36話 思い出の味
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
やがて二人のいるキッチンから、温かくおいしいそうな香りが立ち上ってきた。有り合わせの野菜とベーコンを煮込んだ具沢山のスープが完成したのだ。夕食はこのスープにバゲット二切れという献立だった。
「ブランさん、呼んでくる!」
いちごに呼ばれたムッシュ・ブランが席に座ると、夕食は静かに始まった。いつも食事時になるといっそう饒舌になるいちごでさえも緊張で言葉を発する事ができないらしかった。パリに来てからはずっと五人でテーブルを囲んでたことを思い返すと、その静けさは今になって樹に不安を催させた。音を立てないようにパンを千切りながら、ムッシュ・ブランの口にスープを掬ったスプーンが近づいていくのを見守る。
小さく頷くのを見ると、ムッシュ・ブランはスープに満足したようだった。樹は嬉しさで頬を紅潮させた。
「・・・今、頷いたわよね?」
「うん、おいしいってことだよね?」
思わずいちごに言うと、いちごも目を輝かせながら明るい声をあげた。一度口を開くと緊張は軽くなったようで、いちごはムッシュ・ブランの方に顔を向けて他愛ない質問を投げかける。
「ブランさんは、ずっと一人でこのお店をやってるんですか?」
「いや———まあ、そうだな・・・」
しかし、彼の返答は歯切れが悪い。なにやら悪い事を聞いてしまったようで、いちごと樹は顔を見合わせた。それでも、いちごと樹が今日のことを話している分には耳触りではなかったらしい。食後には、二人にタルト・オ・ノアを出してくれた。
「これ、今日作ってた・・・」
「いいんですか?」
ムッシュ・ブランが頷いたのでいちごは大喜びでかぶりついた。
「この生地さっくさく!バターがたくさん入ってるのにあっさりしてるね」
樹も一口食べて、にやりと上がる口角を片手で押さえる。
「ナッツ入りアパレイユ・・・いちごの言った通りチーズ入ってるわね、絶対」
「はあ・・・ここに実習に来られて幸せ・・・」
ニタニタと笑みを浮かべるいちごは、言葉どおり完全に幸福そうな様子だった。その顔はいつも通り樹を安心させるのだが、見ていると昨日までのアパルトマンを思い出さずにはいられないのだった。
「ブランさん、呼んでくる!」
いちごに呼ばれたムッシュ・ブランが席に座ると、夕食は静かに始まった。いつも食事時になるといっそう饒舌になるいちごでさえも緊張で言葉を発する事ができないらしかった。パリに来てからはずっと五人でテーブルを囲んでたことを思い返すと、その静けさは今になって樹に不安を催させた。音を立てないようにパンを千切りながら、ムッシュ・ブランの口にスープを掬ったスプーンが近づいていくのを見守る。
小さく頷くのを見ると、ムッシュ・ブランはスープに満足したようだった。樹は嬉しさで頬を紅潮させた。
「・・・今、頷いたわよね?」
「うん、おいしいってことだよね?」
思わずいちごに言うと、いちごも目を輝かせながら明るい声をあげた。一度口を開くと緊張は軽くなったようで、いちごはムッシュ・ブランの方に顔を向けて他愛ない質問を投げかける。
「ブランさんは、ずっと一人でこのお店をやってるんですか?」
「いや———まあ、そうだな・・・」
しかし、彼の返答は歯切れが悪い。なにやら悪い事を聞いてしまったようで、いちごと樹は顔を見合わせた。それでも、いちごと樹が今日のことを話している分には耳触りではなかったらしい。食後には、二人にタルト・オ・ノアを出してくれた。
「これ、今日作ってた・・・」
「いいんですか?」
ムッシュ・ブランが頷いたのでいちごは大喜びでかぶりついた。
「この生地さっくさく!バターがたくさん入ってるのにあっさりしてるね」
樹も一口食べて、にやりと上がる口角を片手で押さえる。
「ナッツ入りアパレイユ・・・いちごの言った通りチーズ入ってるわね、絶対」
「はあ・・・ここに実習に来られて幸せ・・・」
ニタニタと笑みを浮かべるいちごは、言葉どおり完全に幸福そうな様子だった。その顔はいつも通り樹を安心させるのだが、見ていると昨日までのアパルトマンを思い出さずにはいられないのだった。