32話 開かれる扉
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通りかかる生徒全員の視線を浴びながら、樹はアンリ先生に連れられて生徒指導室へやってきた。
自称・不良時代だった転校当初でも入ったことの無い部屋に樹はこの日初めて入ったが、たいそうな部屋の名前の割には居心地の良さそうな二人がけのソファが、重厚な木製のテーブルを挟んで二つしつらえてあった。そして、奥側のソファには飴屋先生が座っているのだった。
あいさつと同時に今にも首を傾げそうなほどの樹の様子を見て飴屋先生が微笑んだところを見ると、どうやら悪い話ではなさそうだった。
座るように促された樹が二人の先生と向かい合う。飴屋先生が、膝に乗せていた白い大判の封筒を樹に差し出す。
「きょう決まった話なのよ。中をみてごらんなさい」
心なしか生き生きとした目つきの飴屋先生に少しどぎまぎしながらも、樹は軽く糊付された封筒を慎重に開いた。
中から出て来たのは、フランス語で書かれた書類とその日本語訳。
その内容に、心臓がはねた。
「パリ・・・!」
樹は、なんと言っていいか分からず、とにかく浮かんだ最初の単語を発した。アンリ先生と飴屋先生がその反応を見て深い笑みを浮かべる。
「私も一緒に行っていいんですか・・・?なんで・・・」
「そうですね。君の場合は彼らのようにグランプリ参加などの実績が無いから難しい話ではあったんですが、平常点の評価内容を考慮すると今出しておくべき生徒だという声が多かったのです」
「個人成績はもちろんなのだけれど、東堂さんのグループワークとしての評価の上り具合を考えると、他のグループ員が留学するこの機会に同行させることでもっとも伸びる可能性があるということになったのよ」
飴屋先生が話すところによると、チームいちごのBグループ枠獲得が決定すると同時に、ほぼ全ての教師が常に四人の側に居る1人の女子生徒について言及したという。身の振り方に迷いながらも、基礎科目から地道に勉強し、個人的に努力を重ねていく過程で樹の姿は多くの教師の目に留まっていたようだ。
ケーキグランプリ世界大会主催のパリ本校と交渉したのち、樹は大会補佐生徒として主にBグループのサブメンバーとして参加しつつ、適宜運営側の指示に従って行動することになるということが決定した。
大会優勝グループに与えられるパリ本校への留学資格に関しては保留となっており、樹個人のはたらきが別枠で評価されるのかBグループ優勝の際に樹にも与えられるのかは分からない。
「日本校の先生が君に用意してくれた絶好の機会です。パリへ持って行く夢はもうありますね?」
どうして分かったのか、アンリ先生はそう言うと悪戯っぽく微笑む。樹は一瞬目を見開いたが、少し挑戦的に口角をつり上げた。
「私の夢はアンリ先生を超えることですよ。楽しみにしていてください」
「おや、言うようになりましたね。僕を超えるのは難しいですよ」
「難しいからですよ」
樹は封筒を胸に抱くと、ソファから立ち上がった。
「本当にありがとうございました。私、精一杯やってきます!」
出発の日まで樹も公欠になり実家に戻ることになるとの説明に返事をするのもそこそこに、樹は指導室を飛び出した。
階段を早足に降りながら、不思議と今学園内にいるなかで一番この知らせを伝えたい人が、すぐそこに居る気がしていた。
そして、屋外に通じる大階段に差し掛かった樹は、その姿を確かに捉えたのだった。
スピリッツの女王像の影から覗く金色の髪。
そう言えば、大きな声を上げて彼女の名前を呼ぶのは初めてかもしれない。
「アリス!」
自称・不良時代だった転校当初でも入ったことの無い部屋に樹はこの日初めて入ったが、たいそうな部屋の名前の割には居心地の良さそうな二人がけのソファが、重厚な木製のテーブルを挟んで二つしつらえてあった。そして、奥側のソファには飴屋先生が座っているのだった。
あいさつと同時に今にも首を傾げそうなほどの樹の様子を見て飴屋先生が微笑んだところを見ると、どうやら悪い話ではなさそうだった。
座るように促された樹が二人の先生と向かい合う。飴屋先生が、膝に乗せていた白い大判の封筒を樹に差し出す。
「きょう決まった話なのよ。中をみてごらんなさい」
心なしか生き生きとした目つきの飴屋先生に少しどぎまぎしながらも、樹は軽く糊付された封筒を慎重に開いた。
中から出て来たのは、フランス語で書かれた書類とその日本語訳。
その内容に、心臓がはねた。
「パリ・・・!」
樹は、なんと言っていいか分からず、とにかく浮かんだ最初の単語を発した。アンリ先生と飴屋先生がその反応を見て深い笑みを浮かべる。
「私も一緒に行っていいんですか・・・?なんで・・・」
「そうですね。君の場合は彼らのようにグランプリ参加などの実績が無いから難しい話ではあったんですが、平常点の評価内容を考慮すると今出しておくべき生徒だという声が多かったのです」
「個人成績はもちろんなのだけれど、東堂さんのグループワークとしての評価の上り具合を考えると、他のグループ員が留学するこの機会に同行させることでもっとも伸びる可能性があるということになったのよ」
飴屋先生が話すところによると、チームいちごのBグループ枠獲得が決定すると同時に、ほぼ全ての教師が常に四人の側に居る1人の女子生徒について言及したという。身の振り方に迷いながらも、基礎科目から地道に勉強し、個人的に努力を重ねていく過程で樹の姿は多くの教師の目に留まっていたようだ。
ケーキグランプリ世界大会主催のパリ本校と交渉したのち、樹は大会補佐生徒として主にBグループのサブメンバーとして参加しつつ、適宜運営側の指示に従って行動することになるということが決定した。
大会優勝グループに与えられるパリ本校への留学資格に関しては保留となっており、樹個人のはたらきが別枠で評価されるのかBグループ優勝の際に樹にも与えられるのかは分からない。
「日本校の先生が君に用意してくれた絶好の機会です。パリへ持って行く夢はもうありますね?」
どうして分かったのか、アンリ先生はそう言うと悪戯っぽく微笑む。樹は一瞬目を見開いたが、少し挑戦的に口角をつり上げた。
「私の夢はアンリ先生を超えることですよ。楽しみにしていてください」
「おや、言うようになりましたね。僕を超えるのは難しいですよ」
「難しいからですよ」
樹は封筒を胸に抱くと、ソファから立ち上がった。
「本当にありがとうございました。私、精一杯やってきます!」
出発の日まで樹も公欠になり実家に戻ることになるとの説明に返事をするのもそこそこに、樹は指導室を飛び出した。
階段を早足に降りながら、不思議と今学園内にいるなかで一番この知らせを伝えたい人が、すぐそこに居る気がしていた。
そして、屋外に通じる大階段に差し掛かった樹は、その姿を確かに捉えたのだった。
スピリッツの女王像の影から覗く金色の髪。
そう言えば、大きな声を上げて彼女の名前を呼ぶのは初めてかもしれない。
「アリス!」