32話 開かれる扉
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「あれ、樹ちゃんまだかなー?」
「絶対見送りに来るって言ってたのに、変だな・・・」
翌日の空港ロビーでは、大勢の見送りの人々に囲まれながらいちご達が樹の姿を探していた。
「天野より遅いのは確かにおかしい」
「何かあったのかな———」
「みんな」
そこにさっそうと現れた樹よりも、四人はその手元にある重そうなスーツケースに視線を集めた。
「なんだおまえその荷物、まさか———」
「なんでって、私も一緒に行くのよ」
「ええーっ!?」
完全に度肝を抜かれたというような顔に樹はまあまあ満足したが、なんとなく罪悪感を覚えて花房と横目で視線を合わせた。
「あの・・・ごめんなさい、花房君」
「・・・ほんと、樹ちゃんには敵わないよ。ほんとにどうにかできちゃうなんて」
花房は、苦笑する。怒っていなさそうで樹はほっとした。
「でも私、今回はみんなに連れて行ってもらうようなものだから。早く追いつけるように頑張るわ」
「とにかく、みんな一緒に行けるんだ!やったー!」
いちごが両手を上げて飛び跳ねる。率直な表現にみんなが思わず笑い声をあげる。
そんな中、ロビーの人だかりに中学生ぐらいの集団が流れ込んで来た。どうやら人を捜しているようだったが、1人の目が樹に向けられたかと思うと、次々に隣の者の肩を叩いてなにやら口々に騒ぎはじめる。
「ねえ、あれじゃない?」
「うそ、滅茶苦茶イケメン引き連れてるけど?」
「ていうかあの外人なに?あれも知り合いなの?」
「バカあれ有名なパティシエじゃん」
どの顔にも微妙に覚えがある。じりじりと近づいてくる彼らを見つめながら、樹が少々困っていると、集団の中からひょっこりと河澄が顔を出した。
前の中学の同級生だったと樹はやっと思い出した。腑に落ちた顔に変わると同時に安心した様子でみんなが話しかけて来た。
「あー、東堂・・・なんかいっぱい来た」
「もうびっくりした!お母さんから東堂さんがパリに行くって聞いたんだよ!」
「俺は河澄からー」
「東堂さんってそんなすごいパティシエだったの?」
「で、あのイケメンなに?」
樹は一瞬困惑したように沈黙したが、ふっと短く笑った。
「私は女だから、パティシエじゃなくてパティシエールよ。あと、その辺りにいるイケメンの人たちは私の友達」
「わ、なんだよ転校した途端愛想良くなりやがって!」
「東堂さん性格すごい変わってるし!」
「ていうか友達多くない?」
「あら、三人で多いの?そこの子もそうだし、あの辺りもみんな友達よ」
「い、いつの間に・・・」
樹のかつての様子からの変貌ぶりに彼らは一様に目を瞬かせる。その様子を見て樹は聖マリー学園日本校に転校した自分の選択がけして間違っていなかったと確信できた気がした。
それと同時に、前の中学で1人でいることばかり好んでいたことに少し後悔する。何が楽しいのか全く分からなかった修学旅行も、今の樹なら行っておけばよかったと思える。
「おい、東堂。そろそろ・・・」
「ああ、そう・・・じゃああなた達、今日は来てくれてありがとう」
天王寺達が搭乗手続きに移動をはじめたので、樹はさらりと背を向けた。
「あ、そこはドライなんだ・・・」
「東堂!」
スーツケースを引いて歩き出そうとした樹の背中に、河澄が声を張り上げた。
「俺達、お前の夢応援してるからな!頑張って来いよ!」
「・・・ありがとう」
「あ、ちょっと!そこの古いお友達、ええとことらんといてや!」
「ついこないだまで東堂さんと同じクラスにいたのこっちなんだからね!」
ルミ達が河澄を非難しながらばらばらに別れの挨拶を叫んでくる。いちご達はいつも通り賑やかなクラスメイトの姿にもう一度笑みを漏らした。
「なあ、東堂のこと頼むな!」
河澄が最後に手を振りながら怒鳴る。誰に言っているのかと樹が少々恥ずかしく思っていると、いちごが手を口元に添えて息を吸い込んだ。
「言われなくても大丈夫ですよー!」
「あかーん!それいちごちゃんだけは言ったらあかんやつや!」
「えっ、なんで!ルミさん!?」
「天野さん、手続き遅れるよ」
「もういいから、早く」
グダグダとその場を後にした樹だが、その表情は明るかった。
———転校してきたばかりの頃は先を見失っていたし、自分以外は見えていなかったけれど。
今、自分の前に道は開けている。
数日前まではあんなに遠かったパリは、もう目前だった。
一年前の私が今の私を見たらどう思うだろうか———なんて考えるのはまだ早いかな、と樹は胸の中で一人思った。
「絶対見送りに来るって言ってたのに、変だな・・・」
翌日の空港ロビーでは、大勢の見送りの人々に囲まれながらいちご達が樹の姿を探していた。
「天野より遅いのは確かにおかしい」
「何かあったのかな———」
「みんな」
そこにさっそうと現れた樹よりも、四人はその手元にある重そうなスーツケースに視線を集めた。
「なんだおまえその荷物、まさか———」
「なんでって、私も一緒に行くのよ」
「ええーっ!?」
完全に度肝を抜かれたというような顔に樹はまあまあ満足したが、なんとなく罪悪感を覚えて花房と横目で視線を合わせた。
「あの・・・ごめんなさい、花房君」
「・・・ほんと、樹ちゃんには敵わないよ。ほんとにどうにかできちゃうなんて」
花房は、苦笑する。怒っていなさそうで樹はほっとした。
「でも私、今回はみんなに連れて行ってもらうようなものだから。早く追いつけるように頑張るわ」
「とにかく、みんな一緒に行けるんだ!やったー!」
いちごが両手を上げて飛び跳ねる。率直な表現にみんなが思わず笑い声をあげる。
そんな中、ロビーの人だかりに中学生ぐらいの集団が流れ込んで来た。どうやら人を捜しているようだったが、1人の目が樹に向けられたかと思うと、次々に隣の者の肩を叩いてなにやら口々に騒ぎはじめる。
「ねえ、あれじゃない?」
「うそ、滅茶苦茶イケメン引き連れてるけど?」
「ていうかあの外人なに?あれも知り合いなの?」
「バカあれ有名なパティシエじゃん」
どの顔にも微妙に覚えがある。じりじりと近づいてくる彼らを見つめながら、樹が少々困っていると、集団の中からひょっこりと河澄が顔を出した。
前の中学の同級生だったと樹はやっと思い出した。腑に落ちた顔に変わると同時に安心した様子でみんなが話しかけて来た。
「あー、東堂・・・なんかいっぱい来た」
「もうびっくりした!お母さんから東堂さんがパリに行くって聞いたんだよ!」
「俺は河澄からー」
「東堂さんってそんなすごいパティシエだったの?」
「で、あのイケメンなに?」
樹は一瞬困惑したように沈黙したが、ふっと短く笑った。
「私は女だから、パティシエじゃなくてパティシエールよ。あと、その辺りにいるイケメンの人たちは私の友達」
「わ、なんだよ転校した途端愛想良くなりやがって!」
「東堂さん性格すごい変わってるし!」
「ていうか友達多くない?」
「あら、三人で多いの?そこの子もそうだし、あの辺りもみんな友達よ」
「い、いつの間に・・・」
樹のかつての様子からの変貌ぶりに彼らは一様に目を瞬かせる。その様子を見て樹は聖マリー学園日本校に転校した自分の選択がけして間違っていなかったと確信できた気がした。
それと同時に、前の中学で1人でいることばかり好んでいたことに少し後悔する。何が楽しいのか全く分からなかった修学旅行も、今の樹なら行っておけばよかったと思える。
「おい、東堂。そろそろ・・・」
「ああ、そう・・・じゃああなた達、今日は来てくれてありがとう」
天王寺達が搭乗手続きに移動をはじめたので、樹はさらりと背を向けた。
「あ、そこはドライなんだ・・・」
「東堂!」
スーツケースを引いて歩き出そうとした樹の背中に、河澄が声を張り上げた。
「俺達、お前の夢応援してるからな!頑張って来いよ!」
「・・・ありがとう」
「あ、ちょっと!そこの古いお友達、ええとことらんといてや!」
「ついこないだまで東堂さんと同じクラスにいたのこっちなんだからね!」
ルミ達が河澄を非難しながらばらばらに別れの挨拶を叫んでくる。いちご達はいつも通り賑やかなクラスメイトの姿にもう一度笑みを漏らした。
「なあ、東堂のこと頼むな!」
河澄が最後に手を振りながら怒鳴る。誰に言っているのかと樹が少々恥ずかしく思っていると、いちごが手を口元に添えて息を吸い込んだ。
「言われなくても大丈夫ですよー!」
「あかーん!それいちごちゃんだけは言ったらあかんやつや!」
「えっ、なんで!ルミさん!?」
「天野さん、手続き遅れるよ」
「もういいから、早く」
グダグダとその場を後にした樹だが、その表情は明るかった。
———転校してきたばかりの頃は先を見失っていたし、自分以外は見えていなかったけれど。
今、自分の前に道は開けている。
数日前まではあんなに遠かったパリは、もう目前だった。
一年前の私が今の私を見たらどう思うだろうか———なんて考えるのはまだ早いかな、と樹は胸の中で一人思った。