33話 Bonjour, Paris!
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樹はここに来てようやく待たせている皆を思い出し、少々罪悪感を感じながらもちゃっかりとクレープを楽しんでしまった。シナモンが香る熱い林檎のソースと、薄いがもっちりした生地が絡んで、口の中がフルーティーな甘い味わいで満たされる。ソースに含まれているシナモン以外の香料が何なのかと思っていると、妙に真剣な表情になっていたらしい。リカルドは「美味しいというより興味深そうな顔だね」と褒めているような言い方をした。
「樹はスイーツが好きなの?」
「まあ、そうね」
「僕もだよ。なんていったって、このスイーツのためにイタリアから留学してきたんだから!」
「随分熱心なのね」
彼の発言をあまり気にも留めずに、樹はしばらく横目で周りの客が食べているクレープを観察していた。着たからには何か得て帰らなくてはと思っての行動だったのだが、リカルドは微妙に勘違いをした。
「あれ、まだ足りない?もう一つ頼んでもいいよ?」
「そこまで食い意地張ってないわよ。ちょっと、あなたも食べ終わったのなら早く駅まで連れてって」
樹は偉そうに言ったが、さすがに後ろめたさは隠せないので肝心の迫力に欠ける。リカルドがその物言いに笑みを浮かべているのが気に障ったが、「じゃあ行こうか」と席を立つことになると、ほっとして樹の顔は少し緩んだ。
どうやら留学生らしいことを言っていたが、リカルドはメトロに乗り馴れているらしく、元の駅まで戻るのは簡単だった。駅に滑りこむメトロの窓から緊張気味に五人を探すと、真っ先に樫野と目が合った。癪に思わなくもないが、早く謝らないといけなさそうな顔つきだ。
「ごめんなさい!」
「遅い!」
メトロを飛び出しながら潔く平謝りした樹に怒声が浴びせられた。続いて三人も樹の近くに駆け寄ってくる。
「どうしたの、東堂さん!」
「遅いから心配したんだよ」
「路線が思ったより複雑で迷ってしまったの」
「げ、樹ちゃんでも迷うなんてパリ怖いね・・・」
「おまえ、地図も読めなかったのか?案外バカだな」
「か弱い女の子に失礼だな、君?」
樫野が苛立ち気味に言っていると、隣で状況を見守っていたリカルドが割って入って樹の肩を寄せた。樹は自分がか弱くない自信はあるので微妙な表情を浮かべたが、樹以上に男三人が気に入らなさそうに眉をひそめた。
「そういう君こそ馴れ馴れしい!」
「この手をどけたまえ!」
花房が樹の肩に置かれた手を引きはがして、自分の方へ引き寄せる。背中がほとんど花房の身体に密着し、樹は驚いて声を上げかけた。居心地が悪いので少し身じろぎして逃れようとしたが、肩に添えられた手は思いの他力が込められている。
樹は頬に熱が集まるのを感じてどぎまぎと瞬きを繰り返した。そんな中、リカルドと花房の膠着状態を解いてくれたのはいちごだった。
「樹ちゃん、この人だれ?」
一切の毒気が無く、且つ文句無しに妥当な質問は場の空気を正常に戻した。
樹はほっとして息を吐く。
「ここまで案内してもらったのよ。リカルド・ベニーニ。イタリアからの留学生だそうよ」
「へえ、留学生ならあたしたちと同じだね!」
愛想良く笑いかけるいちごに、リカルドは興味を示す。
「初めまして、お名前を教えてよ」
「天野いちごです!」
「いちごだね。僕はリックって呼んでよ。今日は運がいいなあ!二人も日本人のかわいい女の子と出会えるなんて!」
「あ、はは・・・」
いちごは乾いた笑いを漏らす。少々面倒くさい男に近づいたことは察したらしい。
「もっと話したいところだけれど、時間だ!友達にも会えたしもう大丈夫だね、樹」
「ええ、大丈夫よ。どうも」
樹は食い気味に短く礼を言った。
「それじゃあ・・・チャオ!」
リカルドは別れ際にごく自然な動作で樹の頬にキスを落として去って行った。
「あれって、あいさ・・・つ?」
硬直した樹に代わって、いちごが花房の方に首を傾げる。
「・・・なんで僕に聞くの、いちごちゃん?」
だって似てるんだもん、といちごは言いかけたが、花房が少々機嫌が悪そうに見えたので笑って誤摩化した。
「お前、なんでチャラ男に絡まれるようなことしたんだよ」
「私は純粋に道に迷ってしまっただけよ」
「まあなんか親切そうな人だから良かったけど・・・。それにしても、東堂さんだったらどんなに困っても違うタイプの人に頼ると思ってた」
「うるさいわね・・・ちょっと花房君に似てたから油断しただけよ」
樹はつっけんどんに言いながらふと時計を見て愕然とした。
「大変、前夜祭が始まるわ!」
「結局どこにも行けなかったじゃねえか!」
「謝ったでしょ!」
「樹ちゃんのせいじゃないよ、樫野!あたしが寝てたのが悪いんだから・・・」
「両方に言ってんだよ!」
「ひいっ」
五人は早足で聖マリー学園パリ本校を目指した。その道中で樹はリカルドとクレープを食べていたことを吐かされ、少々いちごの反感を買った。
「樹はスイーツが好きなの?」
「まあ、そうね」
「僕もだよ。なんていったって、このスイーツのためにイタリアから留学してきたんだから!」
「随分熱心なのね」
彼の発言をあまり気にも留めずに、樹はしばらく横目で周りの客が食べているクレープを観察していた。着たからには何か得て帰らなくてはと思っての行動だったのだが、リカルドは微妙に勘違いをした。
「あれ、まだ足りない?もう一つ頼んでもいいよ?」
「そこまで食い意地張ってないわよ。ちょっと、あなたも食べ終わったのなら早く駅まで連れてって」
樹は偉そうに言ったが、さすがに後ろめたさは隠せないので肝心の迫力に欠ける。リカルドがその物言いに笑みを浮かべているのが気に障ったが、「じゃあ行こうか」と席を立つことになると、ほっとして樹の顔は少し緩んだ。
どうやら留学生らしいことを言っていたが、リカルドはメトロに乗り馴れているらしく、元の駅まで戻るのは簡単だった。駅に滑りこむメトロの窓から緊張気味に五人を探すと、真っ先に樫野と目が合った。癪に思わなくもないが、早く謝らないといけなさそうな顔つきだ。
「ごめんなさい!」
「遅い!」
メトロを飛び出しながら潔く平謝りした樹に怒声が浴びせられた。続いて三人も樹の近くに駆け寄ってくる。
「どうしたの、東堂さん!」
「遅いから心配したんだよ」
「路線が思ったより複雑で迷ってしまったの」
「げ、樹ちゃんでも迷うなんてパリ怖いね・・・」
「おまえ、地図も読めなかったのか?案外バカだな」
「か弱い女の子に失礼だな、君?」
樫野が苛立ち気味に言っていると、隣で状況を見守っていたリカルドが割って入って樹の肩を寄せた。樹は自分がか弱くない自信はあるので微妙な表情を浮かべたが、樹以上に男三人が気に入らなさそうに眉をひそめた。
「そういう君こそ馴れ馴れしい!」
「この手をどけたまえ!」
花房が樹の肩に置かれた手を引きはがして、自分の方へ引き寄せる。背中がほとんど花房の身体に密着し、樹は驚いて声を上げかけた。居心地が悪いので少し身じろぎして逃れようとしたが、肩に添えられた手は思いの他力が込められている。
樹は頬に熱が集まるのを感じてどぎまぎと瞬きを繰り返した。そんな中、リカルドと花房の膠着状態を解いてくれたのはいちごだった。
「樹ちゃん、この人だれ?」
一切の毒気が無く、且つ文句無しに妥当な質問は場の空気を正常に戻した。
樹はほっとして息を吐く。
「ここまで案内してもらったのよ。リカルド・ベニーニ。イタリアからの留学生だそうよ」
「へえ、留学生ならあたしたちと同じだね!」
愛想良く笑いかけるいちごに、リカルドは興味を示す。
「初めまして、お名前を教えてよ」
「天野いちごです!」
「いちごだね。僕はリックって呼んでよ。今日は運がいいなあ!二人も日本人のかわいい女の子と出会えるなんて!」
「あ、はは・・・」
いちごは乾いた笑いを漏らす。少々面倒くさい男に近づいたことは察したらしい。
「もっと話したいところだけれど、時間だ!友達にも会えたしもう大丈夫だね、樹」
「ええ、大丈夫よ。どうも」
樹は食い気味に短く礼を言った。
「それじゃあ・・・チャオ!」
リカルドは別れ際にごく自然な動作で樹の頬にキスを落として去って行った。
「あれって、あいさ・・・つ?」
硬直した樹に代わって、いちごが花房の方に首を傾げる。
「・・・なんで僕に聞くの、いちごちゃん?」
だって似てるんだもん、といちごは言いかけたが、花房が少々機嫌が悪そうに見えたので笑って誤摩化した。
「お前、なんでチャラ男に絡まれるようなことしたんだよ」
「私は純粋に道に迷ってしまっただけよ」
「まあなんか親切そうな人だから良かったけど・・・。それにしても、東堂さんだったらどんなに困っても違うタイプの人に頼ると思ってた」
「うるさいわね・・・ちょっと花房君に似てたから油断しただけよ」
樹はつっけんどんに言いながらふと時計を見て愕然とした。
「大変、前夜祭が始まるわ!」
「結局どこにも行けなかったじゃねえか!」
「謝ったでしょ!」
「樹ちゃんのせいじゃないよ、樫野!あたしが寝てたのが悪いんだから・・・」
「両方に言ってんだよ!」
「ひいっ」
五人は早足で聖マリー学園パリ本校を目指した。その道中で樹はリカルドとクレープを食べていたことを吐かされ、少々いちごの反感を買った。