30話 夢への決意
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
夕方になると、いちご達はまた集合して準備をはじめた。プチガトー担当のいちごは、三種類の内のひとつをアップルムーンという名前に決めたらしい。
初めて自分のスイーツに喜んでくれたりんごのことを意識した作品で、テーマであるいちご自身の夢にも結びついているものだ。この作品のために、中島からアップルカスタードの作り方を伝授してもらったそうだ。
「いちごちゃん、ほんと迫力あったよ!」
「もう天王寺さんには物怖じしてないって感じだよね」
「まあ、当然だろ。たとえ根拠の無い自信でも、あれぐらい強気じゃなくちゃ」
「もう、樫野!だから根拠なくないって言ったでしょ!」
いちごはまた構想中に天王寺と遭遇して火花を散らしてきたらしく、その様子を目の当たりにしてきたらしいスイーツ王子は口々にいちごの勇姿を称した。
思えばいちごの持つ謎の迫力というか、根拠がなくとも人を圧倒する強気で自信に満ちた態度というのはいちごの実力がパッとしない頃から見ていた気がする。
優れた味覚や想像力だけではなく、計り知れないいちごの才能は着実に花開いている。
いちごがパリに行ったら、確実に大きく引き離されてしまうだろうなと考えると、樹は少し寂しくなった。偉そうな感覚ではあるが、一ヶ月遅れで入ってきた親友にして妹分のようないちごの成長は樹に戸惑いを与えるのだった。
「いちごも、頼もしくなったわね」
樹は微笑を浮かべるとバンダナの上からいちごの頭にポンポンと手を置いた。いちごはきょとんとしたが、照れくさそうに笑った。
「樹ちゃん、ちょっとエラソー」
「そんなの元からよ。・・・ちょっと何安堂君笑ってんのよ」
こっそり吹き出したところを目ざとく見つけられた安堂はごめんごめんと謝ったが、キャラメルによって制裁を加えられた。
全体的には和やかに作業を進めている四人だが、樫野が黙々と手を動かしている一角だけは少々異質な空気が流れていた。性格のせいか彼の真剣味は他三人に比べて度を超している。
「樫野、手伝うことはある?」
樹はチョコレート細工のエッフェル塔の型を作っている樫野の気を紛らわさないよう小さめに声をかけた。
「じゃああの辺のやつ洗っといてくれ」
「分かったわ」
「あっ、樹ちゃんあとであたしのプチガトー試食して!」
「するわよ。何のために来たと思ってるの」
「樹ちゃんって、意外と食い意地張ってるよね」
「まあ、パティシエールとして最低限の食い意地はあるつもりよ」
「なにそれ。今日、樹ちゃんテンション高くない?」
「気のせい」
もしかしたらこれが空元気というやつなのかもしれないと樹は思う。
グランプリが終わらなければいいのに。
みんなと調理室で過ごすこの時間が、いつまでも続けばいいのに。
樹の小さな思いと裏腹に、時計は試合開始のブザーが鳴る瞬間へと、刻一刻と針を進めていた。
初めて自分のスイーツに喜んでくれたりんごのことを意識した作品で、テーマであるいちご自身の夢にも結びついているものだ。この作品のために、中島からアップルカスタードの作り方を伝授してもらったそうだ。
「いちごちゃん、ほんと迫力あったよ!」
「もう天王寺さんには物怖じしてないって感じだよね」
「まあ、当然だろ。たとえ根拠の無い自信でも、あれぐらい強気じゃなくちゃ」
「もう、樫野!だから根拠なくないって言ったでしょ!」
いちごはまた構想中に天王寺と遭遇して火花を散らしてきたらしく、その様子を目の当たりにしてきたらしいスイーツ王子は口々にいちごの勇姿を称した。
思えばいちごの持つ謎の迫力というか、根拠がなくとも人を圧倒する強気で自信に満ちた態度というのはいちごの実力がパッとしない頃から見ていた気がする。
優れた味覚や想像力だけではなく、計り知れないいちごの才能は着実に花開いている。
いちごがパリに行ったら、確実に大きく引き離されてしまうだろうなと考えると、樹は少し寂しくなった。偉そうな感覚ではあるが、一ヶ月遅れで入ってきた親友にして妹分のようないちごの成長は樹に戸惑いを与えるのだった。
「いちごも、頼もしくなったわね」
樹は微笑を浮かべるとバンダナの上からいちごの頭にポンポンと手を置いた。いちごはきょとんとしたが、照れくさそうに笑った。
「樹ちゃん、ちょっとエラソー」
「そんなの元からよ。・・・ちょっと何安堂君笑ってんのよ」
こっそり吹き出したところを目ざとく見つけられた安堂はごめんごめんと謝ったが、キャラメルによって制裁を加えられた。
全体的には和やかに作業を進めている四人だが、樫野が黙々と手を動かしている一角だけは少々異質な空気が流れていた。性格のせいか彼の真剣味は他三人に比べて度を超している。
「樫野、手伝うことはある?」
樹はチョコレート細工のエッフェル塔の型を作っている樫野の気を紛らわさないよう小さめに声をかけた。
「じゃああの辺のやつ洗っといてくれ」
「分かったわ」
「あっ、樹ちゃんあとであたしのプチガトー試食して!」
「するわよ。何のために来たと思ってるの」
「樹ちゃんって、意外と食い意地張ってるよね」
「まあ、パティシエールとして最低限の食い意地はあるつもりよ」
「なにそれ。今日、樹ちゃんテンション高くない?」
「気のせい」
もしかしたらこれが空元気というやつなのかもしれないと樹は思う。
グランプリが終わらなければいいのに。
みんなと調理室で過ごすこの時間が、いつまでも続けばいいのに。
樹の小さな思いと裏腹に、時計は試合開始のブザーが鳴る瞬間へと、刻一刻と針を進めていた。