5話 ケーキ嫌いの君へ
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安堂家の面々をそろって和室に集めたのは、夢月も閉店して夜が訪れた頃合いだった。一太は今の今まで部屋の隅でうずくまっていたらしいが、いちごが迎えにいった。
「せ、千兄・・・」
押すなよと喚きながら入ってきた一太だったが、安堂の顔を見てばつが悪そうにうつむく。それでも、ちゃぶ台に置かれた白い箱の存在は気になったらしい。なんなのか聞いてきたので、安堂はこたえた。
「一太に食べてもらいたくて、みんなで作ったんだ」
「大福でも作ったのか?」
「いや、ちょっと違うな」
安堂はそっと箱を開けた。現れたロールケーキに、一太はショックを受ける。
「これはおいしそうなロールケーキだ。千之助が一太くらいの頃作ったのとおんなじ・・・」
「えっ、千兄が?」
おじいさんの言葉を聞いて驚く一太に母親も促す。
「一太、早く食べてご覧!」
「で、でも俺、ケーキなんか嫌いだって・・・」
「一太君、お兄ちゃんの本当の気持ち、教えてあげるって言ったでしょ。このケーキがそうなのよ」
いちごにさとされ、一太はおそるおそるケーキに目を向ける。
「樹ちゃん、回してあげて」
花房が、切り分けたケーキを場所の都合で樹を経由させた。一太が若干畏縮したような感じがして、樹はため息をつきかける。
「大丈夫よ、おいしいから」
「・・・分かったよ、一口だけだぞ!」
一太の言葉に安堂は頷く。一太は、おそるおそるロールケーキを手に取った。
「こぼさないように」
「わ、分かってるよ!・・・うめえーっ!」
樹に口を挟まれ思い切りかぶりついた一太は、次の瞬間笑顔を見せた。それを機に、他の面子もロールケーキに手を付けた。
「ほんと、おいしい!」
「こりゃたしかにうまい。でも、うちのあんこと微妙に違うな」
「このあんこは、一太が作ったやつだよ」
安堂がたねをばらすと、いちごが得意げに胸を張った。
「名付けて、兄妹抹茶ロールケーキ!」
「兄妹抹茶ロールケーキ・・・」
「安堂君のケーキと、一太君のあんこの夢のコラボレーション!あたしのアイデアなのよ」
「作業はほとんどしてないけどな」
樫野の的確なつっこみに、いちごは肩を落とす。
「台所からあんこの箱を持ってきただけでも上出来よ」
「東堂さーん!」
樹の微妙なフォローにもいちごは歓喜した。一太は安堂の方を見やって考えたことを口に出してみた。
「・・・千兄が作りたいのって、こういう和菓子とケーキが混ざったような菓子なのか?」
「そうだよ。僕のルーツはこの和菓子屋『夢月』だ。いつかその名前でうちの隣に新しい店を出す。それが僕の夢なんだ。絶対捨てたりしない。僕の手で夢月を大きくするんだ」
安堂は立ち上がり、一太に歩み寄った。
「千兄・・」
「ごめんな、一太。心配させて」
「千兄!」
優しく頭をなでる安堂に、一太は思い切り抱きついた。わんわんなきじゃくる弟を、安堂は精一杯受け止めていた。学園では見られない兄の姿だった。
落ち着いたところで引き上げることにして、五人はあいさつをし、帰路についた。
「大福をいただいたわ。後で分けましょう、天野さん」
「やったー!」
「待ちな、ケーキ豚!」
無邪気に喜ぶいちごの背中に、またもや不躾な声がかけられた。
「あんたは、またそんなこと言ってー!」
復活した一太は、先ほどよりも挑戦的な目つきをしている。
「俺の夢、見つかったぜ!」
「えっ?」
「兄ちゃんが隣に店を出すなら、俺はうちを継いでみせる!」
「それって、ステキな夢ね!」
いちごが一太と何を話していたのか知らないが、今回の件で一太は大きく成長したらしい。疑問の答えが見つかった樹も、その言葉にすこしすっきりとした。
「見てろよ、素人のおまえなんか、すぐ追い抜いてやるからな!」
「一太・・・!」
「そして、ゆくゆくはサイボーグのことも見返してやるからな!」
「百年早いわ」
どうやら樹のことは『強いひと』認識をしているらしい一太に、冷静に切り返す。一太はその言葉に臆した様子もなく、再びいちごに目を向けた。
「俺とお前は、今日からライバルだ!」
「ちょっと・・・小学生にライバルとか言われたくないんですけど・・・」
「自信ないのか、ケーキ豚!」
「ああ、また言った!許せない!あたしは大食いクイーンなんだから!」
いちごは鞄を持った手を風車のように振り回して一太に襲いかかった。一太は身軽にかわし、見るに耐えない追いかけっこがはじまる。
「あいつ、やっぱり小学生レベルだな」
樫野はその光景を見ながら容赦なく言い放った。全員が口に出さずとも同意する。
「さ、帰ろう。聖マリー学園に」
樹はバス停に向かって歩き出しながら、週末とはこんなにも短いものだったかと思った。この感覚は、転校前日に河澄と下校した時と、少し似ていた。
「せ、千兄・・・」
押すなよと喚きながら入ってきた一太だったが、安堂の顔を見てばつが悪そうにうつむく。それでも、ちゃぶ台に置かれた白い箱の存在は気になったらしい。なんなのか聞いてきたので、安堂はこたえた。
「一太に食べてもらいたくて、みんなで作ったんだ」
「大福でも作ったのか?」
「いや、ちょっと違うな」
安堂はそっと箱を開けた。現れたロールケーキに、一太はショックを受ける。
「これはおいしそうなロールケーキだ。千之助が一太くらいの頃作ったのとおんなじ・・・」
「えっ、千兄が?」
おじいさんの言葉を聞いて驚く一太に母親も促す。
「一太、早く食べてご覧!」
「で、でも俺、ケーキなんか嫌いだって・・・」
「一太君、お兄ちゃんの本当の気持ち、教えてあげるって言ったでしょ。このケーキがそうなのよ」
いちごにさとされ、一太はおそるおそるケーキに目を向ける。
「樹ちゃん、回してあげて」
花房が、切り分けたケーキを場所の都合で樹を経由させた。一太が若干畏縮したような感じがして、樹はため息をつきかける。
「大丈夫よ、おいしいから」
「・・・分かったよ、一口だけだぞ!」
一太の言葉に安堂は頷く。一太は、おそるおそるロールケーキを手に取った。
「こぼさないように」
「わ、分かってるよ!・・・うめえーっ!」
樹に口を挟まれ思い切りかぶりついた一太は、次の瞬間笑顔を見せた。それを機に、他の面子もロールケーキに手を付けた。
「ほんと、おいしい!」
「こりゃたしかにうまい。でも、うちのあんこと微妙に違うな」
「このあんこは、一太が作ったやつだよ」
安堂がたねをばらすと、いちごが得意げに胸を張った。
「名付けて、兄妹抹茶ロールケーキ!」
「兄妹抹茶ロールケーキ・・・」
「安堂君のケーキと、一太君のあんこの夢のコラボレーション!あたしのアイデアなのよ」
「作業はほとんどしてないけどな」
樫野の的確なつっこみに、いちごは肩を落とす。
「台所からあんこの箱を持ってきただけでも上出来よ」
「東堂さーん!」
樹の微妙なフォローにもいちごは歓喜した。一太は安堂の方を見やって考えたことを口に出してみた。
「・・・千兄が作りたいのって、こういう和菓子とケーキが混ざったような菓子なのか?」
「そうだよ。僕のルーツはこの和菓子屋『夢月』だ。いつかその名前でうちの隣に新しい店を出す。それが僕の夢なんだ。絶対捨てたりしない。僕の手で夢月を大きくするんだ」
安堂は立ち上がり、一太に歩み寄った。
「千兄・・」
「ごめんな、一太。心配させて」
「千兄!」
優しく頭をなでる安堂に、一太は思い切り抱きついた。わんわんなきじゃくる弟を、安堂は精一杯受け止めていた。学園では見られない兄の姿だった。
落ち着いたところで引き上げることにして、五人はあいさつをし、帰路についた。
「大福をいただいたわ。後で分けましょう、天野さん」
「やったー!」
「待ちな、ケーキ豚!」
無邪気に喜ぶいちごの背中に、またもや不躾な声がかけられた。
「あんたは、またそんなこと言ってー!」
復活した一太は、先ほどよりも挑戦的な目つきをしている。
「俺の夢、見つかったぜ!」
「えっ?」
「兄ちゃんが隣に店を出すなら、俺はうちを継いでみせる!」
「それって、ステキな夢ね!」
いちごが一太と何を話していたのか知らないが、今回の件で一太は大きく成長したらしい。疑問の答えが見つかった樹も、その言葉にすこしすっきりとした。
「見てろよ、素人のおまえなんか、すぐ追い抜いてやるからな!」
「一太・・・!」
「そして、ゆくゆくはサイボーグのことも見返してやるからな!」
「百年早いわ」
どうやら樹のことは『強いひと』認識をしているらしい一太に、冷静に切り返す。一太はその言葉に臆した様子もなく、再びいちごに目を向けた。
「俺とお前は、今日からライバルだ!」
「ちょっと・・・小学生にライバルとか言われたくないんですけど・・・」
「自信ないのか、ケーキ豚!」
「ああ、また言った!許せない!あたしは大食いクイーンなんだから!」
いちごは鞄を持った手を風車のように振り回して一太に襲いかかった。一太は身軽にかわし、見るに耐えない追いかけっこがはじまる。
「あいつ、やっぱり小学生レベルだな」
樫野はその光景を見ながら容赦なく言い放った。全員が口に出さずとも同意する。
「さ、帰ろう。聖マリー学園に」
樹はバス停に向かって歩き出しながら、週末とはこんなにも短いものだったかと思った。この感覚は、転校前日に河澄と下校した時と、少し似ていた。