36話 思い出の味
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
やっとのことで整理を終えた二人は思い思いに身体を伸ばして声をあげた。
「ジェラート屋の掃除といい、着々と筋力がついていくわね、私たち」
「はあ、疲れたー!・・・ん?何かいい匂いが・・・」
樹が少し休憩できると思ったとたんに、いちごは不意にそう言ってふらふらと歩き出した。
「え、どこ行くの?ちょっと・・・」
誘われるかのように倉庫を出て行くいちごに戸惑い、樹は制止するという考えもなくそれを追った。香りは屋外へ続いているらしい。勝手に出て良いはずも無いが、こうなったいちごは止められない。何の遠慮も無く開かれた扉から、眩しい日射しが差し込んできた。
そこは微かに懐かしさを覚えるような、あたたかく美しい中庭だった。中心に植わっているオランジュの木は、豊かな緑の間にたわわに果実を実らせている。たっぷりと陽の光を受けたそれは、まるでひだまりから取り出したような色をしていた。
「これだったんだー!良い香り!気持ちの良い空気と水を吸って、お日様に見守られておいしいおいしい実をつけたのね・・・」
駆け寄ったいちごは感動のあまりオランジュの木に語りかけていた。美味しそうなものなら何でも口に入れるいちごだ。樹は慌てて声を上げる。
「いちご!勝手に取って食べないでよ?」
「勝手に取ったりしないけど・・・オレンジさんがあたしに食べてもらいたいって落っこちてくるかも!?」
いちごは暢気なことを言いながら、果実の方に手を伸ばしてぴょんぴょんと飛び跳ねる。
「あほか!」
樹はあきれかえって渾身のツッコミをしながらも、止めようとはしなかった。いちごのそうした様子が平和的でどこか懐かしい光景に見えて邪魔をするのが憚られたのだ。
帽子を取って息を吐くと、柔らかな風が樹の髪を揺らし、甘酸っぱい香りが鼻孔をくすぐった。それは樹の記憶を遡り、初めて食べたお菓子のほろ苦さを思い出させた。
(あれは何だったかしら・・・)
目を細めて物思いにふけろうとした矢先、樹は背後に気配を感じた。振り返ると、顔よりも先にコックコートが目に入る。ムッシュ・ブランだった。
「いちご!」
「ひっ!」
樹の声に鋭く反応したいちごは彼を見て凍り付く。しかし、ムッシュ・ブランはいちごのいる方を呆気にとられたように見つめたまま、言葉を発さないのだった。まるで遠い世界を見つめているかのようだった。その間にいちごはそそくさと樹の隣に駆け寄って申し訳無さそうに目を伏せる。樹は決まりが悪そうに帽子を被り直して、「あの」と恐る恐る言った。その声で彼は我に返ったらしい。一回だけ、重々しく瞬きをすると彼は口を開いた。
「厨房に来い」
一瞬二人は呆然としたが、彼の言葉を理解するやいなや目を合わせて互いに歓喜の表情を見せた。
「やった!」
「ジェラート屋の掃除といい、着々と筋力がついていくわね、私たち」
「はあ、疲れたー!・・・ん?何かいい匂いが・・・」
樹が少し休憩できると思ったとたんに、いちごは不意にそう言ってふらふらと歩き出した。
「え、どこ行くの?ちょっと・・・」
誘われるかのように倉庫を出て行くいちごに戸惑い、樹は制止するという考えもなくそれを追った。香りは屋外へ続いているらしい。勝手に出て良いはずも無いが、こうなったいちごは止められない。何の遠慮も無く開かれた扉から、眩しい日射しが差し込んできた。
そこは微かに懐かしさを覚えるような、あたたかく美しい中庭だった。中心に植わっているオランジュの木は、豊かな緑の間にたわわに果実を実らせている。たっぷりと陽の光を受けたそれは、まるでひだまりから取り出したような色をしていた。
「これだったんだー!良い香り!気持ちの良い空気と水を吸って、お日様に見守られておいしいおいしい実をつけたのね・・・」
駆け寄ったいちごは感動のあまりオランジュの木に語りかけていた。美味しそうなものなら何でも口に入れるいちごだ。樹は慌てて声を上げる。
「いちご!勝手に取って食べないでよ?」
「勝手に取ったりしないけど・・・オレンジさんがあたしに食べてもらいたいって落っこちてくるかも!?」
いちごは暢気なことを言いながら、果実の方に手を伸ばしてぴょんぴょんと飛び跳ねる。
「あほか!」
樹はあきれかえって渾身のツッコミをしながらも、止めようとはしなかった。いちごのそうした様子が平和的でどこか懐かしい光景に見えて邪魔をするのが憚られたのだ。
帽子を取って息を吐くと、柔らかな風が樹の髪を揺らし、甘酸っぱい香りが鼻孔をくすぐった。それは樹の記憶を遡り、初めて食べたお菓子のほろ苦さを思い出させた。
(あれは何だったかしら・・・)
目を細めて物思いにふけろうとした矢先、樹は背後に気配を感じた。振り返ると、顔よりも先にコックコートが目に入る。ムッシュ・ブランだった。
「いちご!」
「ひっ!」
樹の声に鋭く反応したいちごは彼を見て凍り付く。しかし、ムッシュ・ブランはいちごのいる方を呆気にとられたように見つめたまま、言葉を発さないのだった。まるで遠い世界を見つめているかのようだった。その間にいちごはそそくさと樹の隣に駆け寄って申し訳無さそうに目を伏せる。樹は決まりが悪そうに帽子を被り直して、「あの」と恐る恐る言った。その声で彼は我に返ったらしい。一回だけ、重々しく瞬きをすると彼は口を開いた。
「厨房に来い」
一瞬二人は呆然としたが、彼の言葉を理解するやいなや目を合わせて互いに歓喜の表情を見せた。
「やった!」