38話 旅するボンボンショコラ
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「外もきれいだけど、中も一段とすごいねー!」
いつものように好奇心を爆発させているいちごを先頭に、五人は城内の散策を始めていた。シャンデリアや調度品に目を奪われながら進んで行けば、広間に到達した瞬間、照明が落とされると共にカーテンが引かれて日光が遮断された。
「な、なに!?」
「シュリさんかしら」
突然の暗がりに一同が驚く中、人影を探して目を凝らす樹の耳に、『白鳥の湖』の壮大なテーマが響き渡る。同時に、フラッシュライトが煌煌と純白のバレリーナの姿を照らし出した。その正体を察知した樫野の顔が引きつる。
「げーっ、出た!!」
オデット姫に扮した小城は、それなりに洗練されたしなやかな動きで舞を披露してみせた。それでもしかし、「きれい!」と素直に喜ぶいちごなど眼中に無い様子で小城はたった一人を目がけてステップを踏みながら近づいてくる。
「真くーん!待ってたわ!」
小城はそのまま抱きつこうとしたが、樫野はさせまいとして寸前で小城の動きを制止させる。それでも勢いが止まらないため、遂に樫野は男性バレエダンサーよろしく小城の身体を頭上に持ち上げた。見事な連携技だ。
「小城先輩、何してるんですか!?」
「何って、真くんを歓迎するために決まってるじゃなーい!」
「お嬢様は数日前より、歓迎の準備をしてお待ちになっていらっしゃいました!」
「ちなみに、お嬢様はご幼少の頃からクラシックバレエを嗜んでおられます!」
例によってお付きの二人が解説するのを聞きながら、何気に甲斐甲斐しい女だと樹は小城を評価する。「完璧です!」と佐藤だか塩谷だかがいつもの間の手を入れるが、樹には二人の区別がついていなかった。
「喜んでくれて嬉しいわー!」
「喜んでないですからっ!」
どうにか小城を地面に下ろし、落ち着いたところで話を聞くと小城たちも手紙を貰って指示されるがまま各地を巡っていたらしい。ただし、彼女達は例の趣味が悪いヘリで移動していたため、ずっと早くにこの場所に着いてしまっていたようだ。豪遊に付き合ったアンドラ公国の三人もどこからか姿を現わす。
「いやー、旅行って楽しいものなんですね!今まで出稼ぎでしか外国に行った事なかったから、とっても新鮮でした!」
「俺は感動して何度フラメンコを踊ってしまったか分からねえだ!」
「んだなー・・・おら、一生分の旅行をしただー」
しごく小城に従順になっている彼らは庶民的な感想を語る。親近感を覚えた樹は僅かに口元を緩めた。
「みなさん、長旅お疲れさまでした」
そこに、機械的で儀礼的な文句が告げられる。もはや聞き慣れた声に、数名はもううんざりだという顔で振り向く。立っているのは相変わらずスタイリッシュなパンツスーツを着こなしているシュリさんだった。
「またあなたですか」
「今度はどこへ行けというんですか?」
「ここが終着点ですよ」
続いて聞こえる声はアンリ先生のものだ。数人の不満げな表情をものともせずに長い足で部屋の中心へと進み出ると、いちご一人が極めて嬉しそうに嬌声をあげた。
「ヨーロッパ旅行は楽しんでもらえましたか?」
「はい、とっても!」
「それは良かった」
「僕は振り回されてるって感じがしましたけど」
アンリ先生の言葉に素直に頷いてみせたいちごを横目に、花房は当たりの強い感想を堂々と述べる。
「この旅行に何か意味があるんですか」
「意味があるものになるか、ならないか・・・それは君たち次第ですよ」
「えっ・・・?」
「前回引き分けだった世界ケーキグランプリ、準決勝の第二回戦を今夜、城内の広場で行います」
アンリ先生はそう宣言した。「待ってたぜ」と小声で呟き樫野は口角を持ち上げる。数日ぶりに訪れる緊張感がむしろ心地良い。樹も同じ気持ちでアンリ先生の次の言葉を待った。
「課題はボンボンショコラです。他に決まり事はありません。自由な発想で、色々なボンボンショコラを作ってください」
いつものように好奇心を爆発させているいちごを先頭に、五人は城内の散策を始めていた。シャンデリアや調度品に目を奪われながら進んで行けば、広間に到達した瞬間、照明が落とされると共にカーテンが引かれて日光が遮断された。
「な、なに!?」
「シュリさんかしら」
突然の暗がりに一同が驚く中、人影を探して目を凝らす樹の耳に、『白鳥の湖』の壮大なテーマが響き渡る。同時に、フラッシュライトが煌煌と純白のバレリーナの姿を照らし出した。その正体を察知した樫野の顔が引きつる。
「げーっ、出た!!」
オデット姫に扮した小城は、それなりに洗練されたしなやかな動きで舞を披露してみせた。それでもしかし、「きれい!」と素直に喜ぶいちごなど眼中に無い様子で小城はたった一人を目がけてステップを踏みながら近づいてくる。
「真くーん!待ってたわ!」
小城はそのまま抱きつこうとしたが、樫野はさせまいとして寸前で小城の動きを制止させる。それでも勢いが止まらないため、遂に樫野は男性バレエダンサーよろしく小城の身体を頭上に持ち上げた。見事な連携技だ。
「小城先輩、何してるんですか!?」
「何って、真くんを歓迎するために決まってるじゃなーい!」
「お嬢様は数日前より、歓迎の準備をしてお待ちになっていらっしゃいました!」
「ちなみに、お嬢様はご幼少の頃からクラシックバレエを嗜んでおられます!」
例によってお付きの二人が解説するのを聞きながら、何気に甲斐甲斐しい女だと樹は小城を評価する。「完璧です!」と佐藤だか塩谷だかがいつもの間の手を入れるが、樹には二人の区別がついていなかった。
「喜んでくれて嬉しいわー!」
「喜んでないですからっ!」
どうにか小城を地面に下ろし、落ち着いたところで話を聞くと小城たちも手紙を貰って指示されるがまま各地を巡っていたらしい。ただし、彼女達は例の趣味が悪いヘリで移動していたため、ずっと早くにこの場所に着いてしまっていたようだ。豪遊に付き合ったアンドラ公国の三人もどこからか姿を現わす。
「いやー、旅行って楽しいものなんですね!今まで出稼ぎでしか外国に行った事なかったから、とっても新鮮でした!」
「俺は感動して何度フラメンコを踊ってしまったか分からねえだ!」
「んだなー・・・おら、一生分の旅行をしただー」
しごく小城に従順になっている彼らは庶民的な感想を語る。親近感を覚えた樹は僅かに口元を緩めた。
「みなさん、長旅お疲れさまでした」
そこに、機械的で儀礼的な文句が告げられる。もはや聞き慣れた声に、数名はもううんざりだという顔で振り向く。立っているのは相変わらずスタイリッシュなパンツスーツを着こなしているシュリさんだった。
「またあなたですか」
「今度はどこへ行けというんですか?」
「ここが終着点ですよ」
続いて聞こえる声はアンリ先生のものだ。数人の不満げな表情をものともせずに長い足で部屋の中心へと進み出ると、いちご一人が極めて嬉しそうに嬌声をあげた。
「ヨーロッパ旅行は楽しんでもらえましたか?」
「はい、とっても!」
「それは良かった」
「僕は振り回されてるって感じがしましたけど」
アンリ先生の言葉に素直に頷いてみせたいちごを横目に、花房は当たりの強い感想を堂々と述べる。
「この旅行に何か意味があるんですか」
「意味があるものになるか、ならないか・・・それは君たち次第ですよ」
「えっ・・・?」
「前回引き分けだった世界ケーキグランプリ、準決勝の第二回戦を今夜、城内の広場で行います」
アンリ先生はそう宣言した。「待ってたぜ」と小声で呟き樫野は口角を持ち上げる。数日ぶりに訪れる緊張感がむしろ心地良い。樹も同じ気持ちでアンリ先生の次の言葉を待った。
「課題はボンボンショコラです。他に決まり事はありません。自由な発想で、色々なボンボンショコラを作ってください」