29話 決戦前夜!
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夜中になってから、樹は念のためにバンダナとエプロンを持って調理室へ行ってみたが、そこにはやはり当然のように練習を続けるいちご達がいた。入りづらい空気は昼間と変わらず、樹は黙って調理台の片隅に隠し持ってきたクッキーの箱を置いて外に出た。
(まさか高等部が空いてるなんてことは・・・ないわよね)
編入したばかりの頃にこっそり使っていた高等部の調理室を覗いてみもしたが、そこではチーム天王寺の面々が揃って黙々と練習をしていた。
生徒会副会長の海堂留衣、同じく生徒会メンバーの冴木亮と滝川玲二。三人の顔はどれも見覚えがある程度には校内で目にする。
(あれ、天王寺さんはいないのかしら)
てっきり全員が揃っているものだと思っていた樹は、彼女の姿が見えないことに疑問を抱いて、ほんの少し窓に身体を近づけた。その瞬間海堂と目が合った。
樹は一瞬すくんだが、海堂の方は瞬時にいつも女子生徒相手に向けているチャーミングな笑みを浮かべるとこちらに近づいてきた。これは逃げたら失礼だ。
「どうしたの、何か用事でも?樹ちゃん」
「どうして名前を知っているんですか」
窓枠に肘をつきながら軽く話しかけてきた海堂に、樹は反射で疑問を突き返した。
「これはまた迷い無く言ってきたもんだね・・・いや、君けっこう有名だからね?チームいちごより目立ってるかも」
海堂は苦笑しながら言った。
「グランプリでもちょいちょい客席から存在感出してるし、普段からあちこちで目撃情報多いよ?」
「そうなんですか・・・」
「高等部にも何回か来てるでしょ?職員室に入るとこ見たよ。あとはサロン・ド・マリーも一人で結構来るし、果樹園も見てるっぽいね?図書室は当然だけど、学食の厨房にもいたらしいね?」
滝川が手を動かしながら口を挟んだ。樹はぎくりと視線を彷徨わせた。
(・・・どこまで把握されてるのかしら)
「玲二は情報網が広いからね」
海堂はくすくすと笑う。
「で?何か用事があって来たんじゃないの?」
「いえ。歩いていただけなので。ちらっと見たら天王寺さんがいなかったから気になったんです」
「ああ、麻里は自分の部屋で自主練してるよ。ま、君たちの部屋とは別格だからね」
「そうですか」
天王寺はどうやらひとりきりで集中したがっているらしい。樹はキッチン付きだという彼女の自室を想像しながらそっけない返事をよこした。
「やれやれ・・・ねえ、君ちょっと麻里姫に雰囲気が似てるよね?僕の好きなタイプだよ」
「照れちゃいます」
樹は真顔で応じると、ごく丁寧に会釈をして背を向けた。
角を曲がって見えなくなるまで彼女の姿勢の良い背中を視線で追っていた海堂は、思わず笑みを零した。
「いやー、参ったね。どんな対人トレーニング積んできたんだろうね、彼女」
「なんかめちゃくちゃあしらい方慣れてたね。ありゃ麻里姫とは違うんじゃない?」
「入ってきた頃くらいはもうちょっと似てたと思うんだけど・・・まあいいか。続けよう」
海堂は窓に背を向けると、練習の続きをしに調理台の方へ戻っていった。
樹はこのまますんなり寮に戻るか少し悩んだが、早く帰って来週の予定を立てることにして歩調を早めた。
いつも目に入る女王像の方に、誰かがいるのに気づく。
ちらりと暗がりのなかで金髪が揺れた気がして、樹は鋭く反応した。
「アリ・・・ス?」
思わず駆け寄った樹だが、人影は思ったより大きかった。
碧い瞳が不思議そうにこちらを見る。
「どうかしましたか?」
「あっ・・・すみません、人違いで」
樹は少々落胆しながら頭を下げた。
「構いませんよ。・・・それにしても、僕を誰かと見間違うだなんて、変わった方なんでしょうね」
それはそうだ。
この学園で金髪碧眼の人物と言えば普通は、
「そういえば、君と二人で会うのは初めてですね。一度ゆっくり話をしてみたいと思っていたんですよ」
アンリ先生の言葉に、樹は思わず警戒してエプロンを掴む手に力を入れた。
(まさか高等部が空いてるなんてことは・・・ないわよね)
編入したばかりの頃にこっそり使っていた高等部の調理室を覗いてみもしたが、そこではチーム天王寺の面々が揃って黙々と練習をしていた。
生徒会副会長の海堂留衣、同じく生徒会メンバーの冴木亮と滝川玲二。三人の顔はどれも見覚えがある程度には校内で目にする。
(あれ、天王寺さんはいないのかしら)
てっきり全員が揃っているものだと思っていた樹は、彼女の姿が見えないことに疑問を抱いて、ほんの少し窓に身体を近づけた。その瞬間海堂と目が合った。
樹は一瞬すくんだが、海堂の方は瞬時にいつも女子生徒相手に向けているチャーミングな笑みを浮かべるとこちらに近づいてきた。これは逃げたら失礼だ。
「どうしたの、何か用事でも?樹ちゃん」
「どうして名前を知っているんですか」
窓枠に肘をつきながら軽く話しかけてきた海堂に、樹は反射で疑問を突き返した。
「これはまた迷い無く言ってきたもんだね・・・いや、君けっこう有名だからね?チームいちごより目立ってるかも」
海堂は苦笑しながら言った。
「グランプリでもちょいちょい客席から存在感出してるし、普段からあちこちで目撃情報多いよ?」
「そうなんですか・・・」
「高等部にも何回か来てるでしょ?職員室に入るとこ見たよ。あとはサロン・ド・マリーも一人で結構来るし、果樹園も見てるっぽいね?図書室は当然だけど、学食の厨房にもいたらしいね?」
滝川が手を動かしながら口を挟んだ。樹はぎくりと視線を彷徨わせた。
(・・・どこまで把握されてるのかしら)
「玲二は情報網が広いからね」
海堂はくすくすと笑う。
「で?何か用事があって来たんじゃないの?」
「いえ。歩いていただけなので。ちらっと見たら天王寺さんがいなかったから気になったんです」
「ああ、麻里は自分の部屋で自主練してるよ。ま、君たちの部屋とは別格だからね」
「そうですか」
天王寺はどうやらひとりきりで集中したがっているらしい。樹はキッチン付きだという彼女の自室を想像しながらそっけない返事をよこした。
「やれやれ・・・ねえ、君ちょっと麻里姫に雰囲気が似てるよね?僕の好きなタイプだよ」
「照れちゃいます」
樹は真顔で応じると、ごく丁寧に会釈をして背を向けた。
角を曲がって見えなくなるまで彼女の姿勢の良い背中を視線で追っていた海堂は、思わず笑みを零した。
「いやー、参ったね。どんな対人トレーニング積んできたんだろうね、彼女」
「なんかめちゃくちゃあしらい方慣れてたね。ありゃ麻里姫とは違うんじゃない?」
「入ってきた頃くらいはもうちょっと似てたと思うんだけど・・・まあいいか。続けよう」
海堂は窓に背を向けると、練習の続きをしに調理台の方へ戻っていった。
樹はこのまますんなり寮に戻るか少し悩んだが、早く帰って来週の予定を立てることにして歩調を早めた。
いつも目に入る女王像の方に、誰かがいるのに気づく。
ちらりと暗がりのなかで金髪が揺れた気がして、樹は鋭く反応した。
「アリ・・・ス?」
思わず駆け寄った樹だが、人影は思ったより大きかった。
碧い瞳が不思議そうにこちらを見る。
「どうかしましたか?」
「あっ・・・すみません、人違いで」
樹は少々落胆しながら頭を下げた。
「構いませんよ。・・・それにしても、僕を誰かと見間違うだなんて、変わった方なんでしょうね」
それはそうだ。
この学園で金髪碧眼の人物と言えば普通は、
「そういえば、君と二人で会うのは初めてですね。一度ゆっくり話をしてみたいと思っていたんですよ」
アンリ先生の言葉に、樹は思わず警戒してエプロンを掴む手に力を入れた。