33話 Bonjour, Paris!
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樹は次の駅のホームにぎこちない足取りで降り立って、全ての車線に通じる改札口のフロアまでふらふらと移動したが、それだけで右も左も分からなくなっていた。フランス語を読む分には申し分の無い勉強をしたつもりなので、案内表示を見れば分かるかとも思ったが、駅名も車線も思い出せない。
とりあえず直感で一本のメトロに乗り込んでみたが、さっきの駅とは異なっていた。
(なに迂闊に移動してるのよ、私・・・頭が沸いて来たのかしら)
飲み物でも飲んで頭を冷やしたいところだが、残念ながら今の樹は一文無しだ。とりあえず樹は路線図とにらめっこをはじめたが、異国の地下世界は想像以上に複雑だった。そもそも外出型の人間でなかったせいで、樹は東京の地下鉄すら乗りこなせないのだ。
「Hi! Buon giorno, senorita!」
その時、所在無さげに辺りを見渡した樹の前に同年代の男が現れた。イタリア語を喋りたいのかスペイン語を喋りたいのか、どっちつかずの彼は大変に整った顔立ちをしていたが、妙に気品に欠ける様子をしており、樹は鋭く三歩下がって警戒した。
怯む様子も無く、彼はフランス語で喋りはじめる。
「僕、リカルド・ベニーニ!リックって呼んでよ」
「嫌」
樹は極めて初歩的な単語を口にした。どこからどう見ても拒否の姿勢をとっているにも関わらず、リカルドは妙にポジティブだ。
「でも、君迷子なんだよね?大丈夫、僕に任せて!」
リカルドは馴れ馴れしく樹の肩を寄せ、星が飛び出しそうな完璧なウインクをかました。一般的な危機感を備えている乙女なら三秒で逃げ出しそうな状況だが、その様子がどこか出会って間もない頃の花房に感じた雰囲気と似ている気がして、樹は思わず警戒を緩めた。
「・・・じゃあ、駅への行き方を・・・あの、凱旋門に近い駅なのだけど」
「うん、さあ!こっちに来て!」
リカルドに手を引かれるままに、樹は歩を進める。本当に大丈夫なのかは冷静に考えれば非常に疑わしいが、樹の本能は早くも彼の存在を少し許容しはじめている。本人にとっては非常に認めがたいだろうが早い話、この手の男がタイプなのだろう。
「・・・待って、改札を出るの?」
「うん。いいから着いて来て!精算、分からない?見ててね」
てきぱきと樹は駅外に連れ出される。車の音を聞いてようやく理性が働きはじめた。
「あなた、ふざけてるの?」
「大丈夫、ちゃんと送ってあげるから!実は僕もきょう凱旋門近くまで行くんだ」
「う、嘘じゃないでしょうね・・・」
外に出られるといよいよ道が分からず、樹は顔色が悪くなってきた。
「だから、大丈夫だって!でも、その前に僕の用事をすませないとね!僕、このために来たんだもの」
リカルドはしっかりした店構えのクレープリーの前で立ち止まった。いちごなら歓喜するところだろう。
「ねえ、違うところに連れて行ったり、逃げたりするのは本当に無しよ?私、もうあなたにしか頼れないのよ?」
「日本人のわりに流暢な口説き文句だね・・・意外とかわいらしいところがあるじゃない」
「あのね、私親しくもない男に冗談は言わないのよ」
「まあまあ、甘いものでも食べながら話を聞かせてよ」
「・・・あ、そのこととメトロのことなんだけれど・・・」
樹は刺々しい言葉の調子が次第に情けなくなってきた。
「お金、貸してくださる?」
こんなフレーズをパリ散策初日で使うことになるとは思わなかった。リカルドはその様子に明らかに大笑いしかけたが、フェミニストとしては本物らしく、それを引っ込めて紳士的に微笑んで了承してくれた。
とりあえず直感で一本のメトロに乗り込んでみたが、さっきの駅とは異なっていた。
(なに迂闊に移動してるのよ、私・・・頭が沸いて来たのかしら)
飲み物でも飲んで頭を冷やしたいところだが、残念ながら今の樹は一文無しだ。とりあえず樹は路線図とにらめっこをはじめたが、異国の地下世界は想像以上に複雑だった。そもそも外出型の人間でなかったせいで、樹は東京の地下鉄すら乗りこなせないのだ。
「Hi! Buon giorno, senorita!」
その時、所在無さげに辺りを見渡した樹の前に同年代の男が現れた。イタリア語を喋りたいのかスペイン語を喋りたいのか、どっちつかずの彼は大変に整った顔立ちをしていたが、妙に気品に欠ける様子をしており、樹は鋭く三歩下がって警戒した。
怯む様子も無く、彼はフランス語で喋りはじめる。
「僕、リカルド・ベニーニ!リックって呼んでよ」
「嫌」
樹は極めて初歩的な単語を口にした。どこからどう見ても拒否の姿勢をとっているにも関わらず、リカルドは妙にポジティブだ。
「でも、君迷子なんだよね?大丈夫、僕に任せて!」
リカルドは馴れ馴れしく樹の肩を寄せ、星が飛び出しそうな完璧なウインクをかました。一般的な危機感を備えている乙女なら三秒で逃げ出しそうな状況だが、その様子がどこか出会って間もない頃の花房に感じた雰囲気と似ている気がして、樹は思わず警戒を緩めた。
「・・・じゃあ、駅への行き方を・・・あの、凱旋門に近い駅なのだけど」
「うん、さあ!こっちに来て!」
リカルドに手を引かれるままに、樹は歩を進める。本当に大丈夫なのかは冷静に考えれば非常に疑わしいが、樹の本能は早くも彼の存在を少し許容しはじめている。本人にとっては非常に認めがたいだろうが早い話、この手の男がタイプなのだろう。
「・・・待って、改札を出るの?」
「うん。いいから着いて来て!精算、分からない?見ててね」
てきぱきと樹は駅外に連れ出される。車の音を聞いてようやく理性が働きはじめた。
「あなた、ふざけてるの?」
「大丈夫、ちゃんと送ってあげるから!実は僕もきょう凱旋門近くまで行くんだ」
「う、嘘じゃないでしょうね・・・」
外に出られるといよいよ道が分からず、樹は顔色が悪くなってきた。
「だから、大丈夫だって!でも、その前に僕の用事をすませないとね!僕、このために来たんだもの」
リカルドはしっかりした店構えのクレープリーの前で立ち止まった。いちごなら歓喜するところだろう。
「ねえ、違うところに連れて行ったり、逃げたりするのは本当に無しよ?私、もうあなたにしか頼れないのよ?」
「日本人のわりに流暢な口説き文句だね・・・意外とかわいらしいところがあるじゃない」
「あのね、私親しくもない男に冗談は言わないのよ」
「まあまあ、甘いものでも食べながら話を聞かせてよ」
「・・・あ、そのこととメトロのことなんだけれど・・・」
樹は刺々しい言葉の調子が次第に情けなくなってきた。
「お金、貸してくださる?」
こんなフレーズをパリ散策初日で使うことになるとは思わなかった。リカルドはその様子に明らかに大笑いしかけたが、フェミニストとしては本物らしく、それを引っ込めて紳士的に微笑んで了承してくれた。