35話 私の好きな人
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その後もチームいちごの好調は続いたが、試合時間は終わりに近づいていた。周りのチームが徐々に撤収の準備を固めている様子なのでいちご達もそうしようかと言っていると、ブースに新たな客が近づいてきた。
「まだやってる?」
現れたのは大家さんだ。若い女の人を連れている。
「ごめんね、こんな時間になっちゃって」
「初めまして。母に誘われて来てみました」
どうやら以前にちらっと話していた、娘のエマさんを連れてきてくれたらしい。モデルのような美女で、大家さんの若い頃の美しさを想像させた。
「で、斬新なジェラートは出来たのかい?」
「はい、自信作です!」
「そう、じゃあそれを二つちょうだい!」
いちごはダ・ヴィンチ・コード・ジェラートを嬉々として盛りつけた。いちごの発案からこのフレーバーは飛ぶように売れたので、もうほとんど残っていない。二人はしげしげとピラミッド型のジェラートを見つめると、一口舐めとった。
「ソルトジェラートなのね・・・」
「わあ!」
「アクセントに入ってるこれは・・・」
「桜です!塩漬けにしたものを使ってるんです!」
桜と聞いて、大家さんが懐かしそうに目を細める。
「桜・・・パパも桜の花が大好きだったのよ」
「うん、覚えてる・・・その桜を練り込むなんて・・・」
大家さん母娘が感慨に浸る中、終了の合図が鳴った。なんだかあっという間の一日だったけれど、自分が作ったものをこんなにたくさんの人が食べてくれるという経験は初めてだったし、口にした瞬間に変化する表情がどうしようもなく樹には嬉しかった。
結果発表は全ての撤収が済んで、パリ本校に戻ってから行われた。突出していたのはチーム天王寺と美女軍団のチームフランソワで、他チームの1.5倍以上の人を集めたらしかった。
チームいちごは結果として見事に勝利を収めたが、チームリカルドとの点差はわずか1点。最後の大家さんの分が無ければ負けていたのだ。
二回戦に勝ち進む四人のリーダーとして前に並び出たのは、天王寺、小城、フランソワ、いちごだ。四名の内三人が日本人という異色の展開である。
「おめでとう、次も頑張ってください」
四名に拍手が送られ、いちごはお客さんの一人一人への感謝を噛みしめた。
「———残念だったよ」
樹がいちごの姿を誇らしげに見ていると、リックは一言そう声をかけた。
「まあ、当然の結果だけど」
「一点差じゃない」
クララが樹の言葉に若干反発する。
「まあ、当然というのは———当然良い勝負になったということよ」
「案外あなた調子が良いのね。二回戦、頑張ってよ」
「ありがとう」
樹はクララと握手する。意外と仲良くなれそうな相手という気がしてきた。いちごが小走りにこちらに戻ってくる。樹は少しリックに近づいてこっそり耳元に囁いた。
「これは勝負の前に言っておかなくてはいけなかったのだけど」
「なに?」
「私、好きな人がいるの。だから、負けたとしても貴方とはお付き合いできませんでした」
リックはその言葉に柔らかい笑みを浮かべた。
「分かってたよ。悔しいけど、樹はそいつのことを話してる時が一番魅力的な表情をしていたからね」
「え・・・待って。じゃあ」
誰なのかばれている。
でも、どこでばれたのか分からない。
「今回は引いてあげるから、頑張って」
「ねえ、私って分かりやすいの?ちょっと!」
樹は焦った様子でリックの肩を揺さぶる。その顔がひどく紅潮しているのでリックは満足そうに声をたてて笑った。何のことを話しているのか分からないいちご達は、その様子を不思議そうに見守っているのだった。
「まだやってる?」
現れたのは大家さんだ。若い女の人を連れている。
「ごめんね、こんな時間になっちゃって」
「初めまして。母に誘われて来てみました」
どうやら以前にちらっと話していた、娘のエマさんを連れてきてくれたらしい。モデルのような美女で、大家さんの若い頃の美しさを想像させた。
「で、斬新なジェラートは出来たのかい?」
「はい、自信作です!」
「そう、じゃあそれを二つちょうだい!」
いちごはダ・ヴィンチ・コード・ジェラートを嬉々として盛りつけた。いちごの発案からこのフレーバーは飛ぶように売れたので、もうほとんど残っていない。二人はしげしげとピラミッド型のジェラートを見つめると、一口舐めとった。
「ソルトジェラートなのね・・・」
「わあ!」
「アクセントに入ってるこれは・・・」
「桜です!塩漬けにしたものを使ってるんです!」
桜と聞いて、大家さんが懐かしそうに目を細める。
「桜・・・パパも桜の花が大好きだったのよ」
「うん、覚えてる・・・その桜を練り込むなんて・・・」
大家さん母娘が感慨に浸る中、終了の合図が鳴った。なんだかあっという間の一日だったけれど、自分が作ったものをこんなにたくさんの人が食べてくれるという経験は初めてだったし、口にした瞬間に変化する表情がどうしようもなく樹には嬉しかった。
結果発表は全ての撤収が済んで、パリ本校に戻ってから行われた。突出していたのはチーム天王寺と美女軍団のチームフランソワで、他チームの1.5倍以上の人を集めたらしかった。
チームいちごは結果として見事に勝利を収めたが、チームリカルドとの点差はわずか1点。最後の大家さんの分が無ければ負けていたのだ。
二回戦に勝ち進む四人のリーダーとして前に並び出たのは、天王寺、小城、フランソワ、いちごだ。四名の内三人が日本人という異色の展開である。
「おめでとう、次も頑張ってください」
四名に拍手が送られ、いちごはお客さんの一人一人への感謝を噛みしめた。
「———残念だったよ」
樹がいちごの姿を誇らしげに見ていると、リックは一言そう声をかけた。
「まあ、当然の結果だけど」
「一点差じゃない」
クララが樹の言葉に若干反発する。
「まあ、当然というのは———当然良い勝負になったということよ」
「案外あなた調子が良いのね。二回戦、頑張ってよ」
「ありがとう」
樹はクララと握手する。意外と仲良くなれそうな相手という気がしてきた。いちごが小走りにこちらに戻ってくる。樹は少しリックに近づいてこっそり耳元に囁いた。
「これは勝負の前に言っておかなくてはいけなかったのだけど」
「なに?」
「私、好きな人がいるの。だから、負けたとしても貴方とはお付き合いできませんでした」
リックはその言葉に柔らかい笑みを浮かべた。
「分かってたよ。悔しいけど、樹はそいつのことを話してる時が一番魅力的な表情をしていたからね」
「え・・・待って。じゃあ」
誰なのかばれている。
でも、どこでばれたのか分からない。
「今回は引いてあげるから、頑張って」
「ねえ、私って分かりやすいの?ちょっと!」
樹は焦った様子でリックの肩を揺さぶる。その顔がひどく紅潮しているのでリックは満足そうに声をたてて笑った。何のことを話しているのか分からないいちご達は、その様子を不思議そうに見守っているのだった。