29話 決戦前夜!
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「実は先ほど日本校のサロン・ド・マリーの設備を確認しに行ってきたので、鍵を持っています」
アンリ先生は、どうせならお茶でも飲みながらと言って樹をサロン・ド・マリーまで連れてきた。電気が点いた店内に人がいるはずもない。初めて見る光景に、樹は思わずきょろきょろと辺りを見回した。
「さてと、給湯室はどこにあるか分かりますか?」
「給湯室・・・」
サロン・ド・マリーの裏側の構造など見たことがない。しかし、樹はつかつかと歩を進めた。
初めて入る、サロン・ド・マリーの裏側。
厨房に入る手前で左に曲がったところに目指す小部屋はあった。
「おや、簡単でしたか」
「従業員がこの角を曲がってお水を持ってくるところを見たことがあるので。でも、お店に置いてあるお茶を飲んでいいんですか?」
「商品の茶葉をいただく訳ではありませんよ。ここには従業員の休憩用のお茶もあるのだと麻里に聞きました」
樹が棚を見渡すと、確かに片隅に購買で見かける徳用ティーバッグが置いてあった。
「電気ポットの電源は切ってありますが、まだそれほど時間が経っていないので熱いと思いますよ」
アンリ先生に言われて、樹はシンクのそばで乾かしてあるマグカップにティーバッグを入れて、ポットの上蓋を開けた。その中に直接計量カップを入れてお湯を掬いとる。
「勝手にいれてしまっていいですか」
「構いませんよ。折角ですからお任せします」
二人分の紅茶が入ったところで、アンリ先生は従業員休憩室に樹を案内した。樹は拭き掃除を済ませてあるお店のテーブルを使うのにしっくりきていなかったので、その選択に納得した。
「あなたのおばあさんのことを覚えていますよ。今の君に似て手厳しい方だった」
「えっ?祖母はそんなことはないと思いますが」
「きっと御退職後は角が取れたのでしょうね。樹とは喋り方もよく似ていますよ」
「・・・」
思い出のなかでいつも穏やかに笑う祖母の姿が自分と重なったことなどない。懐かしげな目をするアンリ先生の様子に、樹は小さく首を傾げた。
「彼女の学生時代は、いちごのおばあさんとも面識があったようですね」
「ほとんど同期だったんですね。おばあさんのこと、いちごから少し聞いたことがあります」
「樹自身はいちごとは仲良くしているのですか?」
「はい。私にとっては親友の1人ですから」
やはりアンリ先生が聞きたいのはいちごのことらしいと樹は察した。
「私に友達が増えたのも、いちごと接するようになってからのことなんです。何をするにしても底抜けに明るいし、ドジが多くて心配なところもあるけれど、いつも私の前にいて新しい場所へ引っ張って行ってくれるのはいちごなんです」
「そうですか。いちごは、僕が思っていた以上に人に影響を与える子だったようですね。転入してきたときと比べて、君の成長も本当に大したものです」
「先生は、私のことを知っていたんですか?」
「当然です。僕はちゃんと全校生徒に対してある程度の理解はありますから、君もその例外ではありません。それに、転入直後の君は君自身が人のことを知らなかっただけで、生徒のあいだで大した評判だったんですよ」
似たようなことを、何人かに言われた気がする。周囲には注意を配っているはずなのに、自分の評判というのはなぜか耳に入らないものだ。
アンリ先生は、どうせならお茶でも飲みながらと言って樹をサロン・ド・マリーまで連れてきた。電気が点いた店内に人がいるはずもない。初めて見る光景に、樹は思わずきょろきょろと辺りを見回した。
「さてと、給湯室はどこにあるか分かりますか?」
「給湯室・・・」
サロン・ド・マリーの裏側の構造など見たことがない。しかし、樹はつかつかと歩を進めた。
初めて入る、サロン・ド・マリーの裏側。
厨房に入る手前で左に曲がったところに目指す小部屋はあった。
「おや、簡単でしたか」
「従業員がこの角を曲がってお水を持ってくるところを見たことがあるので。でも、お店に置いてあるお茶を飲んでいいんですか?」
「商品の茶葉をいただく訳ではありませんよ。ここには従業員の休憩用のお茶もあるのだと麻里に聞きました」
樹が棚を見渡すと、確かに片隅に購買で見かける徳用ティーバッグが置いてあった。
「電気ポットの電源は切ってありますが、まだそれほど時間が経っていないので熱いと思いますよ」
アンリ先生に言われて、樹はシンクのそばで乾かしてあるマグカップにティーバッグを入れて、ポットの上蓋を開けた。その中に直接計量カップを入れてお湯を掬いとる。
「勝手にいれてしまっていいですか」
「構いませんよ。折角ですからお任せします」
二人分の紅茶が入ったところで、アンリ先生は従業員休憩室に樹を案内した。樹は拭き掃除を済ませてあるお店のテーブルを使うのにしっくりきていなかったので、その選択に納得した。
「あなたのおばあさんのことを覚えていますよ。今の君に似て手厳しい方だった」
「えっ?祖母はそんなことはないと思いますが」
「きっと御退職後は角が取れたのでしょうね。樹とは喋り方もよく似ていますよ」
「・・・」
思い出のなかでいつも穏やかに笑う祖母の姿が自分と重なったことなどない。懐かしげな目をするアンリ先生の様子に、樹は小さく首を傾げた。
「彼女の学生時代は、いちごのおばあさんとも面識があったようですね」
「ほとんど同期だったんですね。おばあさんのこと、いちごから少し聞いたことがあります」
「樹自身はいちごとは仲良くしているのですか?」
「はい。私にとっては親友の1人ですから」
やはりアンリ先生が聞きたいのはいちごのことらしいと樹は察した。
「私に友達が増えたのも、いちごと接するようになってからのことなんです。何をするにしても底抜けに明るいし、ドジが多くて心配なところもあるけれど、いつも私の前にいて新しい場所へ引っ張って行ってくれるのはいちごなんです」
「そうですか。いちごは、僕が思っていた以上に人に影響を与える子だったようですね。転入してきたときと比べて、君の成長も本当に大したものです」
「先生は、私のことを知っていたんですか?」
「当然です。僕はちゃんと全校生徒に対してある程度の理解はありますから、君もその例外ではありません。それに、転入直後の君は君自身が人のことを知らなかっただけで、生徒のあいだで大した評判だったんですよ」
似たようなことを、何人かに言われた気がする。周囲には注意を配っているはずなのに、自分の評判というのはなぜか耳に入らないものだ。