27話 パートナー
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
Aグループは爆笑の渦に包まれていた。いちごが、何を血迷ったのかモンブランの上にのせる細かいイガイガの飾りにそうめんを使用したのだ。もちろん失敗して炭のようになってしまっている。いつものように安堂が柔らかい言葉でフォローするのでショコラが反発した。
「そうやって甘やかすからいけないんですわ!」
「失敗は誰だってあるわ!次に作るとき失敗しなければいいのよ!」
いつも通り賑やかにやっているショコラとバニラを横目に四人は仕上げの段階に入った。マロングラッセ入りのかぼちゃのモンブランを仕上げた樹は秘かに嘆息した。
決勝を目前にひとりパリ行きの切符が持てないことと自分にスピリッツがいないことが、再びコンプレックスとなって押し寄せて来たのだ。
(こう、毎度のように暗い感じになるのもいい加減にしておきたいのだけど)
樹は決勝戦の相手として待ち構えている天王寺の顔を思い浮かべながら、勝てるかなとぼんやり思う。
(どっちにせよ、私のグランプリはここまでね)
そんな樹を、誰かが頭上から狙いを定めるように観察していることを、樹自身は今のところ知る由もなかった。
樹は最近よく図書室へ行く。
本を読むのは嫌いではないけれど、樹にとって優先順位は勉強の方が上だ。
勉学に励む生徒しかいない静かな空間は、自室にいるよりもなんとなく集中できる。
おばあちゃんみたいな先生になりたいだなんて、ぼんやりとはそう思っていても、まだ具体的にそのなり方を探したりはしていない。
ただ、勉強はできなくちゃいけないだろう。
以前、天王寺に「夢を持ちなさい」だとか言われていた気もするけれど、樹にだってちゃんとあるはずだった。
そう思って、いちご達のグランプリを傍で応援するかたわらに勉強に精を出したりしてみているのだ。
編入して来てしばらくは問題児扱いされていたけれど、おかげでフランス語の先生には最近けっこう気に入られている。
「あ、東堂さん」
樹が自習机を陣取ってノートと辞書を並べて空間作りに励んでいると、フランス語のクラスでもう一人のお気に入り、早見エリカがこちらへ向かって片手を挙げた。
「今日も自習?最近よく来るね」
「まあね、グランプリばっかりに気を取られてるわけにもいかないもの」
「ほんとにね。出場してるのは天野さんのとこだけなのに、関係ない人までうかうかしすぎ」
その言葉に、樹は一瞬止まったが、すぐに「ね」と口角を上げた。
早見はその反応に「あ」と視線を泳がせて、「えっと、ちが」と早口に舌をもたつかせた。
「やだ東堂さんは関係あるよねっ、ほら同じチームだし」
「どうもありがとう」
慌てて樹の気分を害した可能性に気づいた早見は取り繕う。
昨年の期末テストで痛恨のミスをした早見は実習のクラスでは最低ランクと称されるFグループだ。以前まで意欲を失って退学を考えており、周囲にも刺々しく当たっていたのだが、いちごが関わったとある出来事によってこの学園で卒業を目指すことに決めて以降、徐々に周りとの溝を埋めつつある。
菓子作りにかまけていた時間を取り戻すかのように、早見は二年時からいっそう勉強に励むようになっていたのだが、聖マリーを卒業すると決めたあともなんだかんだ勉強は性に合っているらしく、図書館に通い続けている。
「東堂さん、フランス語の成績上がったよね。この前の小テスト満点組にいたからちょっとびっくりした」
「まあ、あれは対策にけっこう時間かけたし。小テストくらいだったら一晩犠牲にすれば満点とれるじゃない。問題は期末テストなのよね」
「東堂さん、ほかの教科はもともと結構できるし、次は絶対ベスト10入るよ」
「樫野を引き摺り落とすのはまだ遠い話ね。悔しいけれど」
樹は少し笑って辞書を開く。開き癖がついたせいで、動詞活用表の先頭ページが一発で姿を表した。
早見は樹の隣に腰を下ろすと、自分も数学の参考書とノートを取り出した。
(東堂さんって、いつのまに樫野くんと仲良くなったんだっけ。自分から樫野くんの話題出すなんて)
早見は小首をかしげながらも、細かい赤字を書き入れながら先日咀嚼したはずの証明問題が今見ると意味不明なことに気がついて眉をひそめた。
「そうやって甘やかすからいけないんですわ!」
「失敗は誰だってあるわ!次に作るとき失敗しなければいいのよ!」
いつも通り賑やかにやっているショコラとバニラを横目に四人は仕上げの段階に入った。マロングラッセ入りのかぼちゃのモンブランを仕上げた樹は秘かに嘆息した。
決勝を目前にひとりパリ行きの切符が持てないことと自分にスピリッツがいないことが、再びコンプレックスとなって押し寄せて来たのだ。
(こう、毎度のように暗い感じになるのもいい加減にしておきたいのだけど)
樹は決勝戦の相手として待ち構えている天王寺の顔を思い浮かべながら、勝てるかなとぼんやり思う。
(どっちにせよ、私のグランプリはここまでね)
そんな樹を、誰かが頭上から狙いを定めるように観察していることを、樹自身は今のところ知る由もなかった。
樹は最近よく図書室へ行く。
本を読むのは嫌いではないけれど、樹にとって優先順位は勉強の方が上だ。
勉学に励む生徒しかいない静かな空間は、自室にいるよりもなんとなく集中できる。
おばあちゃんみたいな先生になりたいだなんて、ぼんやりとはそう思っていても、まだ具体的にそのなり方を探したりはしていない。
ただ、勉強はできなくちゃいけないだろう。
以前、天王寺に「夢を持ちなさい」だとか言われていた気もするけれど、樹にだってちゃんとあるはずだった。
そう思って、いちご達のグランプリを傍で応援するかたわらに勉強に精を出したりしてみているのだ。
編入して来てしばらくは問題児扱いされていたけれど、おかげでフランス語の先生には最近けっこう気に入られている。
「あ、東堂さん」
樹が自習机を陣取ってノートと辞書を並べて空間作りに励んでいると、フランス語のクラスでもう一人のお気に入り、早見エリカがこちらへ向かって片手を挙げた。
「今日も自習?最近よく来るね」
「まあね、グランプリばっかりに気を取られてるわけにもいかないもの」
「ほんとにね。出場してるのは天野さんのとこだけなのに、関係ない人までうかうかしすぎ」
その言葉に、樹は一瞬止まったが、すぐに「ね」と口角を上げた。
早見はその反応に「あ」と視線を泳がせて、「えっと、ちが」と早口に舌をもたつかせた。
「やだ東堂さんは関係あるよねっ、ほら同じチームだし」
「どうもありがとう」
慌てて樹の気分を害した可能性に気づいた早見は取り繕う。
昨年の期末テストで痛恨のミスをした早見は実習のクラスでは最低ランクと称されるFグループだ。以前まで意欲を失って退学を考えており、周囲にも刺々しく当たっていたのだが、いちごが関わったとある出来事によってこの学園で卒業を目指すことに決めて以降、徐々に周りとの溝を埋めつつある。
菓子作りにかまけていた時間を取り戻すかのように、早見は二年時からいっそう勉強に励むようになっていたのだが、聖マリーを卒業すると決めたあともなんだかんだ勉強は性に合っているらしく、図書館に通い続けている。
「東堂さん、フランス語の成績上がったよね。この前の小テスト満点組にいたからちょっとびっくりした」
「まあ、あれは対策にけっこう時間かけたし。小テストくらいだったら一晩犠牲にすれば満点とれるじゃない。問題は期末テストなのよね」
「東堂さん、ほかの教科はもともと結構できるし、次は絶対ベスト10入るよ」
「樫野を引き摺り落とすのはまだ遠い話ね。悔しいけれど」
樹は少し笑って辞書を開く。開き癖がついたせいで、動詞活用表の先頭ページが一発で姿を表した。
早見は樹の隣に腰を下ろすと、自分も数学の参考書とノートを取り出した。
(東堂さんって、いつのまに樫野くんと仲良くなったんだっけ。自分から樫野くんの話題出すなんて)
早見は小首をかしげながらも、細かい赤字を書き入れながら先日咀嚼したはずの証明問題が今見ると意味不明なことに気がついて眉をひそめた。