38話 旅するボンボンショコラ
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五人は早速割り当てられた厨房で作戦会議をはじめた。
ボンボンショコラとは、一口で食べられるチョコレートのことで『チョコレートの芸術』とも銘打たれる。ショコラティエがひとつひとつ丹精込めて作り上げるもので、特に造形美が問われる代物なのだが、もう一つの魅力が噛んでみるまで味が分からない『サプライズ』なのである。
「センターに何を使うかーーどのカカオと組み合わせるかーーバリエーションは無限大にある」
ショコラティエ志望の樫野は、いちご向けに一通りの解説をした後にそう締めくくった。
「グランプリではおそらくセンスや技術が試されるだろうね」
「どんなのを作るか、しっかりアイデアを考えないと・・・」
「アイデアならあるよ!」
議論が膠着する間もなく、いちごはスケッチブックと色鉛筆を鞄から取り出して次々に描きはじめた。四人は横からそれを眺める。いつも奔流のように湧き出てくるいちごのアイデアは、異国の地でも一向に滞らない。
「いちご、これは何?」
「これは、モンサンミッシェルで見たお月様!アンリ先生と踊った夜、綺麗なお月様が見えたの・・・スイーツにしたら素敵かもって思って!」
確かにあの日の月は綺麗だったが、と樹は余計なことを考えはじめて急いで止める。それにしても先生が生徒と踊るというのはいかがなものかと樹は些細なところが気にかかった。
「で、これは?」
「イタリアで見た温泉!段々畑みたいでスイーツにしたら面白いなって思ったの!」
言いながら、いちごは最後に白鳥を描き上げた。
「これは、オデット姫の小城さんを見て思いついたの!白鳥の形を使えばエレガントなスイーツになるかなって・・・それに、このお城は白鳥のお城って言われてるし!まだまだあるよ、後はね・・・」
「すごいね」
花房は思わず感嘆の声を漏らした。いちごはその反応に、首を傾げる。本人はどうも自分がしていることが当然のように感じられるらしい。
「いや、次々とアイデアが出てくるから———」
「天野さん、もしかしてあっちこっち旅行してる間、ずっとスイーツのアイデアを考えていたの?」
「うん———なんか、自然とね」
いちごは安堂の言葉に頷く。
「こいつは年中食い物のことしか考えてないんだよ」
「失礼ね!」
「———そういうとこ、なんか・・・パティシエールっぽいよな」
「・・・」
嫌味を言ったかと思えば樫野が照れくさそうにそんな文句を続けるので、いちごはぽかんとする。二人の間の空気がどことなく甘やかになったことを感じ取った三人は思わず互いに視線を交わして気づいたが、揃いも揃って口元に微かな笑みを浮かべていた。
「でも、問題があるの。イメージはたくさんあるんだけど・・・それをどうボンボンショコラにしていけばいいのか・・・」
三人の様子に気づいた様子も無いいちごは話を続ける。そこで、またしても口を開いたのは樫野だ。
「はあ・・・お前さ、誰と同じチームだと思ってんだ?」
「・・・チョコレートが得意なスイーツ王子」
いちごは言い切って、少しだけ照れたようにくすくすと笑った。
「樫野ならこれをどうチョコにすればいいか、色々知ってると思って・・・」
「わ・・・分かってんじゃねえか」
頬を染めた樫野の様子を見た三人はますます可笑しくてたまらず、互いを小突き合う。
「やだ、照れくさいわね樫野」
口元を押さえながら三人を代表して囁いた樹に樫野は乱暴に肘鉄を喰らわせる。面白がるあまりにその痛みが全く堪えなかった樹は、次に彼がどうするものか看破している様子で、床に置かれた鞄の一つを皆の中心に引きずり出した。「覚えてろ」と低く呟きつつ、樫野はむっつりとした様子でそれを開いた。
「これは・・・?」
一杯に詰まったその鞄の中身を見て、いちごは目を丸くする。
「こいつはイタリアのクーベルチュール、こいつはスイス製、こっちはドイツ製・・・旅行のついでに色々買い集めていたんだ」
「いつの間に・・・」
「同じカカオ豆を使ってても、それを形にする国や会社によって微妙に違う味になるんだ。一流のショコラティエは素材にも拘るからな。色んなクーベルチュールの味を知るいい機会だと思ったんだ」
樫野は包装の色も様々なチョコレート達を手に語る。彼なりの今回の旅の利用法とはこのようなものであったらしい。
「天野のアイデアと各地のクーベルチュールを使って、世界を表現したボンボンショコラを作って行こう!」
「賛成!ワールドボンボンショコラだね!」
「———おい、お前らもなんかあるんだろ?」
樫野は三人の方を見る。またしても同時、肩をすくめてそれに応えた。
「なんだ、こちらも手の内は知られていたのね」
少しだけつまらなさそうに樹が皆の目の前に出したのはまたしても大きな鞄だ。
「私も樫野と同じ。各地のドライフルーツやコンフィチュールを集めていたの。きっとセンターにも使えるわ」
「カラフルできれい!」
次々と鞄から出てくる色とりどりの透明な保存パックや小瓶を見て、いちごは目を輝かせた。一方、花房が取り出したのはタブレット式の端末だ。
「僕は、各地で見つけたきれいな花を写真に撮ったんだ。色とか形とか、スイーツ作りの参考になるかと思って」
「僕も、例えばイタリアで食べたジェラートなんだけど・・・たくさん種類があって楽しいなって・・・何かの参考になるかと思ってメモってたんだ」
安堂も自分の端末を掲げてみせた。各々考えていたことは同じ方向を向いていたらしい。勢いづいたいちごはうきうきと拳を握りしめた。
「よーし、みんなで試作品を作ってみよう!」
「樫野ー!」
そこに息せき切ってショコラ達が飛んできた。今までチーム小城のスピリッツたちと何かしていたらしい。
「樫野!絶対絶対、ぜーったい勝つですわ!」
「ん?———ああ、もちろん!」
「どうしたの、ショコラ?なんかすごく気合い入ってるね・・・」
「あはは、ちょっとね・・・」
首を傾げるいちごに、バニラは何故か苦笑で応えるのだった。
ボンボンショコラとは、一口で食べられるチョコレートのことで『チョコレートの芸術』とも銘打たれる。ショコラティエがひとつひとつ丹精込めて作り上げるもので、特に造形美が問われる代物なのだが、もう一つの魅力が噛んでみるまで味が分からない『サプライズ』なのである。
「センターに何を使うかーーどのカカオと組み合わせるかーーバリエーションは無限大にある」
ショコラティエ志望の樫野は、いちご向けに一通りの解説をした後にそう締めくくった。
「グランプリではおそらくセンスや技術が試されるだろうね」
「どんなのを作るか、しっかりアイデアを考えないと・・・」
「アイデアならあるよ!」
議論が膠着する間もなく、いちごはスケッチブックと色鉛筆を鞄から取り出して次々に描きはじめた。四人は横からそれを眺める。いつも奔流のように湧き出てくるいちごのアイデアは、異国の地でも一向に滞らない。
「いちご、これは何?」
「これは、モンサンミッシェルで見たお月様!アンリ先生と踊った夜、綺麗なお月様が見えたの・・・スイーツにしたら素敵かもって思って!」
確かにあの日の月は綺麗だったが、と樹は余計なことを考えはじめて急いで止める。それにしても先生が生徒と踊るというのはいかがなものかと樹は些細なところが気にかかった。
「で、これは?」
「イタリアで見た温泉!段々畑みたいでスイーツにしたら面白いなって思ったの!」
言いながら、いちごは最後に白鳥を描き上げた。
「これは、オデット姫の小城さんを見て思いついたの!白鳥の形を使えばエレガントなスイーツになるかなって・・・それに、このお城は白鳥のお城って言われてるし!まだまだあるよ、後はね・・・」
「すごいね」
花房は思わず感嘆の声を漏らした。いちごはその反応に、首を傾げる。本人はどうも自分がしていることが当然のように感じられるらしい。
「いや、次々とアイデアが出てくるから———」
「天野さん、もしかしてあっちこっち旅行してる間、ずっとスイーツのアイデアを考えていたの?」
「うん———なんか、自然とね」
いちごは安堂の言葉に頷く。
「こいつは年中食い物のことしか考えてないんだよ」
「失礼ね!」
「———そういうとこ、なんか・・・パティシエールっぽいよな」
「・・・」
嫌味を言ったかと思えば樫野が照れくさそうにそんな文句を続けるので、いちごはぽかんとする。二人の間の空気がどことなく甘やかになったことを感じ取った三人は思わず互いに視線を交わして気づいたが、揃いも揃って口元に微かな笑みを浮かべていた。
「でも、問題があるの。イメージはたくさんあるんだけど・・・それをどうボンボンショコラにしていけばいいのか・・・」
三人の様子に気づいた様子も無いいちごは話を続ける。そこで、またしても口を開いたのは樫野だ。
「はあ・・・お前さ、誰と同じチームだと思ってんだ?」
「・・・チョコレートが得意なスイーツ王子」
いちごは言い切って、少しだけ照れたようにくすくすと笑った。
「樫野ならこれをどうチョコにすればいいか、色々知ってると思って・・・」
「わ・・・分かってんじゃねえか」
頬を染めた樫野の様子を見た三人はますます可笑しくてたまらず、互いを小突き合う。
「やだ、照れくさいわね樫野」
口元を押さえながら三人を代表して囁いた樹に樫野は乱暴に肘鉄を喰らわせる。面白がるあまりにその痛みが全く堪えなかった樹は、次に彼がどうするものか看破している様子で、床に置かれた鞄の一つを皆の中心に引きずり出した。「覚えてろ」と低く呟きつつ、樫野はむっつりとした様子でそれを開いた。
「これは・・・?」
一杯に詰まったその鞄の中身を見て、いちごは目を丸くする。
「こいつはイタリアのクーベルチュール、こいつはスイス製、こっちはドイツ製・・・旅行のついでに色々買い集めていたんだ」
「いつの間に・・・」
「同じカカオ豆を使ってても、それを形にする国や会社によって微妙に違う味になるんだ。一流のショコラティエは素材にも拘るからな。色んなクーベルチュールの味を知るいい機会だと思ったんだ」
樫野は包装の色も様々なチョコレート達を手に語る。彼なりの今回の旅の利用法とはこのようなものであったらしい。
「天野のアイデアと各地のクーベルチュールを使って、世界を表現したボンボンショコラを作って行こう!」
「賛成!ワールドボンボンショコラだね!」
「———おい、お前らもなんかあるんだろ?」
樫野は三人の方を見る。またしても同時、肩をすくめてそれに応えた。
「なんだ、こちらも手の内は知られていたのね」
少しだけつまらなさそうに樹が皆の目の前に出したのはまたしても大きな鞄だ。
「私も樫野と同じ。各地のドライフルーツやコンフィチュールを集めていたの。きっとセンターにも使えるわ」
「カラフルできれい!」
次々と鞄から出てくる色とりどりの透明な保存パックや小瓶を見て、いちごは目を輝かせた。一方、花房が取り出したのはタブレット式の端末だ。
「僕は、各地で見つけたきれいな花を写真に撮ったんだ。色とか形とか、スイーツ作りの参考になるかと思って」
「僕も、例えばイタリアで食べたジェラートなんだけど・・・たくさん種類があって楽しいなって・・・何かの参考になるかと思ってメモってたんだ」
安堂も自分の端末を掲げてみせた。各々考えていたことは同じ方向を向いていたらしい。勢いづいたいちごはうきうきと拳を握りしめた。
「よーし、みんなで試作品を作ってみよう!」
「樫野ー!」
そこに息せき切ってショコラ達が飛んできた。今までチーム小城のスピリッツたちと何かしていたらしい。
「樫野!絶対絶対、ぜーったい勝つですわ!」
「ん?———ああ、もちろん!」
「どうしたの、ショコラ?なんかすごく気合い入ってるね・・・」
「あはは、ちょっとね・・・」
首を傾げるいちごに、バニラは何故か苦笑で応えるのだった。