31話 夢への飛翔
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樫野の命に別状は無く、原因も予想通り過労だ。
樹は樫野が寝かされたベッドの側の椅子に静かに座っていた。いちご達は休憩時間になるまではどうにか製作に集中しようとステージに戻ったのだ。
(・・・人騒がせな奴)
少し安心したので暇になってきた樹は、頬杖をつきながら欠伸をした。
倒れた友人をわざわざ起こす趣味はないが、目が覚めたときになぜ起こさなかったと怒鳴られるのが自分になると思うとちょっと面倒くさい。
そんなことをぼんやり考えながら、暑くなった樹は窓ガラスから差し込む日射しを遮るためにカーテンを閉めた。
「・・・っ!ここは!?」
その瞬間、樫野が飛び起きた。
あまりの感度に樹は驚いて椅子の上に尻餅をついた。
「いたっ・・!何すんのよ!」
「いきなり勝手にキレんな!・・・ここ保健室か?決勝は!?」
「樫野は作業中に気を失って転倒したのよ。もうすぐ昼休みだから戻っても何もできないわよ」
「もうすぐって何分だ!?1分でもできることは・・・!」
樫野はベッドから降りようとしたが、急に動いたことで頭痛がしたらしく苦しそうに眉間をおさえた。
「落ち着きなさいよ。そんな危なっかしい状態で作業をしたら午前の分まで台無しになるわよ。転倒したときに少しも作品を傷つけなかった幸運を大事にしてもらいたいものだわ」
「ただでさえ時間がないっていうのに・・・」
樫野は悔しそうに唇を噛みしめた。
よく自分と樫野は似ていると言われるけれど、こんなところが違うと樹は思う。
こんなにもまっすぐに、必死になったことなんてない気がする。
樫野をライバルだと思うのは、きっと並びたいからだ。
彼の眩しさに、並びたい。
私もなれるだろうか。見つけられるだろうか。
「なに変な顔してんだ、おまえ」
樫野は間が抜けた様子になって樹の額を指で弾いた。樹が呻くと樫野は鼻で笑った。
「失礼ね、変な顔なんてしてないわ」
「してたぞ。なんか、変に和んだからいい」
「どんな神経してんのよあんた」
樹が呆れていると、樫野は少し首をひねり出した。何か言うことを考えているらしい。
「・・・東堂さ、パリ留学は目指さないのか?」
「え?」
「俺は行くぞ。もし今回が駄目でも、いつか在学中に」
「そんなこといっても私・・・」
「この際はっきり言うけどおまえ、先生に向いてねえんだよ」
唐突に言葉の槍に刺されて樹は身をすくませた。
一瞬遅れて頬を紅潮させる。
「い、いきなりなんなのよ!あまり滅多なこと言うと何するか分かんないわよ!」
「あ、悪い。今のは短絡的すぎた。いやつまり、何が言いたいかというと・・・」
樫野は珍しく言葉を詰まらせると、また首をひねった。
「おまえはストレートで教師を目指すには勿体ないんだよ。教師バカにしてるわけじゃねえけどさ、パティシエ界では隠居みたいなもんだろ。どうせなるんだったらこのまま日本校にダラダラ引きこもってつまらない先生になるより、アンリ先生超えるくらいのすごい先生になれよ」
「・・・・」
「今、言いたいのはそれだけ」
樫野は一気に喋り終えると、気まずそうに目を背けた。
樹は固まっていたが、徐々に身体の内側が燃えていくような熱さを感じて動揺した。
「・・・“すごい先生”って・・・ボキャブラリーが貧弱なのね」
やっとのことでそう返したところで、昼休みに入ったいちご達が保健室に突撃してきた。一気に騒がしくなった部屋にはスピリッツが作ったサンドイッチなどが持ち込まれ、樫野はまずまず回復したようだった。
樹はみんなを労いながらも、考えているのは自分の夢のことだった。
私もパリを夢見ていいだろうか。
樹は樫野が寝かされたベッドの側の椅子に静かに座っていた。いちご達は休憩時間になるまではどうにか製作に集中しようとステージに戻ったのだ。
(・・・人騒がせな奴)
少し安心したので暇になってきた樹は、頬杖をつきながら欠伸をした。
倒れた友人をわざわざ起こす趣味はないが、目が覚めたときになぜ起こさなかったと怒鳴られるのが自分になると思うとちょっと面倒くさい。
そんなことをぼんやり考えながら、暑くなった樹は窓ガラスから差し込む日射しを遮るためにカーテンを閉めた。
「・・・っ!ここは!?」
その瞬間、樫野が飛び起きた。
あまりの感度に樹は驚いて椅子の上に尻餅をついた。
「いたっ・・!何すんのよ!」
「いきなり勝手にキレんな!・・・ここ保健室か?決勝は!?」
「樫野は作業中に気を失って転倒したのよ。もうすぐ昼休みだから戻っても何もできないわよ」
「もうすぐって何分だ!?1分でもできることは・・・!」
樫野はベッドから降りようとしたが、急に動いたことで頭痛がしたらしく苦しそうに眉間をおさえた。
「落ち着きなさいよ。そんな危なっかしい状態で作業をしたら午前の分まで台無しになるわよ。転倒したときに少しも作品を傷つけなかった幸運を大事にしてもらいたいものだわ」
「ただでさえ時間がないっていうのに・・・」
樫野は悔しそうに唇を噛みしめた。
よく自分と樫野は似ていると言われるけれど、こんなところが違うと樹は思う。
こんなにもまっすぐに、必死になったことなんてない気がする。
樫野をライバルだと思うのは、きっと並びたいからだ。
彼の眩しさに、並びたい。
私もなれるだろうか。見つけられるだろうか。
「なに変な顔してんだ、おまえ」
樫野は間が抜けた様子になって樹の額を指で弾いた。樹が呻くと樫野は鼻で笑った。
「失礼ね、変な顔なんてしてないわ」
「してたぞ。なんか、変に和んだからいい」
「どんな神経してんのよあんた」
樹が呆れていると、樫野は少し首をひねり出した。何か言うことを考えているらしい。
「・・・東堂さ、パリ留学は目指さないのか?」
「え?」
「俺は行くぞ。もし今回が駄目でも、いつか在学中に」
「そんなこといっても私・・・」
「この際はっきり言うけどおまえ、先生に向いてねえんだよ」
唐突に言葉の槍に刺されて樹は身をすくませた。
一瞬遅れて頬を紅潮させる。
「い、いきなりなんなのよ!あまり滅多なこと言うと何するか分かんないわよ!」
「あ、悪い。今のは短絡的すぎた。いやつまり、何が言いたいかというと・・・」
樫野は珍しく言葉を詰まらせると、また首をひねった。
「おまえはストレートで教師を目指すには勿体ないんだよ。教師バカにしてるわけじゃねえけどさ、パティシエ界では隠居みたいなもんだろ。どうせなるんだったらこのまま日本校にダラダラ引きこもってつまらない先生になるより、アンリ先生超えるくらいのすごい先生になれよ」
「・・・・」
「今、言いたいのはそれだけ」
樫野は一気に喋り終えると、気まずそうに目を背けた。
樹は固まっていたが、徐々に身体の内側が燃えていくような熱さを感じて動揺した。
「・・・“すごい先生”って・・・ボキャブラリーが貧弱なのね」
やっとのことでそう返したところで、昼休みに入ったいちご達が保健室に突撃してきた。一気に騒がしくなった部屋にはスピリッツが作ったサンドイッチなどが持ち込まれ、樫野はまずまず回復したようだった。
樹はみんなを労いながらも、考えているのは自分の夢のことだった。
私もパリを夢見ていいだろうか。