5話 ケーキ嫌いの君へ
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「うわあ、おいしそう!こんな素敵なサロンが学園の中にあったなんて!」
いちごは色とりどりのケーキを目の前にうっとりしながら言った。
五人は、高等部の生徒会が運営する、サロン・ド・マリーという場所に足を運んでいた。ここで出されているスイーツは高等部の実力者達の作品だ。早くもプロ並みの待遇を受けている彼らのスイーツを食べることは、楽しみにもなるし、勉強にもなるので中等部の生徒にとっても人気のあるスポットだった。
樹は最初乗り気でなかったのだが、いちごと花房に引っ張られるようにしてやってきた。一度気を許すととたんに押しが強くなるのはどういうことだろうと樹は困惑した。
「ほえー・・・もう食べられましぇーん・・・」
いつの間にか、見ているだけで胃がもたれそうなほど目の前に並べられていたケーキの軍隊が姿を消していた。殲滅犯と思しきいちごはたいそう満足げな様子だ。
「いちごちゃん!?」
「もう全部食べちゃったの!?」
「つーか、皿を積むな!回転スイーツか!」
三人はいちごの強靭な胃袋に動揺している。樹はリアクションし損ねたため、自分が注文したスイーツを黙々と食べ続けた。
「天野さん、気を確かに・・・」
「女の子がそんな面白い顔しちゃだめだよ?」
「食い過ぎだ!太るぞ!」
「うるさいわね!ケーキは別腹っていうでしょ?ね、東堂さん?」
いちごが唐突に話をふる。彼女の中で、樹の認識が『実はいい人』に変化しているようだった。
「太るとか言って量を食べないからそんな身長なんじゃないの」
「くそ・・・!マジで覚えてろよお前!」
樹が期待通りに応戦すると、花房と安堂が爆笑した。樹の身長は女子の中では高めなので、樫野と目線が一致する程度のものはあった。樫野が樹を目障りに思うのはそういった物理的な問題もあるのだった。いちごも笑っていたが、目の前を美しい金髪の女子生徒が姿勢よく通り過ぎていくのに気づき、思わず見とれた。いちごの視線に気づいた四人もそちらを見る。
「わあ、すごい美人・・・誰なの、あの人?」
彼女が他の生徒と異なるのは、明らかに顔の美しさだけではなかった。そのオーラを敏感に感じ取ったいちごは、彼女が有名人であることも悟ったようだった。
「高等部の生徒会長、天王寺麻里さんだよ。数々のコンクールで優勝経験がある天才で、アンリ先生の愛弟子さ」
花房の説明に、いちごは彼女に憧れに満ちた眼差しを送った。かわいらしい中等部の後輩だけでなく、同学年からも崇拝される天王寺は、どうにもプライドが高そうな印象を受ける。余程のことがない限りお近づきにはなれなさそうだった。
「いいなあ・・・あたしも天王寺さんみたいになりたい!お店で働いてみたーい!」
ケーキを食べた後もサロンに居座って、思う存分に天王寺の店内での活躍ぶりを見届けたいちごは、すっかり熱を上げたようすで騒ぎ立てた。樫野は冷静に初心者には無理なことだし、中等部では店員も務められないと告げる。いちごは目に見えてがっくりした。
「そういうことなら、いいお店知ってるよ」
「えっ、ほんとに?どこどこ?」
花房が笑顔で助け舟を出し、いちごは風の早さで立ち直る。
「安堂の家、和菓子屋だから」
「えーっ!そうだったんだ!」
「うん。週末はいつも帰って店を手伝ってるんだ」
「明日は僕も樫野も行く予定だし、二人とも来る?」
花房はさらりと言った。黙ってやりとりをきいていた樹は数に入れられていることに気づき、思わず口を挟んだ。
「は、二人?」
「うん、二人とも」
「花房!よけいなことを・・・!」
樫野は心底嫌そうに食って掛かろうとしたが、ワクワクが原動力となっているいちごに突き飛ばされて、勢いを失う。
「本当に行っていいの!?」
「もちろんだよ。二人も、是非手伝いにきてよ」
「やったーっ!天野いちご、頑張りまーすっ!」
いちごは樹の手を取って喜ぶ。いちごの中で決定事項になったものを覆すのは困難だった。用事があるわけでもないし、研修と思えばそれなりに勉強になるかもしれないと樹は思うことにして、少し様子をうかがっている様子だった花房に軽く頷いた。花房がそれに気づいて安堂に何か耳打ちする。
ここに来てから、週末を誰かと過ごすのは初めてだった。
いちごは色とりどりのケーキを目の前にうっとりしながら言った。
五人は、高等部の生徒会が運営する、サロン・ド・マリーという場所に足を運んでいた。ここで出されているスイーツは高等部の実力者達の作品だ。早くもプロ並みの待遇を受けている彼らのスイーツを食べることは、楽しみにもなるし、勉強にもなるので中等部の生徒にとっても人気のあるスポットだった。
樹は最初乗り気でなかったのだが、いちごと花房に引っ張られるようにしてやってきた。一度気を許すととたんに押しが強くなるのはどういうことだろうと樹は困惑した。
「ほえー・・・もう食べられましぇーん・・・」
いつの間にか、見ているだけで胃がもたれそうなほど目の前に並べられていたケーキの軍隊が姿を消していた。殲滅犯と思しきいちごはたいそう満足げな様子だ。
「いちごちゃん!?」
「もう全部食べちゃったの!?」
「つーか、皿を積むな!回転スイーツか!」
三人はいちごの強靭な胃袋に動揺している。樹はリアクションし損ねたため、自分が注文したスイーツを黙々と食べ続けた。
「天野さん、気を確かに・・・」
「女の子がそんな面白い顔しちゃだめだよ?」
「食い過ぎだ!太るぞ!」
「うるさいわね!ケーキは別腹っていうでしょ?ね、東堂さん?」
いちごが唐突に話をふる。彼女の中で、樹の認識が『実はいい人』に変化しているようだった。
「太るとか言って量を食べないからそんな身長なんじゃないの」
「くそ・・・!マジで覚えてろよお前!」
樹が期待通りに応戦すると、花房と安堂が爆笑した。樹の身長は女子の中では高めなので、樫野と目線が一致する程度のものはあった。樫野が樹を目障りに思うのはそういった物理的な問題もあるのだった。いちごも笑っていたが、目の前を美しい金髪の女子生徒が姿勢よく通り過ぎていくのに気づき、思わず見とれた。いちごの視線に気づいた四人もそちらを見る。
「わあ、すごい美人・・・誰なの、あの人?」
彼女が他の生徒と異なるのは、明らかに顔の美しさだけではなかった。そのオーラを敏感に感じ取ったいちごは、彼女が有名人であることも悟ったようだった。
「高等部の生徒会長、天王寺麻里さんだよ。数々のコンクールで優勝経験がある天才で、アンリ先生の愛弟子さ」
花房の説明に、いちごは彼女に憧れに満ちた眼差しを送った。かわいらしい中等部の後輩だけでなく、同学年からも崇拝される天王寺は、どうにもプライドが高そうな印象を受ける。余程のことがない限りお近づきにはなれなさそうだった。
「いいなあ・・・あたしも天王寺さんみたいになりたい!お店で働いてみたーい!」
ケーキを食べた後もサロンに居座って、思う存分に天王寺の店内での活躍ぶりを見届けたいちごは、すっかり熱を上げたようすで騒ぎ立てた。樫野は冷静に初心者には無理なことだし、中等部では店員も務められないと告げる。いちごは目に見えてがっくりした。
「そういうことなら、いいお店知ってるよ」
「えっ、ほんとに?どこどこ?」
花房が笑顔で助け舟を出し、いちごは風の早さで立ち直る。
「安堂の家、和菓子屋だから」
「えーっ!そうだったんだ!」
「うん。週末はいつも帰って店を手伝ってるんだ」
「明日は僕も樫野も行く予定だし、二人とも来る?」
花房はさらりと言った。黙ってやりとりをきいていた樹は数に入れられていることに気づき、思わず口を挟んだ。
「は、二人?」
「うん、二人とも」
「花房!よけいなことを・・・!」
樫野は心底嫌そうに食って掛かろうとしたが、ワクワクが原動力となっているいちごに突き飛ばされて、勢いを失う。
「本当に行っていいの!?」
「もちろんだよ。二人も、是非手伝いにきてよ」
「やったーっ!天野いちご、頑張りまーすっ!」
いちごは樹の手を取って喜ぶ。いちごの中で決定事項になったものを覆すのは困難だった。用事があるわけでもないし、研修と思えばそれなりに勉強になるかもしれないと樹は思うことにして、少し様子をうかがっている様子だった花房に軽く頷いた。花房がそれに気づいて安堂に何か耳打ちする。
ここに来てから、週末を誰かと過ごすのは初めてだった。