38話 旅するボンボンショコラ
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馬車は木々の間、幾度も踏みしめられ固められた道を行く。
規則的な蹄の音と車輪の回転する音を聞きながら、安堂はこれまでに自分たちの元へ送られてきた手紙を改めて検分していた。古めかしい封蝋で閉じられた封筒は何通にも渡っており、隣に座る樫野は少々呆れた目をそちらに向けて尋ねた。
「・・・今度ので何通目だ?」
「10通目」
「それで、今度はドイツか・・・」
引き分けになったグランプリ2回戦の後、シュリさんを通じて五人の元へ行き先を示す手紙が届くようになった。目的地に着く度に新たな手紙が手渡されるので、五人はかれこれ1週間ほどパリに戻っていない。というのも、手紙が指し示す目的地はいずれもオランダやスイスなどのヨーロッパ諸国の観光地だったのだ。
「色々なところを旅行できて楽しいよねー!アンリ先生に感謝しなくっちゃ!」
「私、もう一生分の贅沢を使い果たした気がする・・・」
満足げに揺られているいちごの隣で、樹は目まぐるしく過ぎ去った色濃い日々を思い返しながら、暗いことを呟く。わかる、と安堂がひとり力強く頷いてそれに応え、樫野は鼻を鳴らして言い返した。
「後ろ向きなこと言ってんじゃねえよ。こっちは利用できる機会を全て利用してるだけだ。アンリ先生が何考えてるのか全然分からねえけど、向こうだってまさか単純に贅沢三昧させてるだけじゃあるまいし」
「そんなことは最初から分かってるわよ。ただ、幾らなんでもいちいちスケールが大きすぎるって言ってるのよ」
「まあまあ、樹ちゃん。心配しなくてもきっとこの先はこの先なりの贅沢が出来るよ」
「お坊ちゃん方は黙っていてくれないかしら」
目に見えて超富裕層の二人に樹は冷たい視線を送る。それを仏頂面で受け流した樫野と対称に、花房は微笑で受け止め、樹はたちまち居心地が悪くなる。頬に熱が集まりきらない内にと顔ごと視線を外すと、ちょうどいちごが興奮気味に身を乗り出した。
「あっ、お城が見えてきたよ!きゃーっ!キレイ!」
「気をつけて天野さん!立ち上がっちゃ危ないよ!」
「大丈夫だって!ねえ樹ちゃん、正しくシンデレラのお城だね!」
眼前に姿を現わしたのは壮麗なつくりの白鳥の城、今回の目的地であるノイシュバンシュタイン城だ。豊かな自然に守られるように佇むその姿は確かにおとぎ話を想起させる。
城の前でゆっくりと馬車は停車し、先に降りた花房が樹に手を差し出す。ずっと前から彼が誰にでも向けているような小さな親切ではあるが、それは今の樹の胸を騒がせる。
「ありがとう」
触れた手が奇妙に熱く、樹は瞬間口元を強ばらせる。このような居心地の悪さとときたま訪れる温かな心地よさが同居しているせいで、樹はどうも素直になりきれない部分がある。降りると同時にすぐ手を離し、歩き出した。
規則的な蹄の音と車輪の回転する音を聞きながら、安堂はこれまでに自分たちの元へ送られてきた手紙を改めて検分していた。古めかしい封蝋で閉じられた封筒は何通にも渡っており、隣に座る樫野は少々呆れた目をそちらに向けて尋ねた。
「・・・今度ので何通目だ?」
「10通目」
「それで、今度はドイツか・・・」
引き分けになったグランプリ2回戦の後、シュリさんを通じて五人の元へ行き先を示す手紙が届くようになった。目的地に着く度に新たな手紙が手渡されるので、五人はかれこれ1週間ほどパリに戻っていない。というのも、手紙が指し示す目的地はいずれもオランダやスイスなどのヨーロッパ諸国の観光地だったのだ。
「色々なところを旅行できて楽しいよねー!アンリ先生に感謝しなくっちゃ!」
「私、もう一生分の贅沢を使い果たした気がする・・・」
満足げに揺られているいちごの隣で、樹は目まぐるしく過ぎ去った色濃い日々を思い返しながら、暗いことを呟く。わかる、と安堂がひとり力強く頷いてそれに応え、樫野は鼻を鳴らして言い返した。
「後ろ向きなこと言ってんじゃねえよ。こっちは利用できる機会を全て利用してるだけだ。アンリ先生が何考えてるのか全然分からねえけど、向こうだってまさか単純に贅沢三昧させてるだけじゃあるまいし」
「そんなことは最初から分かってるわよ。ただ、幾らなんでもいちいちスケールが大きすぎるって言ってるのよ」
「まあまあ、樹ちゃん。心配しなくてもきっとこの先はこの先なりの贅沢が出来るよ」
「お坊ちゃん方は黙っていてくれないかしら」
目に見えて超富裕層の二人に樹は冷たい視線を送る。それを仏頂面で受け流した樫野と対称に、花房は微笑で受け止め、樹はたちまち居心地が悪くなる。頬に熱が集まりきらない内にと顔ごと視線を外すと、ちょうどいちごが興奮気味に身を乗り出した。
「あっ、お城が見えてきたよ!きゃーっ!キレイ!」
「気をつけて天野さん!立ち上がっちゃ危ないよ!」
「大丈夫だって!ねえ樹ちゃん、正しくシンデレラのお城だね!」
眼前に姿を現わしたのは壮麗なつくりの白鳥の城、今回の目的地であるノイシュバンシュタイン城だ。豊かな自然に守られるように佇むその姿は確かにおとぎ話を想起させる。
城の前でゆっくりと馬車は停車し、先に降りた花房が樹に手を差し出す。ずっと前から彼が誰にでも向けているような小さな親切ではあるが、それは今の樹の胸を騒がせる。
「ありがとう」
触れた手が奇妙に熱く、樹は瞬間口元を強ばらせる。このような居心地の悪さとときたま訪れる温かな心地よさが同居しているせいで、樹はどうも素直になりきれない部分がある。降りると同時にすぐ手を離し、歩き出した。