35話 私の好きな人
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勝負の舞台は、かの有名なルーヴル美術館前のナポレオン広場。選手達のワゴンは大きく放射状に並べられ、中心に共有スペースとしてテーブルやイスなどの客席が用意された。こんな目立つ場所なら多数の観光客の来訪が見込める。どの選手達もみんな、自分が一から手がけたワゴンに列が出来るのを期待して気分を高揚させた。
「いちご先輩!今日は絶対負けません!覚悟してくださいね!」
いちごの方には可愛らしい後輩が元気よく声をかけにやって来たが、樹の方には案の定飛び散る星のようなオーラを纏った胡散臭い男が寄ってくる。
「帰りは2ショットで帰ろうね、樹」
「そうはならないわ。勝負が終わったら泣いてもいいわよ。ティッシュぐらいくれてやるわ」
「嬉し泣きとはいえ、女の子の前で泣くのは遠慮したいかな」
両チームの間に火花が飛ぶ。異様な熱気を感じ取った他の選手達は、何事なのかと皆横目に二人の様子を観察して通り過ぎていった。
ジェラートの搬入が済むと、スピリッツ達が魔法でワゴンをデコレーションした。五人の制服も彼らのカスタマイズだ。ファンシーなテイストのウェイトレス服は少々ひらひらするが、身体にぴったり合っていて動きやすい。衣装を着て試合に出るのは初めてなので樹は少し感動を覚えていた。くるくると回って自分の姿を確認したところ樫野に鼻で笑われたので、樹はショコラを焚き付けて彼もウェイトレスにしてやった。フリルのついたスカートを風に泳がせながら樹を追い回す樫野を見て、安堂は腹がよじれるほど大笑いした。
そうこうしている内に広場には人が集まりはじめ、天王寺のところなどは早くも行列ができはじめていた。前評判も無しにこの盛況は一体どういうことなのかと樹は戸惑う。ふとリックのチームのドーナツワゴンを見ると、あちらにもかなり並んでいる。
「みんな、美術館に入る前に軽くお腹に入れておくのね」
「・・・なんかさ、ちょっと冷え込むね」
いちごと樹の衣装は半袖だ。いちごは二の腕をさすった。
「パリは一日で夏と冬が味わえるとも言われるものね」
「特にここは朝方建物の陰になるから底冷えがするしな」
「あっ、もう売りはじめたのね!」
いちごは動きが表れた人々の様子に声をあげた。焼き菓子をチョイスしたチームのほとんどは順調に滑り出したようだ。しかし、依然としてジェラートのワゴンに人が流れてくることはない。
「しまったわね、こんなに寒いと・・・」
「わーっ、ジェラート屋さんだー!」
小さな男の子がこちらに駆けてくる。いちごがにこにこと応対した。
「おいしいジェラートがいーっぱいあるよー!チョコがいい?桜のソルト味もオススメだよ!」
「おいしそう!ママー!ジェラート買ってー!」
「だめ、だめ!ジェラートなんか食べたらお腹冷えちゃうでしょ!」
少年は母親に連れられて行ってしまう。いちごは無念でケースの上に突っ伏した。少し焦って唇を噛んだ樹を励ますように、花房が肩に手を置いた。
「いちご先輩!今日は絶対負けません!覚悟してくださいね!」
いちごの方には可愛らしい後輩が元気よく声をかけにやって来たが、樹の方には案の定飛び散る星のようなオーラを纏った胡散臭い男が寄ってくる。
「帰りは2ショットで帰ろうね、樹」
「そうはならないわ。勝負が終わったら泣いてもいいわよ。ティッシュぐらいくれてやるわ」
「嬉し泣きとはいえ、女の子の前で泣くのは遠慮したいかな」
両チームの間に火花が飛ぶ。異様な熱気を感じ取った他の選手達は、何事なのかと皆横目に二人の様子を観察して通り過ぎていった。
ジェラートの搬入が済むと、スピリッツ達が魔法でワゴンをデコレーションした。五人の制服も彼らのカスタマイズだ。ファンシーなテイストのウェイトレス服は少々ひらひらするが、身体にぴったり合っていて動きやすい。衣装を着て試合に出るのは初めてなので樹は少し感動を覚えていた。くるくると回って自分の姿を確認したところ樫野に鼻で笑われたので、樹はショコラを焚き付けて彼もウェイトレスにしてやった。フリルのついたスカートを風に泳がせながら樹を追い回す樫野を見て、安堂は腹がよじれるほど大笑いした。
そうこうしている内に広場には人が集まりはじめ、天王寺のところなどは早くも行列ができはじめていた。前評判も無しにこの盛況は一体どういうことなのかと樹は戸惑う。ふとリックのチームのドーナツワゴンを見ると、あちらにもかなり並んでいる。
「みんな、美術館に入る前に軽くお腹に入れておくのね」
「・・・なんかさ、ちょっと冷え込むね」
いちごと樹の衣装は半袖だ。いちごは二の腕をさすった。
「パリは一日で夏と冬が味わえるとも言われるものね」
「特にここは朝方建物の陰になるから底冷えがするしな」
「あっ、もう売りはじめたのね!」
いちごは動きが表れた人々の様子に声をあげた。焼き菓子をチョイスしたチームのほとんどは順調に滑り出したようだ。しかし、依然としてジェラートのワゴンに人が流れてくることはない。
「しまったわね、こんなに寒いと・・・」
「わーっ、ジェラート屋さんだー!」
小さな男の子がこちらに駆けてくる。いちごがにこにこと応対した。
「おいしいジェラートがいーっぱいあるよー!チョコがいい?桜のソルト味もオススメだよ!」
「おいしそう!ママー!ジェラート買ってー!」
「だめ、だめ!ジェラートなんか食べたらお腹冷えちゃうでしょ!」
少年は母親に連れられて行ってしまう。いちごは無念でケースの上に突っ伏した。少し焦って唇を噛んだ樹を励ますように、花房が肩に手を置いた。