36話 思い出の味
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次の日は、朝一番に近所のマルシェで食材の調達を手伝った。この時間にだけ広場で開かれる生鮮食品市場だ。活気づいた空気に気持ちよく目を覚ました二人は果物をたくさん抱えて店に戻って、キッチンで下ごしらえを行っていた。
「・・・サクランボ、こんなにたくさん何に使うのかな?」
ボウルいっぱいのサクランボの種ぬきを地道に行っていたいちごが、ふと樹に尋ねる。樹もまた大きなボウルいっぱいに入った杏の皮むきをしながら、首を傾げる。
「砂糖漬けにした後、ドライフルーツにしたり、あとはジャムにするんだ」
そこに通りかかったムッシュ・ブランが応えてくれる。心無しか、昨日よりも親切だ。いちごは昨日倉庫の整理をしていた時に釘付けになって見ていた色とりどりの瓶詰めを思い返す。
「ああ、倉庫にあった・・・えっ!?じゃあ、ここで使ってるドライフルーツやジャムって、全部自家製なんですか!?」
「ああ」
樹といちごは顔を見合わせて感心する。
「道理で・・・!」
「香りも味も学園で使ってるやつと全然違うもんね!」
「それが終わったら、これ食べていいぞ」
あれこれと盛り上がる二人の前に、ムッシュ・ブランは無造作にオレンジを一つおいていった。唐突に現れたそれは、朝に手に入れたフルーツ達の中にはないものだった。
「庭のオレンジだ!」
いちごは早速手に取って喜ぶ。見れば見るほど立派なオレンジだ。マルシェに並んでいたものに引けを取らない出来で、庭でこんなものが穫れるのならば市場で買わないのも頷ける。そんなことを考えながら、しかし樹は首をかしげた。
「・・・でも変ね。店にはオレンジを使ったスイーツはないもの。こんなに立派なものがあるというのに」
「そういえばそうだよね・・・」
いちごも気づいて怪訝な顔をする。何回も見たお店のショーケースには、色とりどりのフルーツが使われた選りすぐりのスイーツが並んでいるが、そこにあの日だまりの色は無かったのだった。
しばらく、無言のまま下ごしらえをする単調な音が続いた。
考えても分からないけれど、ムッシュ・ブランに立ち入った事を聞くのは憚られる。昨夜の夕食の席でも、彼は歯切れの悪い返事をしていた。何かオレンジと関係があるのだろうか。
もやもやとしたまま、樹たちの作業は終わった。
「まあ折角頂いたのだし、食べない?」
「駄目!もったいなくって食べられないよー!」
樹の提案に手放しで喜ぶのかと思われたいちごは、しかしオレンジを高々と掲げて首を振った。
「いちごが食べ物を勿体ないと言うだなんて・・・!」
樹は驚いて思わずそんなことを言ったのだった。
その後の実習は、終始厨房にいて直接作業を手伝ったりして過ごし、非常に充実したものとなった。ムッシュ・ブランの方でも樹たちに慣れてきたらしく、初めて見た時の怖そうな雰囲気は薄れ、無愛想さはほとんど感じさせない態度で、こと厨房のことに関してはこまめに口を挟んでくれた。
「・・・サクランボ、こんなにたくさん何に使うのかな?」
ボウルいっぱいのサクランボの種ぬきを地道に行っていたいちごが、ふと樹に尋ねる。樹もまた大きなボウルいっぱいに入った杏の皮むきをしながら、首を傾げる。
「砂糖漬けにした後、ドライフルーツにしたり、あとはジャムにするんだ」
そこに通りかかったムッシュ・ブランが応えてくれる。心無しか、昨日よりも親切だ。いちごは昨日倉庫の整理をしていた時に釘付けになって見ていた色とりどりの瓶詰めを思い返す。
「ああ、倉庫にあった・・・えっ!?じゃあ、ここで使ってるドライフルーツやジャムって、全部自家製なんですか!?」
「ああ」
樹といちごは顔を見合わせて感心する。
「道理で・・・!」
「香りも味も学園で使ってるやつと全然違うもんね!」
「それが終わったら、これ食べていいぞ」
あれこれと盛り上がる二人の前に、ムッシュ・ブランは無造作にオレンジを一つおいていった。唐突に現れたそれは、朝に手に入れたフルーツ達の中にはないものだった。
「庭のオレンジだ!」
いちごは早速手に取って喜ぶ。見れば見るほど立派なオレンジだ。マルシェに並んでいたものに引けを取らない出来で、庭でこんなものが穫れるのならば市場で買わないのも頷ける。そんなことを考えながら、しかし樹は首をかしげた。
「・・・でも変ね。店にはオレンジを使ったスイーツはないもの。こんなに立派なものがあるというのに」
「そういえばそうだよね・・・」
いちごも気づいて怪訝な顔をする。何回も見たお店のショーケースには、色とりどりのフルーツが使われた選りすぐりのスイーツが並んでいるが、そこにあの日だまりの色は無かったのだった。
しばらく、無言のまま下ごしらえをする単調な音が続いた。
考えても分からないけれど、ムッシュ・ブランに立ち入った事を聞くのは憚られる。昨夜の夕食の席でも、彼は歯切れの悪い返事をしていた。何かオレンジと関係があるのだろうか。
もやもやとしたまま、樹たちの作業は終わった。
「まあ折角頂いたのだし、食べない?」
「駄目!もったいなくって食べられないよー!」
樹の提案に手放しで喜ぶのかと思われたいちごは、しかしオレンジを高々と掲げて首を振った。
「いちごが食べ物を勿体ないと言うだなんて・・・!」
樹は驚いて思わずそんなことを言ったのだった。
その後の実習は、終始厨房にいて直接作業を手伝ったりして過ごし、非常に充実したものとなった。ムッシュ・ブランの方でも樹たちに慣れてきたらしく、初めて見た時の怖そうな雰囲気は薄れ、無愛想さはほとんど感じさせない態度で、こと厨房のことに関してはこまめに口を挟んでくれた。