29話 決戦前夜!
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「ところで、樹はチームいちごをどう思っているんですか?」
「えっ・・・?」
「生徒のあいだでは、君がチームに入りそびれた可哀想な子だという声もあるそうです。単刀直入に言いますが、君ひとりだけがグランプリに参加していないという状況を、どう捉えているのですか?」
樹は一瞬身をすくませたが、考えを廻らせて静かに口を開いた。
「先生の質問内容に、語弊があります」
アンリ先生はその一言にきょとんとした。
「私は、四人一組のチームを組んでトーナメントで戦っている生徒だけがグランプリの参加者なのではないと思います。ケーキグランプリは生徒全員で作り上げているものであり、それにはステージでカメラを回している放送部の生徒も含まれますし、観客席で出場者を応援している生徒も含まれています。私も、私なりにみんなを応援しているので立派な参加者です」
樹は淀み無く述べた。
「先生の揚げ足をとりたいのではないんです。チームに入っていないと言う点で皆と距離があるのは事実だし、そのことで悩んだり後悔したり嫉妬したりもしました。今だってゼロじゃないです。でも、私が今まで選んできた道にしかなかったものはあるんです。ケーキグランプリを通して得られたというものも少なくないです。だから、私は間違いなく参加者なんです」
悩んでばかりいた自分だけれど、その度に『考えて』いたことは無駄ではなかったのだなと樹はふと悟った。
だって、今、迷い無く舌を動かすことができる。
ささいなことかもしれないけれど、今この瞬間アンリ先生に自分の明確な気持ちを伝えられるということが、とても価値のあることに思えた。
「今の私にしか経験できなかったことを、私は大切にしたいです」
アンリ先生は暫し樹の言葉を噛みしめるように沈黙したが、その碧色の目を微かに光らせると、穏やかな笑みを浮かべた。
「・・・なるほど。思っていたよりもとてもいい言葉が聞けました。今日君に会えてよかった」
樹は何を言われるのかと神経を尖らせてアンリ先生をまっすぐ見つめていた。
「最後に聞かせてもらいます。樹には夢がありますか?」
「夢・・・?」
樹は少し拍子抜けして息を吐いたが、ふと頭の中で天王寺の言葉が甦って目を見開いた。
『夢を持ちなさい』と。
「あれは、アンリ先生が・・・?」
樹の断片的な言葉に、アンリ先生は「ええ」と頷く。天王寺を介して、彼は樹に語りかけたことがあったのだった。
「それで、夢はあるのですか?」
「えっと・・・」
樹は目を白黒させた。本職の人の前で、ぬけぬけと言えたものじゃない。自分はそういうレベルだ。
それに、小さい子どものように無邪気に言えない歳なのだ。
「製菓関係をとは考えていますが、まだ厳密には」
「製菓関係の職につくというのは、間違いなく全生徒が考えていることだと思いますよ」
そういうことを聞いているのではないのだと、樹は察して赤くなった。
「僕が言っているのは、進路のことではありません。君はまだ分かっていないようですね」
「す、すみません」
「謝ることはありません。むしろ、少し安心しました。ここで僕が君に教えられることがまだ残ってくれていて」
アンリ先生は、腑に落ちない様子の樹に笑いかけると、言った。
「いいですか、夢を持つことは君を強くしてくれます。目先の問題も多いでしょうが、どうかそのことを考えて、次の一歩を誰よりも大きく踏み出してみてください」
「えっ・・・?」
「生徒のあいだでは、君がチームに入りそびれた可哀想な子だという声もあるそうです。単刀直入に言いますが、君ひとりだけがグランプリに参加していないという状況を、どう捉えているのですか?」
樹は一瞬身をすくませたが、考えを廻らせて静かに口を開いた。
「先生の質問内容に、語弊があります」
アンリ先生はその一言にきょとんとした。
「私は、四人一組のチームを組んでトーナメントで戦っている生徒だけがグランプリの参加者なのではないと思います。ケーキグランプリは生徒全員で作り上げているものであり、それにはステージでカメラを回している放送部の生徒も含まれますし、観客席で出場者を応援している生徒も含まれています。私も、私なりにみんなを応援しているので立派な参加者です」
樹は淀み無く述べた。
「先生の揚げ足をとりたいのではないんです。チームに入っていないと言う点で皆と距離があるのは事実だし、そのことで悩んだり後悔したり嫉妬したりもしました。今だってゼロじゃないです。でも、私が今まで選んできた道にしかなかったものはあるんです。ケーキグランプリを通して得られたというものも少なくないです。だから、私は間違いなく参加者なんです」
悩んでばかりいた自分だけれど、その度に『考えて』いたことは無駄ではなかったのだなと樹はふと悟った。
だって、今、迷い無く舌を動かすことができる。
ささいなことかもしれないけれど、今この瞬間アンリ先生に自分の明確な気持ちを伝えられるということが、とても価値のあることに思えた。
「今の私にしか経験できなかったことを、私は大切にしたいです」
アンリ先生は暫し樹の言葉を噛みしめるように沈黙したが、その碧色の目を微かに光らせると、穏やかな笑みを浮かべた。
「・・・なるほど。思っていたよりもとてもいい言葉が聞けました。今日君に会えてよかった」
樹は何を言われるのかと神経を尖らせてアンリ先生をまっすぐ見つめていた。
「最後に聞かせてもらいます。樹には夢がありますか?」
「夢・・・?」
樹は少し拍子抜けして息を吐いたが、ふと頭の中で天王寺の言葉が甦って目を見開いた。
『夢を持ちなさい』と。
「あれは、アンリ先生が・・・?」
樹の断片的な言葉に、アンリ先生は「ええ」と頷く。天王寺を介して、彼は樹に語りかけたことがあったのだった。
「それで、夢はあるのですか?」
「えっと・・・」
樹は目を白黒させた。本職の人の前で、ぬけぬけと言えたものじゃない。自分はそういうレベルだ。
それに、小さい子どものように無邪気に言えない歳なのだ。
「製菓関係をとは考えていますが、まだ厳密には」
「製菓関係の職につくというのは、間違いなく全生徒が考えていることだと思いますよ」
そういうことを聞いているのではないのだと、樹は察して赤くなった。
「僕が言っているのは、進路のことではありません。君はまだ分かっていないようですね」
「す、すみません」
「謝ることはありません。むしろ、少し安心しました。ここで僕が君に教えられることがまだ残ってくれていて」
アンリ先生は、腑に落ちない様子の樹に笑いかけると、言った。
「いいですか、夢を持つことは君を強くしてくれます。目先の問題も多いでしょうが、どうかそのことを考えて、次の一歩を誰よりも大きく踏み出してみてください」