31話 夢への飛翔
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ケーキグランプリ決勝の会場はいつにも増してひどくにぎわっていた。しぶとく前列ステージ正面の席を確保している2年A組の女子勢の中に、緊張気味に口元を引きつらせた樹もいた。
選手入場の合図と同時、スモークの中から両チームが調理台と共にステージ上へせり上がってきた。仰々しくファンファーレが鳴り響き、スモークが晴れるとファンシーテイストな衣装のチームいちごと古代ギリシャ風の衣装のチーム天王寺が姿を現し、会場は盛り上がりを見せた。
四人の視線が観客席側に向いたかと思うと、一瞬で樹の姿を捉える。反射的に口元を緩めた樹は、小さく親指を立てた。四人がそれに応える。
試合開始直前の、少し緊張がほぐれた様子で笑いかけてくれるこの瞬間が嬉しい。樹は微笑みながらもひとりやつれているように見える樫野がふと気にかかった。
かしの、と声を出さずに口を動かす。樫野はそれに気づいたようだったが、どう応えるでもなくマイクを手にとった辛島先生に黙って視線を移した。
「これより、ケーキグランプリ本戦決勝の試合を行う———調理開始!」
電光掲示板がカウントダウンをはじめ、両チームは一斉に作業にとりかかった。早速ひとり硬直してしまっているいちごの様子に、ルミたちはお互いに目を合わせた。
「・・・いちごちゃん、大丈夫やろか?」
「ここは私たちが応援しましょ!」
「せやな!せーのっ」
かなことルミがそんな言葉を交わして頷き、呼吸をあわせようとしたとき。
「天野さん!ファイトーっ!」
右手の席でひとり立ち上がって勢い良く腕を突き上げた女子生徒がいた。
「・・・中島さん」
樹は会場中の注目を集めた彼女に驚いて声をかけた。
「私たちのクラス代表を応援して悪いかしら?」
中島は少し照れくさそうにそっぽを向いて言う。その様子が可笑しくて、樹は思わず吹き出した。
「笑わせないでよ、べつに悪かないわ」
「一緒に応援しよっ!」
ルミも笑いかけて言う。みんなでもう一度、呼吸を合わせる。
「チームいちご、ファイトーっ!」
「みんな、ありがとう!」
いちごもステージ上から応援にこたえた。さきほどまではどうやら段取りを考えていたらしい。てきぱきと動き始めるいちごの一挙手一投足が転入当初とは見違えるようだった。いちごだけでなく、他の面子も今まで一度も完成させたことのない作品ながら、練習の成果がうかがえる動きをしている。
しかし、精巧な部品を神経質になりながら接合している樫野だけがどうしても作業に遅れをとっていた。
(集中力のいる作業なのに、樫野はどう見ても疲労がたまりすぎている・・・)
樹は足場の上で接着用のスプレーを片手にエッフェル塔に向かっている樫野を不安げに見つめていた。
「ねえ、天王寺さんのとこもすごいよ!」
「なんてきれいな白鳥・・・天王寺会長は飴細工の担当なんだね」
「・・・樹ちゃん、どないしたん?」
「いや、ちょっと・・・」
樹には天王寺の方を気にしている余裕はなかった。ルミたちも彼女の視線の先に気づき、きもち声を落とす。
「うん・・・まあ、あれきっと一番難しいよね・・」
「でも、完成したら一番すごいよ!」
「樫野くん、がんばって!」
いつの間にか、二時間が経過していた。観客席のあいだで交わされる雑談も火が消えたように静まり返り、皆神妙な面持ちで両チームの運びを観察していた。適宜水分を摂るようにと放送部から通達があったものの、席を外して自動販売機へ向かう生徒は誰もいない。
張りつめた空気の中、手先と作品しか目に入っていない様子の樫野に異変が起こったのは突然のことだった。
ふっと力が抜けるように。
樫野は足場から転倒して床に投げ出された。
「———樫野!!」
チームいちごの、悲鳴じみた声がにわかにざわめきだした会場をつんざくように響いた。
選手入場の合図と同時、スモークの中から両チームが調理台と共にステージ上へせり上がってきた。仰々しくファンファーレが鳴り響き、スモークが晴れるとファンシーテイストな衣装のチームいちごと古代ギリシャ風の衣装のチーム天王寺が姿を現し、会場は盛り上がりを見せた。
四人の視線が観客席側に向いたかと思うと、一瞬で樹の姿を捉える。反射的に口元を緩めた樹は、小さく親指を立てた。四人がそれに応える。
試合開始直前の、少し緊張がほぐれた様子で笑いかけてくれるこの瞬間が嬉しい。樹は微笑みながらもひとりやつれているように見える樫野がふと気にかかった。
かしの、と声を出さずに口を動かす。樫野はそれに気づいたようだったが、どう応えるでもなくマイクを手にとった辛島先生に黙って視線を移した。
「これより、ケーキグランプリ本戦決勝の試合を行う———調理開始!」
電光掲示板がカウントダウンをはじめ、両チームは一斉に作業にとりかかった。早速ひとり硬直してしまっているいちごの様子に、ルミたちはお互いに目を合わせた。
「・・・いちごちゃん、大丈夫やろか?」
「ここは私たちが応援しましょ!」
「せやな!せーのっ」
かなことルミがそんな言葉を交わして頷き、呼吸をあわせようとしたとき。
「天野さん!ファイトーっ!」
右手の席でひとり立ち上がって勢い良く腕を突き上げた女子生徒がいた。
「・・・中島さん」
樹は会場中の注目を集めた彼女に驚いて声をかけた。
「私たちのクラス代表を応援して悪いかしら?」
中島は少し照れくさそうにそっぽを向いて言う。その様子が可笑しくて、樹は思わず吹き出した。
「笑わせないでよ、べつに悪かないわ」
「一緒に応援しよっ!」
ルミも笑いかけて言う。みんなでもう一度、呼吸を合わせる。
「チームいちご、ファイトーっ!」
「みんな、ありがとう!」
いちごもステージ上から応援にこたえた。さきほどまではどうやら段取りを考えていたらしい。てきぱきと動き始めるいちごの一挙手一投足が転入当初とは見違えるようだった。いちごだけでなく、他の面子も今まで一度も完成させたことのない作品ながら、練習の成果がうかがえる動きをしている。
しかし、精巧な部品を神経質になりながら接合している樫野だけがどうしても作業に遅れをとっていた。
(集中力のいる作業なのに、樫野はどう見ても疲労がたまりすぎている・・・)
樹は足場の上で接着用のスプレーを片手にエッフェル塔に向かっている樫野を不安げに見つめていた。
「ねえ、天王寺さんのとこもすごいよ!」
「なんてきれいな白鳥・・・天王寺会長は飴細工の担当なんだね」
「・・・樹ちゃん、どないしたん?」
「いや、ちょっと・・・」
樹には天王寺の方を気にしている余裕はなかった。ルミたちも彼女の視線の先に気づき、きもち声を落とす。
「うん・・・まあ、あれきっと一番難しいよね・・」
「でも、完成したら一番すごいよ!」
「樫野くん、がんばって!」
いつの間にか、二時間が経過していた。観客席のあいだで交わされる雑談も火が消えたように静まり返り、皆神妙な面持ちで両チームの運びを観察していた。適宜水分を摂るようにと放送部から通達があったものの、席を外して自動販売機へ向かう生徒は誰もいない。
張りつめた空気の中、手先と作品しか目に入っていない様子の樫野に異変が起こったのは突然のことだった。
ふっと力が抜けるように。
樫野は足場から転倒して床に投げ出された。
「———樫野!!」
チームいちごの、悲鳴じみた声がにわかにざわめきだした会場をつんざくように響いた。