27話 パートナー
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「やっぱり、この子にするわ!」
樹の集中力は、頭上高くから聞こえた鈴のなるような声のせいでふつんと途切れた。
樹の経験上、こんな声の持ち主がどういう存在かなどは分かっている。それにしても、「この子にする」とはなんなのか。
樹は声の方向に振り向いてみた。
「!?」
案の定それはスイーツスピリッツだったが、見慣れない少女だった。
栗色のウェーブがかった髪を垂らして、深いブラウン系統で身なりをまとめた彼女は、樹と目が合ったことに心底驚いた顔をしていた。
「・・・東堂さん?」
何も見えていない早見は、不自然に宙を見つめている樹を不審に思って声をかけた。
「・・・お手洗い行きたい」
「ぶっ、あははははは!」
咄嗟に真顔でそう取り繕った樹の様子に早見は思わず吹き出し、「行ってらっしゃい」と手を振りながら、しばらく口を押さえて参考書に顔をうずめていた。
何がそんなにおかしかったのだろうかと思いながら、樹は早足に図書室を出た。スピリッツが追って来るのが分かる。
「なに、あんた」
人気の無いところまで歩き、立ち止まると樹は彼女に容赦のない声をかけた。
スピリッツはその様子に少し怯んだが、すぐに口を開いた。
「あら、ほんとにあたしが見えるのね。バニラ達に聞いてたとおり、チョー無愛想だけど技術は見させてもらったわ。中等部でスイーツ王子に並んでるのはあんたぐらいみたいだし、あたしにぴったりだと思うの」
「あの、あんた何が言いたいのよ?」
「東堂樹、あなたをこのマロンのパートナーにしてあげるって言ってるのよ」
パートナー。
樹は不覚にもこの高飛車なスピリッツに対して一瞬胸を高鳴らせてしまった。
バニラ達と出会ってから感じていた心の空白がやっと埋まるのだろうか。
ずいぶんと思いがけないタイミングだけれど、樹の脳裏には「これで解放される」と安堵にも似たなにかがちらつきはじめた。
なんで、私だけ。
私ばっかり。
その劣等感が、今日なくなるのかもしれない。
「・・・っ」
樹は、何か声を出そうとして詰まった。
樹には何故かパートナーがいないのにスピリッツが見えている。
前に、バニラたちに自分は既にスピリッツの魔法がかけられているのだと聞いたことがある。
それでは自分に魔法をかけたスピリッツは、どこに行ったのだ。
こんな形で声をかけてきたマロンというスピリッツがそうだとはとても考えられなかった。
「・・・な、何よ。ちゃんと聞いてたの?」
「・・・聞いてたわよ」
マロンは一切の反応を放棄していた樹をいぶかしげに見た。
樹はマロンの様子を注意深く見た。
話の感じでは彼女もバニラ達と同期のスピリッツらしい。
パートナー探しに出遅れた彼女も、もしかしたら自分と似たような劣等感があるのかもしれない。
だけど、この子じゃない。
不思議と、樹には確信できた。
「念のため聞いておくけど、あんた前に私を見たことある?」
「えっ?人間界に来てみたのは初めてだもの。そんなはずないわよ」
「そう、分かったわ」
樹はきょとんとしているマロンに一歩近づくと、はっきりと言い放った。
「遠慮しとくわ」
「ええっ!?」
マロンは信じられないという顔をした。
「な、なんで?あんたの周りみんなスピリッツがついてるじゃない!一人だけパートナーがいないなんて変よ!」
「別に?あんたじゃなくていいじゃない」
「なによ、失礼ね!」
「じゃあね、頑張って」
樹は「ありえない」などとガミガミこちらに吠えかかってくるマロンに背を向けてひらひらと手を振った。
後悔しない、これでいい。
樹は確信を持って図書室へと戻って行く。
でも、ちょっと選んでくれて嬉しかったな。
なんて、思いながら。
樹の集中力は、頭上高くから聞こえた鈴のなるような声のせいでふつんと途切れた。
樹の経験上、こんな声の持ち主がどういう存在かなどは分かっている。それにしても、「この子にする」とはなんなのか。
樹は声の方向に振り向いてみた。
「!?」
案の定それはスイーツスピリッツだったが、見慣れない少女だった。
栗色のウェーブがかった髪を垂らして、深いブラウン系統で身なりをまとめた彼女は、樹と目が合ったことに心底驚いた顔をしていた。
「・・・東堂さん?」
何も見えていない早見は、不自然に宙を見つめている樹を不審に思って声をかけた。
「・・・お手洗い行きたい」
「ぶっ、あははははは!」
咄嗟に真顔でそう取り繕った樹の様子に早見は思わず吹き出し、「行ってらっしゃい」と手を振りながら、しばらく口を押さえて参考書に顔をうずめていた。
何がそんなにおかしかったのだろうかと思いながら、樹は早足に図書室を出た。スピリッツが追って来るのが分かる。
「なに、あんた」
人気の無いところまで歩き、立ち止まると樹は彼女に容赦のない声をかけた。
スピリッツはその様子に少し怯んだが、すぐに口を開いた。
「あら、ほんとにあたしが見えるのね。バニラ達に聞いてたとおり、チョー無愛想だけど技術は見させてもらったわ。中等部でスイーツ王子に並んでるのはあんたぐらいみたいだし、あたしにぴったりだと思うの」
「あの、あんた何が言いたいのよ?」
「東堂樹、あなたをこのマロンのパートナーにしてあげるって言ってるのよ」
パートナー。
樹は不覚にもこの高飛車なスピリッツに対して一瞬胸を高鳴らせてしまった。
バニラ達と出会ってから感じていた心の空白がやっと埋まるのだろうか。
ずいぶんと思いがけないタイミングだけれど、樹の脳裏には「これで解放される」と安堵にも似たなにかがちらつきはじめた。
なんで、私だけ。
私ばっかり。
その劣等感が、今日なくなるのかもしれない。
「・・・っ」
樹は、何か声を出そうとして詰まった。
樹には何故かパートナーがいないのにスピリッツが見えている。
前に、バニラたちに自分は既にスピリッツの魔法がかけられているのだと聞いたことがある。
それでは自分に魔法をかけたスピリッツは、どこに行ったのだ。
こんな形で声をかけてきたマロンというスピリッツがそうだとはとても考えられなかった。
「・・・な、何よ。ちゃんと聞いてたの?」
「・・・聞いてたわよ」
マロンは一切の反応を放棄していた樹をいぶかしげに見た。
樹はマロンの様子を注意深く見た。
話の感じでは彼女もバニラ達と同期のスピリッツらしい。
パートナー探しに出遅れた彼女も、もしかしたら自分と似たような劣等感があるのかもしれない。
だけど、この子じゃない。
不思議と、樹には確信できた。
「念のため聞いておくけど、あんた前に私を見たことある?」
「えっ?人間界に来てみたのは初めてだもの。そんなはずないわよ」
「そう、分かったわ」
樹はきょとんとしているマロンに一歩近づくと、はっきりと言い放った。
「遠慮しとくわ」
「ええっ!?」
マロンは信じられないという顔をした。
「な、なんで?あんたの周りみんなスピリッツがついてるじゃない!一人だけパートナーがいないなんて変よ!」
「別に?あんたじゃなくていいじゃない」
「なによ、失礼ね!」
「じゃあね、頑張って」
樹は「ありえない」などとガミガミこちらに吠えかかってくるマロンに背を向けてひらひらと手を振った。
後悔しない、これでいい。
樹は確信を持って図書室へと戻って行く。
でも、ちょっと選んでくれて嬉しかったな。
なんて、思いながら。