすぐよ・・・もうすぐ私たち結婚よ・・・!」
そんな様子を尻目に審査員一同はチームいちごのボンボンショコラの審査に入る。一目で何を表しているのか理解できるモチーフを象った可愛らしい見た目に、審査員は一様に微笑ましげな視線を向ける。そして、口に入れた瞬間に全ての表情が生き生きと輝き始める。
「いちご、君が感じた風、匂い、感動・・・様々なことが伝わってきます・・・トレビアン」
作品の発想の源がいちごにあると見抜いたアンリ先生は、どこか満足そうに微笑むとそう言った。いちごの表情が歓喜に染まり、メンバー全員が確かな手応えを感じて間もなく、点数が開示されチームいちごの勝利が告げられた。
「やったー!」
腹の底から喜びを露にした五人は、満面に笑みを浮かべた。樫野と目が合った樹は、握りしめた拳を打ち合わせる。
「なんで・・・?どうして・・・?異議ありありー!理由を聞かせてちょうだい!」
小城はブーケを抱えたまま凶悪な表情で怒鳴った。あまりの展開の早さに敗北が受け止められないらしい。アンリ先生は朗らかな顔で冷静に応じる。
「両チームとも斬新なボンボンショコラで楽しませてもらいました。点差は素材の違いですね」
「素材!?なら負けるはず無いわ!うちは最高級のクーベルチュールを使ったんだから!」
「値段の問題ではありません。チームいちごの方はヨーロッパ各国の素材を幅広く活用してより広い世界を表現していました」
「そういえば僕たち、シャトー製菓の材料しか使ってないな・・・」
「それしかなかったべさー」
「んだなあ・・・」
三人組は気がついたように顔を見合わせて暢気なコメントを放つ。ヨーロッパ周遊の一件だけでもとにかく豪快に財を放ってきた小城の表情はひくひくと歪みはじめた。
「私はイメージの広がり方に差を感じました」
日本校の理事長も畳み掛けるように評を述べる。
「チームいちごのボンボンショコラを食べると、ヨーロッパ旅行をしているようですね」
「どういうこと?私たちだってヨーロッパ中を廻ったわよ!」
「んだ!」
「もしかしたら廻り方で差がついたのかもしれませんね。列車やバスを乗り継ぎゆっくりと旅をしたチームいちごに対して、チーム小城はヘリコプターで各地に飛んでいたと聞きました」
アンリ先生はすらすらと引き継いで解説する。
「できれば、各地をゆっくりと廻って、じっくり感じてグランプリに生かしてほしかったですね」
「・・・」
小城は黙るしか無かった。
集合時間が訪れ五人が城の広場へ到着すると、小城が待ち受けていた。のっけから人間の常識的な感性を揺さぶるトンデモ発言をかましてくる彼女に返す言葉も無く、一同はぽかんと固まる。
「・・・そうなの?」
「知るか!あっちが勝手に言ってるだけだ!」
いちごが一応という感じで訪ねると、樫野は苦虫を百匹程噛み潰したような顔をして怒鳴った。一方、審査員としてやってきた小城の父は愛娘の発言に思うところがあるらしい。目頭を押さえながら悲しげに俯いていた。
「パ、パパ?なに泣いてるの?」
「美夜・・・ほんとにお嫁に行っちゃうのかい・・・?」
「そうよ・・・パパ、ヴァージンロードを一緒に歩いてね!美夜、真くんと幸せになるわ!」
いつもよりフリルが控えめなデザインながら、相変わらず高価そうなグリーンのドレスに身を包んだ小城の晴れ姿と劇的な台詞に、父と佐藤、塩谷が号泣している。
「お嬢様!お美しゅうございます!でも・・・淋しゅうございます・・・!」
「パパも淋しいよー!」
「・・・泣いてるよ?」
「違う!」
揃いも揃って感情の爆発の仕方が真に迫っているので、いちごが念のためもう一度確認してみると、樫野は一層激しく首を振った。樹は逆に感服した様子で彼らを見守っていた。
「想像だけであんなに賑やかにできるなんてすごいわ。役者になれるんじゃないかしら」
「東堂さん、聞こえるよ・・・」
「・・・お取り込み中のところ失礼します。そろそろ、準決勝の二回戦を始めたいのですが・・・」
「さっさと始めましょう!とっとと勝って、結婚式よ!」
やっとのことでシュリさんが咳払いしながら割って入ると、小城があれだけ大騒ぎしておいて手の平を返したように大会モードに切り替え出す。
直ちにアンリ先生が高らかに試合開始を告げ、五人は広場内に調理用スペースとして設置されたテントに潜り込む。見た目はロマンチックな古城と言えど、作業場所は半屋外という環境。完全にチョコレート対決をするロケーションではないが、ここまで一心にチョコレートに魂を注いできた樫野の温度管理に余念は無い。慎重に、且つ迅速に作業は進んだ。
各国の素材を使ったショコラに、感じた風土を表現したセンター。いちごがスケッチブックに描いたデザインをベースに、見た目も様々な遊び心のある四種類のボンボンショコラが完成した。
制限時間を告げられ、二チームがそれぞれのテントから作品を持って出てくる。樹が横目で相手を見ると、したり顔の小城と目が合った。それでも、自信があるのはこちらも同じ事だ。樹は堂々とその視線を受け止めながら、自然と口の端を持ち上げた。
「樹ちゃん、良い顔」
横目でその表情を見た花房が耳打ちする。樹がそちらを見返すと、彼も彼で僅かに緊張感を孕みつつも至って涼しげな表情を浮かべていた。
「花房くんもね」
言い返した樹の表情も、言い返された花房の表情も同時に綻ぶ。二人の様子が目に入った樫野は、こうも余裕綽々の態度でふたり暢気に笑っているというのは流石にいかがなものかと内心首を傾げた。
試食はチーム小城の方から先に行われた。アンドラ公国校の三人にほぼ一任されたと思われるボンボンショコラは、華やかで美しい表面の細工やチョコレートのテリを見る限り侮れなさそうな出来栄えだ。
「・・・フランボワーズのガナッシュですね?深みのある甘酸っぱさが口いっぱいに広がります」
「レモンのゼストが入ったプラリネをビターチョコレートでコーティング・・・!ナイスバランス!」
「工夫を凝らした数々のボンボンショコラ・・・スイーツ作りが楽しい!そんな気持ちが伝わってきますね」
「ええ」
ショコラを賞味する審査員は揃ってにこにこと笑顔を浮かべ、朗らかな雰囲気だ。好感触が見て取れる反応に、三人組は歓声を上げる。一方で小城は作品の方などそっちのけで相変わらず樫野だけを見つめており、鼻息が荒い。
「真くん、もうすぐよ・・・もうすぐ私たち結婚よ・・・!」
そんな様子を尻目に審査員一同はチームいちごのボンボンショコラの審査に入る。一目で何を表しているのか理解できるモチーフを象った可愛らしい見た目に、審査員は一様に微笑ましげな視線を向ける。そして、口に入れた瞬間に全ての表情が生き生きと輝き始める。
「いちご、君が感じた風、匂い、感動・・・様々なことが伝わってきます・・・トレビアン」
作品の発想の源がいちごにあると見抜いたアンリ先生は、どこか満足そうに微笑むとそう言った。いちごの表情が歓喜に染まり、メンバー全員が確かな手応えを感じて間もなく、点数が開示されチームいちごの勝利が告げられた。
「やったー!」
腹の底から喜びを露にした五人は、満面に笑みを浮かべた。樫野と目が合った樹は、握りしめた拳を打ち合わせる。
「なんで・・・?どうして・・・?異議ありありー!理由を聞かせてちょうだい!」
小城はブーケを抱えたまま凶悪な表情で怒鳴った。あまりの展開の早さに敗北が受け止められないらしい。アンリ先生は朗らかな顔で冷静に応じる。
「両チームとも斬新なボンボンショコラで楽しませてもらいました。点差は素材の違いですね」
「素材!?なら負けるはず無いわ!うちは最高級のクーベルチュールを使ったんだから!」
「値段の問題ではありません。チームいちごの方はヨーロッパ各国の素材を幅広く活用してより広い世界を表現していました」
「そういえば僕たち、シャトー製菓の材料しか使ってないな・・・」
「それしかなかったべさー」
「んだなあ・・・」
三人組は気がついたように顔を見合わせて暢気なコメントを放つ。ヨーロッパ周遊の一件だけでもとにかく豪快に財を放ってきた小城の表情はひくひくと歪みはじめた。
「私はイメージの広がり方に差を感じました」
日本校の理事長も畳み掛けるように評を述べる。
「チームいちごのボンボンショコラを食べると、ヨーロッパ旅行をしているようですね」
「どういうこと?私たちだってヨーロッパ中を廻ったわよ!」
「んだ!」
「もしかしたら廻り方で差がついたのかもしれませんね。列車やバスを乗り継ぎゆっくりと旅をしたチームいちごに対して、チーム小城はヘリコプターで各地に飛んでいたと聞きました」
アンリ先生はすらすらと引き継いで解説する。
「できれば、各地をゆっくりと廻って、じっくり感じてグランプリに生かしてほしかったですね」
「・・・」
小城は黙るしか無かった。