~第一章~


「んーと…この辺かなぁ……?」
明るい色の髪を耳の高さで二つ結びにした少女が、小さなメモ紙を手に、きょろきょろと辺りを見回していた。メモと電柱の住所を見比べている所からして、どこかに行こうとしているようだった。
じーっとメモを見つめてからふと顔を上げた少女の瞳に、広くて小綺麗な建物が映った。

「あ!あれだ!!」
どうやらそれが目的の場所だったらしく、少女は一目散に駆け出した。ふわふわと髪を揺らしながら、少女はその建物の敷地内の広場へと消えて行った。


8月の終わりのとても暑い日の事だった。容赦なく照り付ける陽射しの中を、2人の少年が腕に買い物袋をぶら下げながら家路を急いでいた。家といっても彼らの本当の家ではなく、2人が生活しているのは施設であった。
「あーあ…試合が終わった次の日に買い物なんてなぁ……」
男子にしては長めの髪を後ろで束ねている少年がため息をついた。
「仕方ないじゃん、当番なんだし。それに最近はリョウが忙しかったから、俺1人で買い物行ってたんだよ?」
黒髪の少年が、隣で眩しそうに太陽を見上げる少年・リョウの顔を覗き込んだ。黒髪の少年頭から生えている猫耳が、ぴょこぴょこと動いた。彼には耳だけでなく、長いしっぽまでが生えている。その容貌は少し異質であった。
「ごめんレオン……」
「ま、仕方無いけどさ。それより今日はリョウのお祝いパーティだね、主役さん?」
謝るリョウに、猫少年・レオンは明るく言った。
「しっかしテニスの地区大会、いとも簡単に優勝しちゃうなんて、さすがリョウだね」

「……ありがと」
リョウは少し照れながら礼を述べた。
「にしたって今日は暑すぎだよ…試合が今日じゃなくてほんとに良かった」
リョウは額の汗を拭いながら、またため息をついた。こんな炎天下の中運動なんてしたら倒れてしまうかもしれない。
「ホントだよ。地球温暖化進みすぎなんじゃない?」
そう言うレオンの声は少しイライラしていた。彼は暑いのが苦手であった。
「アイス買って食べよっか」
そんなレオンを見てリョウは提案した。
「賛成……」
疲れたような返事をし、レオンは手を上げた。そして2人は近くにあるコンビニへと逃げ込んだ。


「「ただいまー」」
2人が帰宅し広間に入ると、施設の子供たちが一斉に振り向いた。誰もがその顔に、何かに驚いたような表情を浮かべていた。
「何?」
「どーしたの?」
2人は訳がわからず問いかけた。
「リョウ…どっどっどっぺる…」
「「はぁ?」」
慌てた様子で口をパクパクとさせて喋る少年の言葉は聞き取りづらかった。
「どっぺる…?」
リョウが首を傾げていると、その少年の隣にいる少女が叫んだ。
「ドッペルゲンガ―よ!リョウにそっくりな子が来たのっ!」
「ドッペルゲンガー!?」
日常生活で滅多に耳にしない言葉に、レオンは思わず聞き返した。
「しかも僕にそっくりなの?」
リョウはびっくりはしたものの、冷静さを保っていた。
「でもさぁ、世の中広いんだから似たような人もいるんじゃない?」
「だってぇ…すっごい似てたんだもん……」
リョウが淡々と言うと、さっきの少女が頬を膨らませて反論した。
「お前らなぁ……」
その時、1人静かに読書をしていた年長の少年が呆れたように口を開いた。
「さっきの子、女の子だったろーが……」
「女の子……?」
少年の言葉にレオンが聞き返した時、広間の奥からこの施設を管理しているヒロコが顔を覗かせた。
「あらおかえり。ちょうどよかった。あなたにお客さんよ、リョウ。こっちにいらっしゃい」
ヒロコはリョウに向かって手招きした。
「あ、はい…」
リョウは返事をすると、レオンと顔を見合わせた。レオンも訳がわからないというように肩を竦めた。リョウとレオンは不安そうにこちらを見つめる子供達を残し、広間の奥の応接室へと向かった。

応接間のドアを開けると、ソファに1人の女の子がちょこんと座っていた。こちらを見たその少女は、みんながドッペルゲンガ―と騒ぐのも無理がないと思えるほど、リョウにそっくりだった。驚いて固まってるリョウとレオンに、少女はにこりと笑った。
「初めまして。……本当はリョウとは初めてじゃないんだけどね」
「え……君は……誰、なの?」
リョウは驚きで頭が混乱する中、何とか言葉を搾り出した。
「あたしはリン。梨原凜(ナシハラリン)だよ。それでね……リョウ、あなたの双子の妹だよ」
リョウを真っすぐに見つめ、少女…リンは笑顔で答えた。
「「ええええええええええええ!?」」
リョウもレオンも、外で聞き耳を立てていた他の子達も叫んでいた。リンはその叫び声に驚き、キョトンとした表情を浮かべていた。唯一動じなかったのはヒロコと、再び読書に戻っていた少年だけだった。
「そんなの初耳だよ?リョウ!」
レオンはリョウを見つめた。
「そんなの僕だって初めて知ったってば……」
リョウは勢いよく首を横に振った。どうやら一番困惑しているのはリョウのようである。そんなリョウを、リンはじーっと見つめていた。
「本当に何も知らないの?」
「え?」
リンの問いかけに、リョウは再びリンを見た。
「えーと……お母さんの事とかお父さんの事とか、どれくらい知ってる?」
リンは今度は少し遠慮がちに尋ねた。
「……お母さんが事故で死んじゃって、その時その場にいたヒロコさんが引き取ってくれたんだって聞いた。でもお父さんの事は何も……それに、双子の妹がいるなんて事も全然知らなかった」
リョウは困惑したまま答えた。
「………そっか」
そう言うとリンは俯き、黙り込んだ。しばらく何かを考え込むような仕草を見せ、そして顔を上げると、リョウの顔を真っ直ぐに見据えた。
「あたしが知ってる真実を、リョウに教えてあげる。でも、その前に……」
リンはちらとドアの方へと視線を走らせた。レオンはその視線に気づき、すぐにその意味を悟った。
「……他の人に聞かれたくないんだ?」
「うーん……結構深刻な話だから……あなたなら構わないんだけどね?」
リンのその言葉に、レオンは少し驚いた。
「え、俺はいいの?」
「うん、なんか安心できるから」
リンはこくりと頷いた。
「はいはい。3人以外はパーティの準備してもらうからね。戻って戻って」
ヒロコはパンパンと手を叩き、食い入るようにリンを見つめている子供達を追いやった。

「ええー」
「まじかよー」
「つまんないのぉ……」
子供たちは口々に文句をいいながらも、渋々とその場を離れた。そして、誰もいなくなったそのドアを、レオンはパタンと閉めた。
「これでいい?」
「うん。ありがとう」
レオンの言葉に、リンはにっこりと笑って言った。
「それで、真実って?」
リョウはリンの向かい側のソファーに腰を下ろした。その隣にレオンが座った。
「……お母さんはね、本当は事故で死んだんじゃなくて、殺されちゃったんだって」
リンはゆっくりと、自分が知る真実を語り始めた。


今から13年前、テニス業界では知らない者はいないというほど有名であったリンとリョウの母親、梨原麗奈(ナシハラレイナ)は、16歳になって間もなく、ある男に目をつけられていた。突然誘拐され監禁された彼女は、いつの間にか妊娠させられていた。その男はレイナを愛してたわけではなく、ただ単に出来のいい子供をつくろうとしていただけであり、その時最も有名であったレイナをターゲットにしたのだった。男はレイナに刃物を突き付け、逃げたら殺す、自分の存在を人に喋ったら殺す、と脅していた。
しかしレイナは、病院などで隙を見て自分の姉に連絡を取っていた。監禁された事も、妊娠した事も、相手が殺人鬼である事も全て話していた。そしてそれを誰にも話さないようにと固く口止めしていた。姉はレイナの身を案じ、それを守っていた。
ある時レイナは、検診に行って、おなかの子供が双子の男女だという事を知り、男に女の子と男の子のどちらが欲しいのかと尋ねた。男は、欲しいのは男のみでもし女だったら構わず殺す、と言い放った。男がその子供を殺人鬼に仕立てあげようとしていた事を知り、恐ろしくなったレイナはお腹の子が双子の男女だと言う事を黙っていた。
間もなく出産となり、レイナは病院に入院した。男はその時ちょうど外国へと飛び立っており、しばらくレイナの傍を離れていた。その間に2人は生まれ、レイナは男の子に陵、女の子に凛という名前を付けた。そしてレイナは付き添っていた姉に、リンを託し、自分はリョウを育てながら元の監禁生活に戻された。
レイナはしばらく男の下でリョウを育てていたが、自分の子供を殺人鬼にされる事に耐え切れなくなり、隙を見てリョウを連れて逃げ出した。しかし殺人鬼から逃れられる筈はなく、レイナは無惨に殺されてしまったた。姉はニュースでその事を知り、警察に自分の知るありのままを話した。警察に追われる羽目になった男は外国に逃げ出した。一方レイナが殺される場面に遭遇したのがヒロコであり、レイナはリョウを彼女に託し、そして息絶えた。そうしてリョウはヒロコの下、リンはレイナの姉の下で育てられることになった。


ここまでを一気に話し、リンは力なく笑った。
「これがおばさん……お母さんのお姉さんが私に教えてくれた真実。リョウという双子の兄がここの施設にいることも、ちゃんと話してくれた。おばさんとヒロコさんはお母さんのお葬式の時に会ったことがあるんだって」
リョウはずっと黙り込んでいた。自分は今までこんな大変なことを知らずに生きていた。お母さんが殺されていたなんて、しかも殺したのが自分の父にあたる人であったなんて信じられなかった。しかしリンの言葉は絶対の真実だという事はよくわかっていた。
「じゃあなんで父親が殺人鬼だって事とか双子の妹がいるって事とかをリョウは知らなかったのさ?」
黙っているリョウに代わりレオンが尋ねた。
「あたしもずっとリョウの事だけしか知らなかった……おばさんはお母さんを殺したのがお父さんだって事、誰にも……ヒロコさんにも言ってなかった。リョウの父親が殺人鬼だと知ったらリョウの事追い出しちゃうかもって思ったのかも」
「……お母さんとの約束をなんとしても守りたかったんじゃないかな。きっとそれがお母さんの遺言だったんだよ」
リンが答えると、リョウがやっと口を開いた。
「ところでさ、リンはその話、いつ知ったの?」
「……おばさんが病気で亡くなる前に、あたしに手紙を書いてくれていたから……」
リョウの問いかけに、リンの顔が曇った。
「え……?」
リョウは耳を疑った。リンを育てていたその人まで亡くなったと言うことは、リンは今一人ぼっちであるということだ。
「ここまで一人で来たの!?電車の乗り継ぎとかお金のこととか大丈夫だった?」
暗い雰囲気になりかけたので、レオンは違う観点からのツッコミを入れた。そんなレオンに、リンもリョウも吹き出した。
「あはは。お金はね、その手紙と一緒にお母さんの通帳が入っていてね、それのお金なんだよ。その通帳にはね、お母さんがテニスの大会で貰った賞金とかが入っていて、手紙にもあたしとリョウのための貯金だって書いてあったの。おばさんもすっごい大金が入ってるの知ってるのに全然使ってなかったみたい」
リンの顔が明るくなった事ににほっとして、レオンは聞いてみる事にした。
「大金ってどれくらい?」
するとリンは、鞄から通帳を取り出し、開いて2人に見せた。
「このくらいっ」
通帳に書かれていた金額は、2人が見たことのない桁の額であった。
「うわわ、ゼロ多すぎ!」
「こんなに!?……お母さんってホントに天才だったんだね」
驚いた2人は口々に叫んだ。リンも苦笑いであった。
「あたしも最初見たときびっくりしちゃった。しばらく声でなかったもん……」
「そういえばどうしてここの施設の場所が分かったの?それもおばさんから?」
やっと立ち直ったレオンがリンに尋ねた。
「うん。手紙の中にこの施設の名前とか住所とか、電車の乗換えとかもいろいろ細かく書いてくれてたから」
手紙について話すリンは悲しい顔をしなかった。しかし、2人にはリンがおばさんを亡くした悲しさをこらえている事がなんとなく伝わっていた。次に立ち直ったリョウは、自分の中の1番の疑問を口にした。
「ねえリン、どうして僕が双子の兄だと分かるの?僕には未だに実感がわかないよ。それにその……梨原麗奈っていう人がお母さんだと言う事も……」
口ごもるリョウにリンはにっこりと笑って言った。
「ドッペルゲンガーじゃないのにこんなに似ている他人っていないと思うよ?」
――――――さっきの話、ちゃんと聞こえてたんだ―――――
レオンは心の中で苦笑した。しかし、まだ納得がいかない様子のリョウは反論しようとした。
「だけど……」
リンはそんなリョウにますますにっこりとした。
「じゃあさ、怪我をしたわけじゃないのに、腕とか足とか痛くなった事ってない?」
「うーん……たまにある、かな」
リョウは質問の意図が飲み込めないままに答えた。
「えーっと……最近あったでしょ、右膝が痛くなった事……一週間ぐらい前かな?」
リンは考えながら尋ねた。
「あ、あった……急に右膝が…でも、どうして?」
リョウには思い当たる事があり、目を丸くして言った。するとリンは自分の右膝を見せた。そこには治りかけのすり傷の跡があった。
「それはあたしが一週間前に転んですりむいたから。多分双子のシンクロ現象だと思う。それと、半年くらい前に手首に怪我したでしょ?あたしもしばらく手首が痛かったんだ」
「………」
確かに半年前、リョウは手首を捻った。リョウはそれでやっと目の前に座る少女が自分の双子の妹だという事を認めた。
「それで、梨原麗奈と親子って事は?」
黙って話を聞いていたレオンは、もう一つの疑問点を口にした。
「ああ、それならリョウが証拠を持ってるんだよ」
リンはまた鞄を漁り、一枚の写真を取り出した。
「ほら、これがお母さんで、お母さんが持っているこのテニスラケット……特注品だから世界に1個しかないんだって。リョウはこれ使ってたでしょ?リョウが出てるテニスの大会を、いつもおばさんと2人でずっと見てたんだけど、インタビューの時にお母さんの形見だって、リョウはそう言ってたよね?」
リンの言葉を聞きながら、リョウは写真の中で笑う自分の大好きなテニスプレイヤーの手に握られている、よく見覚えのあるラケットをまじまじと見つめた。
「このラケット、確かに僕のだ……。部屋にあるから取って来る」
リョウはそう言い残し、勢いよく部屋を飛び出していった。
後に残されたレオンもまた、その写真をまじまじと見つめた。自分達とあまり歳が離れていないであろうその人は、レオンにも見覚えがあった。
「この人……リョウのお母さんだったんだね。リョウがさ、いろんなテニスプレイヤーの写真とか情報集めてて、この人の事も調べてた。見た事あるし、確かリョウが1番好きなテニスプレイヤーだった気がする」
「そうなの?まさかそれがお母さんだったなんて、リョウは相当驚いただろうね」
レオンの言葉に、リンは目をぱちぱちさせて答えた。そして首を傾げながらじっとレオンを見つめ、今度はリンが質問した。
「あのね、あたしも聞きたい事があるんだ。……あなたは猫か何かなの?なんとなく普通の人間じゃない気がするんだけど……」
今度はレオンがきょとんとした表情を浮かべた。
「どうして?この耳としっぽの事?」
「猫って判断したのはそこだけど……何となく雰囲気が人間よりは動物に近いかなって」

野山を駆け巡り野生生活を送ってきたリンは、どうやら人並み以上に感覚が優れているようである。
「……すごいね、当たりだよ。勘が鋭いんだな。俺は元々はただの野良猫だったんだ。それをなんか魔法使いが人型にしてくれたんだ。それで、路地裏で空腹で倒れている所をリョウが助けてくれて、それからこの施設に来たんだ。リョウと俺は今じゃ大親友なんだよ」
そう嬉しそうに話すレオンに、リンは目を輝かせた。
「大親友!いいなぁ……あたしは年の近い友達って全然いないから、親友って呼べる人がいないんだよね」
「そうなの?」
「うん。元々人口も少ない所だからなおさらね」
レオンの問いかけに頷くリンは、少し淋しそうに見えた。しかしそれも一瞬で、リンはすぐに何かを閃いたようであった。
「あ、そうだ!!……あのね、あたしと友達になってくれない……かな?」
リンの思いがけないお願いに少しびっくりしたものの、レオンはリンににっこりと笑いかけた。
「もちろんいいよ。それに、親友の妹なんだから、当たり前じゃん!」
その言葉に、リンは顔を輝かせて喜んだ。
「わぁ!ありがとう!!じゃあ、これからよろしくね!」
そう言うとリンは右手を差し出した。
「こちらこそ」
差し出された右手をしっかり握りしめ、レオンは答えた。ちょうどその時リョウが帰ってきた。
「おまたせ。あれ?握手なんかしてどうかしたの?」
「あのね、レオンが友達になってくれたの!!」
尋ねるリョウに、リンは嬉しそうに答えた。リョウはその笑顔を見ていると、何故か自分も嬉しさを感じた。
「よかったね、リン!それでさ……このラケットってホントにお母さんのなんだね?」

リョウがラケットを差し出すと、リンはそのラケットを手に取り、いろいろな角度から眺め始めた。そして、ふっと手を止め、ある1点を指差した。
「ほらココ。Reina Nashihara…お母さんの名前が彫ってある」
リョウとレオンがリンの指し示す場所を見つめると、確かに梨原麗奈の名前があった。

「あっ、ホントだ……」
レオンはそう言ってラケットを手に取り、眺めた。
「気づかなかった…」
リョウもそれを眺めながら、ぽつりと呟いた。自分の最も尊敬するテニスプレイヤーが、自分の母親だった。何を探しても15歳までの記録しか残っておらず、彼女に関する1番新しい記事は、16歳の時に何者かによって殺されたというものだった。まだ若いその年で殺人鬼に捕まり、とても辛い一年を送っていたのかと思うと、リョウの心は痛んだ。
「そういえばさ、その…言いにくいんだけど、殺した男って……もう捕まってるの?」

レオンが思い出したように尋ねると、リンは首を横に振った。
「…………捕まってないよ。海外をあちこち逃げ回ってるんじゃないかな……」
俯き、しばらく黙っていた後、リンは悲しそうに口を開いた。
「………ごめん」
レオンは謝り、すぐに口を閉ざした。レイナを死に追いやったその人は、今もどこかで悠々と生きているのだ。それから3人は黙り込んだまま、可憐に笑うレイナの写真を見つめていた。
「……ねえリン。これからどうするの?」
沈黙を破り、最初に口を開いたのはリョウだった。
「え?どうするって何が?」
突然の質問にリンは戸惑い、首を傾げた。
「家に帰るの?それとも……」
「ああ!あのね、あたしここで暮らすつもりで来たんだよ。ヒロコさんもすんなりいいよって言ってくれたし……多分前におばさんに出してきて、って頼まれた手紙、ヒロコさん宛てだったんだね」
リョウの言葉の途中で彼の言いたい事を悟ったリンは答えた。
「そっか…じゃあホントによろしくなんだな!」
レオンはリンに笑顔を向けた。
「うん!2人ともよろしくね!」
「もちろんだよ。それじゃあ、僕からもよろしくね、リン」
明るく答えたリンに、リョウも笑いかけた。そしてリョウとリンはしっかりと握手をした。その時リョウは、うっすらと懐かしさを感じた。
「レオン~ちょっとこっちきてくれる?」
ドアの向こうからヒロコがレオンを呼んだ。
「はいは~い、今行く!…じゃあ行ってくる」
呼ばれたレオンは2人にそう言い残し、部屋を出て行った。後に残った2人は、今まで自分が経験してきたことなどを、夢中で話しはじめた。

レオンが広間に戻ると、もうパーティの準備が整っていた。
「あれ、もう終わってたんだ。じゃあなんで俺を呼んだの?」
レオンが首を傾げると、先程ドッペルゲンガーだと騒いでいた女の子がレオンにクラッカーを手渡した。
「はいクラッカー。リョウとリンちゃんが入ってきたらひっぱってね。今日のパーティはね、リンちゃんの歓迎パーティも兼ねる事にしたのよ」
どうやらリョウによく似た少女=ドッペルゲンガー説は完璧になくなったらしい。
「オッケーまかせろ!」
レオンは元気に敬礼してみせた。
「それじゃあ2人を呼んでくるわね」
そう言ってヒロコは応接室に向かい、中で夢中になって話し込むリンとリョウを呼んだ。

「2人とも、こっちにきて」
「あ、はーい」
「なんだろう?」
顔を見合わせつつ、2人はヒロコの後について行った。
「「地区大会優勝おめでとう、リョウ!!そして、ようこそリンちゃん!!!」」
広間に入った瞬間、クラッカーの破裂する音とともに歓声が聞こえた。
「わぁ、すごーい!」
パーティーというものを生まれて初めて経験するリンは、目を輝かせて喜んだ。そんなリンの様子を、リョウは嬉しそうに見つめていた。

それはパーティの始まりであり、リンとリョウとレオンの3人の物語のスタートラインでもあった。この日の出来事は、3人の心に深く刻みつけられた。


END


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