4話 バラのスイーツ王子
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樹は予備のパティシエ服に着替えて、実習室の扉を開いた。いちごと花房はまだ何も始めておらず、二人の視線が樹をとらえた。
「あ、の・・・」
自分から人に話しかけるというのは案外勇気がいることだった。樹は緊張で顔を赤くさせながらいちごと視線を合わせた。
「天野さん、ごめんなさい。さっきはあんなことを言うべきじゃなかったわ」
「ああっ、あたしこそごめんなさい!東堂さんの言う通りなんだ、あたし足引っ張ってばっかりで・・・」
謝られたいちごは、恐縮して頭を下げた。
「あの・・・その、だから・・・一緒に頑張りましょう、私も転入して一月たつけど、まだ不慣れだし」
「どうしたの、なんか謙虚だね東堂さん」
樹はいちごを威圧しているような気がしてきたので下手に出てみたが、驚いた花房に口を挟まれた。
「うるさいわね、ちょっと黙ってなさいよ」
「あの、東堂さん・・・服もあたしのせいで汚しちゃってごめんね、あたし、頑張るから!」
「服のことならいいわ、あとで一緒に洗いにいきましょう」
「うん!」
樹の言葉に、いちごは嬉しそうに返事をした。その笑顔をみて、安心する。たしかに根に持ったりしなさそうないい子のようだ。
「花房君も、色々悪かったわね」
「ずいぶんしおらしいじゃない」
「素直に聞いててくれない?」
勢いで花房にも声をかけてみた樹だが、意地の悪いことを言われて眉間にしわを寄せる。
「冗談だよ。あまりに意外だったから、ね。悪かったのは僕も同じだから、責められないよ」
「どの辺りが悪かったと思ってるのか聞いてもいいのかしら」
「あまりつっこんでほしくないなあ・・・」
「あたし、聞きたいんだけど・・・」
花房とも因縁がありそうな様子が気になったいちごは樹に便乗した。
「うーん・・・正直、偏見があったから。身内からの推薦って聞いて、コネ入学の子なんて何の努力もしないでトップクラスにきたものだと思ってたんだよね」
「そうなの?」
「私、何となくは気づいてたけれど」
「一回目の授業で実力は分かったんだけど、なんせ、ああいうことがあったら、話しかけづらいじゃない?」
「分かってます。だから・・・その、もうちょっと、仲良くやっても、いい気がしたので・・・」
樹がたどたどしく言うと、花房は吹き出した。
「あー、もうダメ。東堂さんがしおらしくしてるとほんとに面白いね」
「いちいち茶化さないでくれるかしら」
「でも、東堂さんと花房君が仲直りしてくれたみたいでよかった!グループみんなで仲良くやった方が絶対楽しいよ!」
いちごが極めて楽しそうに言って手を合わせた。
「あたし、これからシュークリームの復習するの!東堂さんも一緒にやろう!」
「そうね、私早引きしたし必要かも」
3人はそれぞれ作業を開始した。いちごは実習のときよりも格段に楽しそうな様子で丁寧に生地作りを始めるし、樹もところどころ口を出してやったが、もう緊張しているようなことはなかった。
「じゃあ、樫野とも仲直りするの?」
いちごよりも練習が必要でない樹は生地をオーブンに入れるところをいちごに任せて、花房の様子を見にいった。花房はどう見てもシュークリーム以外のものを作っている手を止めて微笑を浮かべながらそう言った。
「・・・・・」
樹は露骨に顔を歪めた。賢明なこととは言え考えれば考えるほど嫌なことだった。
「あはは、まあ確かに樫野と上手くつき合うのは難しいかもね。僕も最初はけんかしてたし」
花房は懐かしそうな目をしながら笑う。そういえばそんな話を美和から聞いていたと樹は思い出す。
「でも、いい奴だよ。樹ちゃんにも多分分かるよ」
「努力するわ」
樹は素っ気なくこたえてから、一瞬止まった。そういえばさっき名前で呼ばれた気がする。
「樹ちゃん」
思っているそばから、花房は楽しそうに樹の耳元に口を寄せた。
「飴細工って、やったことある?」
「わああ・・・・」
いちごは、盛りつけたシュークリームを飾る飴細工に感嘆した。「いちごちゃんの学園生活がバラ色でありますように」と気障なことを言いながら花房があしらったものである。普段から美意識の高さをアピールしているだけあって、その出来には目を見張るものがある。
「すごーい!これ、花房君と東堂さんが!?」
「そうだよ、このバラが樹ちゃんの」
「ちょっと、わざわざ指差すことないでしょ」
樹は作品をあまり見せたくなかった。飴細工は初挑戦だった。花房を見ようみまねで作ってみたが若干歪になったので、少し注意して見ればすぐ分かる。
「あ、これ?」
「あまり見ないで」
「なかなかいいと思うけど」
樹は自分の作品をにらみつける。確かに初挑戦にしてはまあまあだったが、隣に並べてあるのが花房の作品なので、悪い部分が目立つのだ。
「いちごちゃーん!シュークリーム作ってるんやてー!?」
だしぬけに、ルミが樫野と安堂を引き連れてかけこんできた。どういう情報網が張り巡らされているのだろう。
「みんな!」
いちごは驚いた声を上げた。三人の目線は、自然と飴細工に飾られたシュークリームに向く。
「うわあー!」
「すごいな、天野さん!」
「いや、見た目にごまかされるな。評価は味見をしてからだ。それじゃ・・・」
「いっただっきまーす!」
三人の手がシュークリームに伸びるのを見て、いちごは涙声で叫んだ。
「いやー!あたしが一番なんだからー!」
「あはは、本気にしたでー!」
みんながいちごの良い反応に笑い出す。つられて樹も笑みを浮かべたが、ふと頭上を見上げて固まった。以前見た妖精のようなものがスプーンを持って頭上をとんでいるではないか。
「・・・!」
「どうしたの、樹ちゃん」
「や、別に・・・」
樹は同様を押し隠して首を振った。花房達は気づいていないらしい。
「これ東堂が作ったんだろ」
樫野がめざとく飴細工を見て言い放った。
「雑だな、やったこともなかったのかよ」
「うるさいわね、これからものにするのよ」
「そうだそうだ!」
「天野はそれ以前の問題だ!」
樹に加勢したいちごがむすっと押し黙る。自分の周りはこんなに騒がしいものだっただろうかと樹はぼんやり思った。以前まではどうでもいい雑音でしかなかったはずの音が、こんなにも生き生きと聞こえる。もしかしたらこうして人に囲まれながら過ごす学校生活も悪くないのかもしれないなと少しだけ考えた。
「あ、の・・・」
自分から人に話しかけるというのは案外勇気がいることだった。樹は緊張で顔を赤くさせながらいちごと視線を合わせた。
「天野さん、ごめんなさい。さっきはあんなことを言うべきじゃなかったわ」
「ああっ、あたしこそごめんなさい!東堂さんの言う通りなんだ、あたし足引っ張ってばっかりで・・・」
謝られたいちごは、恐縮して頭を下げた。
「あの・・・その、だから・・・一緒に頑張りましょう、私も転入して一月たつけど、まだ不慣れだし」
「どうしたの、なんか謙虚だね東堂さん」
樹はいちごを威圧しているような気がしてきたので下手に出てみたが、驚いた花房に口を挟まれた。
「うるさいわね、ちょっと黙ってなさいよ」
「あの、東堂さん・・・服もあたしのせいで汚しちゃってごめんね、あたし、頑張るから!」
「服のことならいいわ、あとで一緒に洗いにいきましょう」
「うん!」
樹の言葉に、いちごは嬉しそうに返事をした。その笑顔をみて、安心する。たしかに根に持ったりしなさそうないい子のようだ。
「花房君も、色々悪かったわね」
「ずいぶんしおらしいじゃない」
「素直に聞いててくれない?」
勢いで花房にも声をかけてみた樹だが、意地の悪いことを言われて眉間にしわを寄せる。
「冗談だよ。あまりに意外だったから、ね。悪かったのは僕も同じだから、責められないよ」
「どの辺りが悪かったと思ってるのか聞いてもいいのかしら」
「あまりつっこんでほしくないなあ・・・」
「あたし、聞きたいんだけど・・・」
花房とも因縁がありそうな様子が気になったいちごは樹に便乗した。
「うーん・・・正直、偏見があったから。身内からの推薦って聞いて、コネ入学の子なんて何の努力もしないでトップクラスにきたものだと思ってたんだよね」
「そうなの?」
「私、何となくは気づいてたけれど」
「一回目の授業で実力は分かったんだけど、なんせ、ああいうことがあったら、話しかけづらいじゃない?」
「分かってます。だから・・・その、もうちょっと、仲良くやっても、いい気がしたので・・・」
樹がたどたどしく言うと、花房は吹き出した。
「あー、もうダメ。東堂さんがしおらしくしてるとほんとに面白いね」
「いちいち茶化さないでくれるかしら」
「でも、東堂さんと花房君が仲直りしてくれたみたいでよかった!グループみんなで仲良くやった方が絶対楽しいよ!」
いちごが極めて楽しそうに言って手を合わせた。
「あたし、これからシュークリームの復習するの!東堂さんも一緒にやろう!」
「そうね、私早引きしたし必要かも」
3人はそれぞれ作業を開始した。いちごは実習のときよりも格段に楽しそうな様子で丁寧に生地作りを始めるし、樹もところどころ口を出してやったが、もう緊張しているようなことはなかった。
「じゃあ、樫野とも仲直りするの?」
いちごよりも練習が必要でない樹は生地をオーブンに入れるところをいちごに任せて、花房の様子を見にいった。花房はどう見てもシュークリーム以外のものを作っている手を止めて微笑を浮かべながらそう言った。
「・・・・・」
樹は露骨に顔を歪めた。賢明なこととは言え考えれば考えるほど嫌なことだった。
「あはは、まあ確かに樫野と上手くつき合うのは難しいかもね。僕も最初はけんかしてたし」
花房は懐かしそうな目をしながら笑う。そういえばそんな話を美和から聞いていたと樹は思い出す。
「でも、いい奴だよ。樹ちゃんにも多分分かるよ」
「努力するわ」
樹は素っ気なくこたえてから、一瞬止まった。そういえばさっき名前で呼ばれた気がする。
「樹ちゃん」
思っているそばから、花房は楽しそうに樹の耳元に口を寄せた。
「飴細工って、やったことある?」
「わああ・・・・」
いちごは、盛りつけたシュークリームを飾る飴細工に感嘆した。「いちごちゃんの学園生活がバラ色でありますように」と気障なことを言いながら花房があしらったものである。普段から美意識の高さをアピールしているだけあって、その出来には目を見張るものがある。
「すごーい!これ、花房君と東堂さんが!?」
「そうだよ、このバラが樹ちゃんの」
「ちょっと、わざわざ指差すことないでしょ」
樹は作品をあまり見せたくなかった。飴細工は初挑戦だった。花房を見ようみまねで作ってみたが若干歪になったので、少し注意して見ればすぐ分かる。
「あ、これ?」
「あまり見ないで」
「なかなかいいと思うけど」
樹は自分の作品をにらみつける。確かに初挑戦にしてはまあまあだったが、隣に並べてあるのが花房の作品なので、悪い部分が目立つのだ。
「いちごちゃーん!シュークリーム作ってるんやてー!?」
だしぬけに、ルミが樫野と安堂を引き連れてかけこんできた。どういう情報網が張り巡らされているのだろう。
「みんな!」
いちごは驚いた声を上げた。三人の目線は、自然と飴細工に飾られたシュークリームに向く。
「うわあー!」
「すごいな、天野さん!」
「いや、見た目にごまかされるな。評価は味見をしてからだ。それじゃ・・・」
「いっただっきまーす!」
三人の手がシュークリームに伸びるのを見て、いちごは涙声で叫んだ。
「いやー!あたしが一番なんだからー!」
「あはは、本気にしたでー!」
みんながいちごの良い反応に笑い出す。つられて樹も笑みを浮かべたが、ふと頭上を見上げて固まった。以前見た妖精のようなものがスプーンを持って頭上をとんでいるではないか。
「・・・!」
「どうしたの、樹ちゃん」
「や、別に・・・」
樹は同様を押し隠して首を振った。花房達は気づいていないらしい。
「これ東堂が作ったんだろ」
樫野がめざとく飴細工を見て言い放った。
「雑だな、やったこともなかったのかよ」
「うるさいわね、これからものにするのよ」
「そうだそうだ!」
「天野はそれ以前の問題だ!」
樹に加勢したいちごがむすっと押し黙る。自分の周りはこんなに騒がしいものだっただろうかと樹はぼんやり思った。以前まではどうでもいい雑音でしかなかったはずの音が、こんなにも生き生きと聞こえる。もしかしたらこうして人に囲まれながら過ごす学校生活も悪くないのかもしれないなと少しだけ考えた。