5話 ケーキ嫌いの君へ
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安堂の実家『夢月』は小さい店舗ながらひっきりなしに人が入る、地元では定番の老舗らしかった。男衆は厨房を手伝い、いちごと樹は赤地の和服風の制服を着用して、フロアを行き来していた。呼ばれるたびに下駄の音が鳴る。
赤いのれんをくぐり抜け、樹が厨房に顔を出した。
「豆茶四つ、白玉ぜんざい二つ、豆大福三つ、わらびもち一つ」
「分かった」
いつもは樫野を罵っているいやにはっきりとした声が、オーダーを取る分には聞き取りやすくて良い、と店員には専らの評判だった。みんなが心配していた愛想の問題も、ガサツではないため、問題にはならなかった。
「あの二人、初めてまともに会話してるよ」
花房がいちごに耳打ちする。たかが報告と応答というだけであっても、実習中は毒気を織り交ぜずに済んだためしはなかった。仕事になると突然しっかりしだすタイプらしい。
「樫野と東堂さんって、初日にけんかしたんだよね?あたし、詳しくは聞いてないから知りたいな」
「それがね・・・」
「おい、そこ!無駄話すんな!」
「フロアが忙しいんだから早く来なさいよ!」
樫野と樹の怒声がほぼ同時にとんできて、二人はなんだかおかしかった。
「でも、樫野と東堂さんって・・・」
「似てるよね」
そんなことをはっきり言ったら、何を言われるのか分からないのだけど。
「みんな休憩してるみたいよ。交代しましょ」
「ありがとうございます」
代わりの人員が到着したので、樹は最後にお皿を下げた。少し前からいちごの姿がのれんの奥に消えたままだと思っていたら、そのまま休憩に入っていたらしい。
「ご苦労様」
「いえ・・・あっ!」
樹がのれんをくぐろうとすると、ちょうど向こうから和服姿の安堂がやってきて、ぶつかった樹は皿を取り落とした。
「す、すみません!ごめんなさい、安堂君」
「いや・・・今休憩に呼ぼうと思って・・・ごめん、怪我してない?」
「いや・・・」
樹が大丈夫だと言いかけたとたん、右手の人差し指から血が流れ出した。
「大変だ、消毒するから奥まで来て!」
「待って、お皿・・」
「片付けはしておくわ」
「すみません!」
後を店員に任せて、安堂に腕を引かれた樹は慌ただしくのれんをくぐり抜けた。
「おい、安堂、どうした?」
「東堂さんが指を切ったみたいだから」
「え、大丈夫、東堂さん!?」
樹は適当にいちごに頷いて、店の奥の住居スペースに消える。洗い流した後、安堂が沁みる消毒液をぬってくれ、絆創膏を貼った。
「これでよし。洗い物は手伝わなくていいから」
「ありがとう、安堂君」
「ううん、いいよ」
安堂はとったままの樹の手を眺めた。マメだらけだが色白で長い指だった。この分だと練習も樫野に負けないぐらいの量を重ねているのだろうとぼんやり思った。
「・・・・安堂君?」
「ああ、ごめん」
安堂は慌てて手を離した。樹は、訝しむような顔で彼を見た。
「・・・安堂君って・・・」
「えっと、何か・・・・」
どうも樹の視線に安堂はたじろいだ。
「普通、よね」
「え・・・・」
樹は何の躊躇もなく言い放った。
「あ、別に悪い意味で言ってるんじゃないのよ。ここって変な人多いから、逆に新鮮」
「無個性っていいたいのかな」
「いや、そうじゃないのよ。なんて言うか・・・」
安堂が若干傷ついた感じなので樹は言葉を重ねた。
「・・・落ち着く?」
「東堂さんって、思ってるほど言葉選びに躊躇しないよね」
「悪気はないんだけど」
樹は真顔で言い、安堂は苦笑した。
「だいたい分かってきたよ。そうだね、東堂さんと話してみるのも面白いのかもしれない」
「なによその言い方」
「いや、何でも」
樹は絆創膏を貼った指をさすりながら、首を傾げた。
赤いのれんをくぐり抜け、樹が厨房に顔を出した。
「豆茶四つ、白玉ぜんざい二つ、豆大福三つ、わらびもち一つ」
「分かった」
いつもは樫野を罵っているいやにはっきりとした声が、オーダーを取る分には聞き取りやすくて良い、と店員には専らの評判だった。みんなが心配していた愛想の問題も、ガサツではないため、問題にはならなかった。
「あの二人、初めてまともに会話してるよ」
花房がいちごに耳打ちする。たかが報告と応答というだけであっても、実習中は毒気を織り交ぜずに済んだためしはなかった。仕事になると突然しっかりしだすタイプらしい。
「樫野と東堂さんって、初日にけんかしたんだよね?あたし、詳しくは聞いてないから知りたいな」
「それがね・・・」
「おい、そこ!無駄話すんな!」
「フロアが忙しいんだから早く来なさいよ!」
樫野と樹の怒声がほぼ同時にとんできて、二人はなんだかおかしかった。
「でも、樫野と東堂さんって・・・」
「似てるよね」
そんなことをはっきり言ったら、何を言われるのか分からないのだけど。
「みんな休憩してるみたいよ。交代しましょ」
「ありがとうございます」
代わりの人員が到着したので、樹は最後にお皿を下げた。少し前からいちごの姿がのれんの奥に消えたままだと思っていたら、そのまま休憩に入っていたらしい。
「ご苦労様」
「いえ・・・あっ!」
樹がのれんをくぐろうとすると、ちょうど向こうから和服姿の安堂がやってきて、ぶつかった樹は皿を取り落とした。
「す、すみません!ごめんなさい、安堂君」
「いや・・・今休憩に呼ぼうと思って・・・ごめん、怪我してない?」
「いや・・・」
樹が大丈夫だと言いかけたとたん、右手の人差し指から血が流れ出した。
「大変だ、消毒するから奥まで来て!」
「待って、お皿・・」
「片付けはしておくわ」
「すみません!」
後を店員に任せて、安堂に腕を引かれた樹は慌ただしくのれんをくぐり抜けた。
「おい、安堂、どうした?」
「東堂さんが指を切ったみたいだから」
「え、大丈夫、東堂さん!?」
樹は適当にいちごに頷いて、店の奥の住居スペースに消える。洗い流した後、安堂が沁みる消毒液をぬってくれ、絆創膏を貼った。
「これでよし。洗い物は手伝わなくていいから」
「ありがとう、安堂君」
「ううん、いいよ」
安堂はとったままの樹の手を眺めた。マメだらけだが色白で長い指だった。この分だと練習も樫野に負けないぐらいの量を重ねているのだろうとぼんやり思った。
「・・・・安堂君?」
「ああ、ごめん」
安堂は慌てて手を離した。樹は、訝しむような顔で彼を見た。
「・・・安堂君って・・・」
「えっと、何か・・・・」
どうも樹の視線に安堂はたじろいだ。
「普通、よね」
「え・・・・」
樹は何の躊躇もなく言い放った。
「あ、別に悪い意味で言ってるんじゃないのよ。ここって変な人多いから、逆に新鮮」
「無個性っていいたいのかな」
「いや、そうじゃないのよ。なんて言うか・・・」
安堂が若干傷ついた感じなので樹は言葉を重ねた。
「・・・落ち着く?」
「東堂さんって、思ってるほど言葉選びに躊躇しないよね」
「悪気はないんだけど」
樹は真顔で言い、安堂は苦笑した。
「だいたい分かってきたよ。そうだね、東堂さんと話してみるのも面白いのかもしれない」
「なによその言い方」
「いや、何でも」
樹は絆創膏を貼った指をさすりながら、首を傾げた。