27話 パートナー
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しばらくすると、早見は同じチームの男子と約束があるだとか言って先に帰ってしまった。樹はしばらくフランス語と格闘していたが、辺りが暗くなって来たので引き上げることにした。
先日、美和に「生活のリズム、乱れ過ぎじゃないっすか」と言われてちょっとだけイラッとしたところだったので早めに寝ようと思っていた。
リズムが乱れていると言えば、確実にグランプリのハードな練習が原因だ。
どんなに頑張っても完成形なんて現れない。
だから、手が動かせるだけ、頭が働くだけ、練習は終わらないんだ。
・・・この前の試合なんかは調理室に泊まりになっちゃうし。
樹はぼんやりとその時のことを思い出しはじめたが、その時女子寮の前を花房が通りかかるのが見えて、何故か動きが止まった。
「・・・・」
声をかけるという、発想がどこかに溶けてしまった。
樹が声を失って立ち尽くしている間に、花房は男子寮の方へ行ってしまった。
(・・・な、なんなのかしら)
樹は彼と顔を合わせることを躊躇ったかのような自分の行動に自分で戸惑いながら、そっと足を踏み出した。
「東堂さん」
「!?」
そこに、突然横から声をかけられて樹は肩を震わすと弾かれたようにそちらの方に向き直った。
天王寺は、明らかに挙動不審な樹の反応に困惑した。
「・・・えーと」
さすがに言葉を詰まらせた天王寺は、気まずそうにほんの少し首を傾げた。
「・・・何か」
樹は思わず僅かに赤面しながら、咳払いをした。
天王寺は気を取り直して口を開く。
「あなたに少し話しておきたいことがあるの」
「・・・私に、ですか?」
「あなたのスピリッツに関係する話よ。ハニーが何か思い当たったみたいなの」
息を飲んだ。
今度こそ、マロンがやって来た時に感じた微妙なときめきとは違う、高揚を樹は感じていた。
天王寺は、樹を連れて高等部の調理室までやってきた。ハニーが話すので人目につかないところがいいのかなと樹は思ったが、ハニーが天王寺の艶やかな髪の間から登場すると、自分の役目は全て終わったと言わんばかりに天王寺はエプロンをつけて練習を始めてしまった。
(・・・ま、そりゃ自分の練習の方が大事よね)
深く気にしないことにして、適当に腰掛けるとハニーが紅茶を淹れてくれた。ハニーディッパーひと振りであたたかな甘さが香るハニーミルクティーに変身する。
「以前にあなたの状況を聞いてから考えていたのだけどね」
大人しく紅茶をすすりはじめた樹に、ハニーは威厳たっぷりな調子で話しだした。
「もしかしたら、あなたに関係しているのは厳密にはスピリッツではないのかもしれないの」
「スピリッツではない・・・?」
樹は予想外の方向性に目を見開いた。
「スイーツ王国では昔から稀に起きることらしいのだけど、スイーツマジックにおそろしく特化したスピリッツというのがここ最近でも現れたのよ。歳はそう、バニラ達と同じはずよ」
ハニーは淡々と話す。
「途中までは同期の子たちと一緒に学校で学んでいたはずなの。だけど、一年ほど前からスイーツ王国からは完全に消息を絶ったの」
「どうして・・・」
「原因は分からないわ。私も麻里のパートナーになって人間界で過ごしはじめてからは、あちらにいたスピリッツの情報には少し疎いの」
そういえばバニラ達はたまにスイーツ王国に帰っているが、それでもこちらで過ごしている時間のほうが圧倒的に多い。天王寺が中等部の時からのパートナーなら、いくら地位が高いらしいハニーでも情報は入りにくいだろう。
「スイーツマジックに特化しているっていうのはどういうことなのかしら」
「もしかしたら、スイーツマジックという言葉自体がよくないのかもしれないわ。スイーツマジックというのは、本来食の楽しみを供給するという目的に縛られているから実はあまり自由度が無いのだけど、彼女の力は特定の目的にとらわれないの。つまり、自由自在なのよ。精霊族というよりは魔女に近いわ」
魔女。
普段のスピリッツ達の暢気な様子からはとても考えられない、それは禍々しい言葉に聞こえた。
彼女は、スイーツ王国の全ての目を欺いて人間界へやってきていて、知らない間に自分にも魔法をかけているのだ。
「・・・少し怖くなったかしら?」
ハニーは樹の表情を見て言う。
「でも、もしかしたら彼女はもうあなたと会ったことがあるかもしれないわ」
「どうしてそんなこと・・・。私、スピリッツは見てないんです」
「恐らくだけれど、彼女は自分の力で王族―――つまり人間と同じかたちをとっているのだと思うわ。でも、中途半端に彼女は本来のスピリッツ特有の性質を残しているのね。だから、スピリッツが見えている人間にしか見えないのよ。そうやって巧みに存在感を消している」
「・・・・」
樹には、思い当たる節があった。
では、まさか。
「彼女の見た目・・・特徴か何かって分かりますか」
「そうね・・・本人を見たのは大分前だから詳しいことは忘れてしまったけれど・・・」
ハニーは一瞬考えたが、すぐに口を開いた。
「金髪で碧眼の、とてもきれいな子だったと思うわ」
先日、美和に「生活のリズム、乱れ過ぎじゃないっすか」と言われてちょっとだけイラッとしたところだったので早めに寝ようと思っていた。
リズムが乱れていると言えば、確実にグランプリのハードな練習が原因だ。
どんなに頑張っても完成形なんて現れない。
だから、手が動かせるだけ、頭が働くだけ、練習は終わらないんだ。
・・・この前の試合なんかは調理室に泊まりになっちゃうし。
樹はぼんやりとその時のことを思い出しはじめたが、その時女子寮の前を花房が通りかかるのが見えて、何故か動きが止まった。
「・・・・」
声をかけるという、発想がどこかに溶けてしまった。
樹が声を失って立ち尽くしている間に、花房は男子寮の方へ行ってしまった。
(・・・な、なんなのかしら)
樹は彼と顔を合わせることを躊躇ったかのような自分の行動に自分で戸惑いながら、そっと足を踏み出した。
「東堂さん」
「!?」
そこに、突然横から声をかけられて樹は肩を震わすと弾かれたようにそちらの方に向き直った。
天王寺は、明らかに挙動不審な樹の反応に困惑した。
「・・・えーと」
さすがに言葉を詰まらせた天王寺は、気まずそうにほんの少し首を傾げた。
「・・・何か」
樹は思わず僅かに赤面しながら、咳払いをした。
天王寺は気を取り直して口を開く。
「あなたに少し話しておきたいことがあるの」
「・・・私に、ですか?」
「あなたのスピリッツに関係する話よ。ハニーが何か思い当たったみたいなの」
息を飲んだ。
今度こそ、マロンがやって来た時に感じた微妙なときめきとは違う、高揚を樹は感じていた。
天王寺は、樹を連れて高等部の調理室までやってきた。ハニーが話すので人目につかないところがいいのかなと樹は思ったが、ハニーが天王寺の艶やかな髪の間から登場すると、自分の役目は全て終わったと言わんばかりに天王寺はエプロンをつけて練習を始めてしまった。
(・・・ま、そりゃ自分の練習の方が大事よね)
深く気にしないことにして、適当に腰掛けるとハニーが紅茶を淹れてくれた。ハニーディッパーひと振りであたたかな甘さが香るハニーミルクティーに変身する。
「以前にあなたの状況を聞いてから考えていたのだけどね」
大人しく紅茶をすすりはじめた樹に、ハニーは威厳たっぷりな調子で話しだした。
「もしかしたら、あなたに関係しているのは厳密にはスピリッツではないのかもしれないの」
「スピリッツではない・・・?」
樹は予想外の方向性に目を見開いた。
「スイーツ王国では昔から稀に起きることらしいのだけど、スイーツマジックにおそろしく特化したスピリッツというのがここ最近でも現れたのよ。歳はそう、バニラ達と同じはずよ」
ハニーは淡々と話す。
「途中までは同期の子たちと一緒に学校で学んでいたはずなの。だけど、一年ほど前からスイーツ王国からは完全に消息を絶ったの」
「どうして・・・」
「原因は分からないわ。私も麻里のパートナーになって人間界で過ごしはじめてからは、あちらにいたスピリッツの情報には少し疎いの」
そういえばバニラ達はたまにスイーツ王国に帰っているが、それでもこちらで過ごしている時間のほうが圧倒的に多い。天王寺が中等部の時からのパートナーなら、いくら地位が高いらしいハニーでも情報は入りにくいだろう。
「スイーツマジックに特化しているっていうのはどういうことなのかしら」
「もしかしたら、スイーツマジックという言葉自体がよくないのかもしれないわ。スイーツマジックというのは、本来食の楽しみを供給するという目的に縛られているから実はあまり自由度が無いのだけど、彼女の力は特定の目的にとらわれないの。つまり、自由自在なのよ。精霊族というよりは魔女に近いわ」
魔女。
普段のスピリッツ達の暢気な様子からはとても考えられない、それは禍々しい言葉に聞こえた。
彼女は、スイーツ王国の全ての目を欺いて人間界へやってきていて、知らない間に自分にも魔法をかけているのだ。
「・・・少し怖くなったかしら?」
ハニーは樹の表情を見て言う。
「でも、もしかしたら彼女はもうあなたと会ったことがあるかもしれないわ」
「どうしてそんなこと・・・。私、スピリッツは見てないんです」
「恐らくだけれど、彼女は自分の力で王族―――つまり人間と同じかたちをとっているのだと思うわ。でも、中途半端に彼女は本来のスピリッツ特有の性質を残しているのね。だから、スピリッツが見えている人間にしか見えないのよ。そうやって巧みに存在感を消している」
「・・・・」
樹には、思い当たる節があった。
では、まさか。
「彼女の見た目・・・特徴か何かって分かりますか」
「そうね・・・本人を見たのは大分前だから詳しいことは忘れてしまったけれど・・・」
ハニーは一瞬考えたが、すぐに口を開いた。
「金髪で碧眼の、とてもきれいな子だったと思うわ」