37話 一夜限りのプリンセス
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日が傾きはじめる中、チームいちごのドレスはなんとか完成に近づいて来ていた。淡いピンク色に着色されたチョコレートはトルソーの周りを固めるようにして美しい襞を作っており、その豊かなドレーブは遠目には布地と遜色ない。各所に施されたバラの花の飾りは一つ一つが香り立つような出来栄えだ。
「それにしてもいちご、どうしてシンデレラなの?」
ふと手をとめたバニラが尋ねる。
「実は、大好きな話なの!辛くても頑張っていたシンデレラが、最後は幸せになれる———なんか励まされるじゃない?」
「いちごちゃんもシンデレラになれるよ。女の子はみんな、お姫様だから」
いちごの言葉に対して、花房がさらりと甘いことを言う。
「ムリムリ!あたしそんな柄じゃないし・・・」
「案外似合ってんじゃねえか?シンデレラって最初はみすぼらしい下働きなんだろ?」
「継母は樫野ね」
「シンデレラといえば!舞踏会で王子様に見初められるキレイなお嬢様でしょ!なんでそうイメージするかなあ!」
いちごは樫野の言葉にむくれるが、冷静に考えれば似合うと言われるのは大した口説き文句である。
「でも、あたしはシンデレラを助ける魔法使いになりたいな」
「どうして?」
「魔法使いがきれいなドレスを着せてくれたから、シンデレラは王子様に出会えた———そんな風にあたしも、このドレスを着る人にも見る人にも、ハッピーになってもらいたいの。それって、スイーツで人を幸せにする、パティシエールに通じると思って」
「魔法使い、か・・・」
樹はその言葉に思わず手を止めた。
いつの間にか、思い出していたのだ。自分が何を思ってこの道を志したのか、編入したときには忘れていた、温かなものがいまの樹にはあった。
「今度は五人の魔法だね、樹ちゃん!」
いちごがにっこりと樹に笑いかける。樹はそれに微笑みで応える。他の三人も真剣な面持ちながら、温かな雰囲気でそれぞれの作業に取り組んでいた。
きっと、私たちはずっといちごの魔法にかかっている。
そんなことを思いながら、樹の指先は繊細なバラの花びらを滑らかな動きで一枚形作った。