33話 Bonjour, Paris!
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午後二時から聖マリー学園パリ本校にて前夜祭が開催されるが、それまでの時間を五人は観光にあてることにした。地図を見たところどうやら学園付近には凱旋門があるらしい。その周辺は観光名所として有名なので、オーソドックスに攻めてみようと安堂がいう。パリ留学に向けて数冊ガイドブックを買い込んでいた彼が一番頼れそうなので、みんな二つ返事で頷いた。
本拠地から近いメトロの駅はこれから頻繁に使うことになりそうだ。一同は地図を見ながら駅を目指しつつ、つい辺りの光景に目を奪われたが、いちごの好奇心を上回る者はいなかった。
「香ばしくって甘酸っぱいこの香り・・・キャー!タルト・タタン!おいしそーっ!」
「こら、1人でふらふらするんじゃない」
「だって・・・」
お菓子の気配を察するなり店の窓へ突進して行くいちごを取り押さえるので、樫野は次第に手一杯になっていた。涎を垂らして店内を覗き込む彼女の姿にお洒落なパリジャンも驚きの色を隠せない様子だ。それを見て樹は吹き出したが、笑い事じゃないと樫野に怒鳴られた。
「この香りは・・・クレープだ!」
「グラン・マルニエでフランベしたら・・・!」
「カラメルソースになってクレープ・シュゼットですー!」
「いいえ、アイスとチョコソースが最高ですわ!」
「それにこのコーヒーの香り!クレープの味わいをより深くしてくれますよ」
「もう食べるっきゃなーい!」
「止まらない!十分朝食食べたでしょ!」
スピリッツと一緒になって暴走しがちないちごを樹も樫野と代わる代わる連れ戻す。本場の菓子を早く食べたいのは分かるが、一度許可すると芋づる式にいちごはパリ全域を食い尽くしにかかってしまうだろう。
「もうちょっと落ち着いたらにしましょうよ、いちご。近所の地理もまだ把握してないのだし・・・」
「じゃあ、慣れて来たら樹ちゃんもパティスリー全制覇付き合ってくれる?」
「なんかさらっとすごいこと言ったわね・・・まあ財布と胃袋によるけど」
そんなことを話している内に五人は駅に着き、おたおたとどうにか切符を入手してメトロに乗り込んだ。何度も地図と駅名と路線を確認したので間違いは無いはずだ。
「パリってすごいね!有名なお店だけじゃなくて、街中に素敵なスイーツが溢れてる!まるでスイーツの宝石箱やー!」
いちごは狭い車内でも興奮を隠しきれずに、どこか料理評論家のようなテンションで喚いて散々悪目立ちして、四人は他人のふりに徹した。
目的地は思っていたより遠く、空いた座席に座って到着を待っている内にいちごはまた寝はじめていた。
「せわしない奴だな・・・ガキかよ」
「でも、一番大物なんじゃない?僕はしばらく緊張で快眠できそうにないよ」
なんだかんだで起こさないようにひそひそと話しているうちに、駅に到着した。いちごの隣に座っていた樹は「降りるわよ」と引っ張ったがいちごは寝ぼけた様子だ。
「樹ちゃん、荷物」
「あ、ありがとう花房君」
花房が樹が座席に放置しかけた荷物を預かって、樫野や安堂と先に出て行く。
「・・・ん、あれ・・・もう着いたの?」
「着いたのよ!早く!」
樹はどうにかいちごを出口に押し出したが、入れ違いに入ってきた杖をついた老婦人とぶつかって手に持っていた切符を落としてしまった。
「Ça va?」
「Ça va.」
老婦人と短く言葉を交わすと、樹はきょろきょろと切符を探した。老婦人が杖で座席近くの地面を指してくれる。礼を言って樹は切符を拾い上げ、出口に振り返った。
そして、次の瞬間ドアがピシャリと閉められた。
「ん?」
樹はきょとんとした顔でガラス越しに四人と目を合わせた。電車が徐々に動きだし、四人はようやく慌てた様子で電車に並走したが何の意味も無い。
「ここで待ってるから!次の駅で降りて戻ってこーい!」
樫野が大声で呼びかける。樹は手を挙げて応えた。
反対車線に乗るだけならどうにかなるだろうか。俄に訪れた修羅場の予感に、心臓が激しく動揺を訴える。ふと気づいたが樹は切符以外の持ち物を花房に預けてしまっていた。
(・・・やばいかも)
本拠地から近いメトロの駅はこれから頻繁に使うことになりそうだ。一同は地図を見ながら駅を目指しつつ、つい辺りの光景に目を奪われたが、いちごの好奇心を上回る者はいなかった。
「香ばしくって甘酸っぱいこの香り・・・キャー!タルト・タタン!おいしそーっ!」
「こら、1人でふらふらするんじゃない」
「だって・・・」
お菓子の気配を察するなり店の窓へ突進して行くいちごを取り押さえるので、樫野は次第に手一杯になっていた。涎を垂らして店内を覗き込む彼女の姿にお洒落なパリジャンも驚きの色を隠せない様子だ。それを見て樹は吹き出したが、笑い事じゃないと樫野に怒鳴られた。
「この香りは・・・クレープだ!」
「グラン・マルニエでフランベしたら・・・!」
「カラメルソースになってクレープ・シュゼットですー!」
「いいえ、アイスとチョコソースが最高ですわ!」
「それにこのコーヒーの香り!クレープの味わいをより深くしてくれますよ」
「もう食べるっきゃなーい!」
「止まらない!十分朝食食べたでしょ!」
スピリッツと一緒になって暴走しがちないちごを樹も樫野と代わる代わる連れ戻す。本場の菓子を早く食べたいのは分かるが、一度許可すると芋づる式にいちごはパリ全域を食い尽くしにかかってしまうだろう。
「もうちょっと落ち着いたらにしましょうよ、いちご。近所の地理もまだ把握してないのだし・・・」
「じゃあ、慣れて来たら樹ちゃんもパティスリー全制覇付き合ってくれる?」
「なんかさらっとすごいこと言ったわね・・・まあ財布と胃袋によるけど」
そんなことを話している内に五人は駅に着き、おたおたとどうにか切符を入手してメトロに乗り込んだ。何度も地図と駅名と路線を確認したので間違いは無いはずだ。
「パリってすごいね!有名なお店だけじゃなくて、街中に素敵なスイーツが溢れてる!まるでスイーツの宝石箱やー!」
いちごは狭い車内でも興奮を隠しきれずに、どこか料理評論家のようなテンションで喚いて散々悪目立ちして、四人は他人のふりに徹した。
目的地は思っていたより遠く、空いた座席に座って到着を待っている内にいちごはまた寝はじめていた。
「せわしない奴だな・・・ガキかよ」
「でも、一番大物なんじゃない?僕はしばらく緊張で快眠できそうにないよ」
なんだかんだで起こさないようにひそひそと話しているうちに、駅に到着した。いちごの隣に座っていた樹は「降りるわよ」と引っ張ったがいちごは寝ぼけた様子だ。
「樹ちゃん、荷物」
「あ、ありがとう花房君」
花房が樹が座席に放置しかけた荷物を預かって、樫野や安堂と先に出て行く。
「・・・ん、あれ・・・もう着いたの?」
「着いたのよ!早く!」
樹はどうにかいちごを出口に押し出したが、入れ違いに入ってきた杖をついた老婦人とぶつかって手に持っていた切符を落としてしまった。
「Ça va?」
「Ça va.」
老婦人と短く言葉を交わすと、樹はきょろきょろと切符を探した。老婦人が杖で座席近くの地面を指してくれる。礼を言って樹は切符を拾い上げ、出口に振り返った。
そして、次の瞬間ドアがピシャリと閉められた。
「ん?」
樹はきょとんとした顔でガラス越しに四人と目を合わせた。電車が徐々に動きだし、四人はようやく慌てた様子で電車に並走したが何の意味も無い。
「ここで待ってるから!次の駅で降りて戻ってこーい!」
樫野が大声で呼びかける。樹は手を挙げて応えた。
反対車線に乗るだけならどうにかなるだろうか。俄に訪れた修羅場の予感に、心臓が激しく動揺を訴える。ふと気づいたが樹は切符以外の持ち物を花房に預けてしまっていた。
(・・・やばいかも)