雨き声(中編)
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「って、言う事なんだけど。姉貴は行くか?」
今日はプレイヤーの弟が来ていた。
「いつ?」
「この日曜日」
あー、とプレイヤーは考える仕草をする。弟が誘って来たのは、犬猫の譲渡会だ。
それ以外にも色々催しがあったりするらしい。
「んー、じゃあ行くわ」
「譲渡会ってなんですか?」
ソーンがプレイヤーに問う。
「捨てられたり飼えなくなったりしたペットの新しい飼い主さんを探すんだよ。
場内はペット同伴可だから、結構人集まるらしい」
「犬や猫に会えるんですか?」
「うちの2匹も行くし、他の犬仲間も結構寄るらしいんだ」
「僕も行きたいです!」
ソーンが表情を輝かせる。
「じゃあ一緒に行こう」
「俺も!」
アタリも手を挙げる。
「他の人は行く?」
「……そうですね、私もご一緒してもいいですか?」
「僕は遠慮しておくよ、公安に目を付けられるわけにも行かない」
「まあ、零夜はそうだよね。じゃあソーンとアタリくんとアダムで行く?」
「俺っちもー」
13も手を挙げる。そして次に全員の視線が向かうのはマルコスだ。
「僕は……」
「まあ、マルコスはニートだもんな! 家で寝てたいんだろ?」
13が揚げ足を取るように言った。
「揚げ足とるなよ」
プレイヤーが言う。
「……なんかさ、俺の時だけ当たり冷たくねぇか?」
「折角だし、マルコスも行こうぜ!」
アタリが言った。
「じゃあ……」
「決まりだな!」
「待って、まだ何も言ってな……」
勝手に話が進んで行く。出発時間やその後の日程がどんどん決まって行く。
「じゃあ、朝8時出発で!」
「あー早起きだあ……。早めに寝なきゃ……」
プレイヤーが言ったのだった。
譲渡会が2日後に迫った時だ。プレイヤーは若干日程に変更があったので、
それを伝えようとマルコスの部屋に向かう。ノックするとやや間を開けて返事が聞こえた。
「失礼しまーす……ごめん寝てた?」
ううん、とマルコスは言った。
「譲渡会の日程なんだけど……」
「あぁ」
その事ね、といいながら、彼はスマホに目を落とす。
良くその長い袖でスマホが操作できるよな、と思うが、
もしかすると若干指だけ出して操作しているのかもしれないと考え、
マルコスの袖あたりに目線を持って行った時だ。
(……!)
袖のあたり、一瞬ただの汚れかと思ったのだが。
「マルコス、大丈夫?」
「なにが?」
「袖、血がついてる事無い?」
「っ……」
ああ、どうしてこういう時に限って自分は“これ”に気が付いてしまうんだろう。
逆剥けかと一瞬思ったが、マルコスの空気が変わった事に気付いてしまった。
そして彼はそのまま手首を隠す仕草をする。が言い訳しようにもその色は血で間違いないだろう。
彼は誤魔化せないと判断したらしいが、その件には触れない。
(うう……ごめんねマルコス……)
「……また、切っちゃったんだね」
「ぇ……」
マルコスは僅かに驚いた顔をするがすぐに言い直した。
「譲渡会の日程変更の話をしに来たんでしょ」
「うん。……そうなんだけど、今回のはアタリ君が全部勝手に決めちゃったから。
……用事があったり気分が乗らないようなら無理に外出する必要ないっていうのを言いに来た」
「そうなんだ」
「だから、参加しないならそれで。lineでもなんでもいいから教えてくれると助かる。
で、あと出発が8時から8時半になったから、もし行くならそれでお願いします」
「分かったよ」
マルコスはプレイヤーを見上げて頷いたのだった。
その後すぐにプレイヤーはマルコスの部屋を出て。すぐに扉の横に凭れた。
手に違和感があって見てみると震えているようだ。
(やば……超震えるじゃん。自分……)
動悸がして、プレイヤーは自分の胸を押さえる。
(今、の……大丈夫だったかな……)
妙な部分に触れてしまっていないだろうか、
一応自傷行為を行っている相手に対する対応の仕方は調べていたのだが。
まさかこんなに早くその場面に出くわすと思わなかった。
「はーっ……ふー……っ」
(怖、い……)
動揺しすぎる自分に呆れて苦笑する。
「わたしのせいだ」「わたしが悪い」「そんな自分は死ねばいい」
そんなマイナスの方向に意識が引っ張られるのを首を振って振り払いながら、
そのまま落ち着くのを待つ。
(違う……、わたしの、せいじゃない……。わたしは、悪くない、大丈夫……)
「うっ……」
はらはらと今一つ分からない涙がこぼれて、プレイヤーはもう一度呆れて笑う。
「はは……びびりすぎだろ」
自分は一体何に怯えているのやら。
その時、すぐ隣で扉が開いた。
「プレイヤー、さん……?」
「……!?」
驚愕したようなマルコスの顔。
(わお……)
どうやら来てしまったようだ、プレイヤーはしょうがなくマルコスに対応する。
「なに?」
「なに? じゃないよ、顔色悪っ……。大丈夫なの?」
「大丈夫だよ」
むしろ気を遣われる始末だ。
「真っ青じゃんか、どこからどう見ても大丈夫に見えないよ」
「頼むから、わたしの心配する暇があれば自分の心配してよ……」
どうしてそんな自分の事に対して平然としているのかプレイヤーには不思議でたまらない。
が、それについてプレイヤーはこれ以上の事は何も言えない。
見られた、そう思って逃げることも考えたが。今逃げてはいけないんだろうな、
と言う思考が働き、自分の体をなんとかその場に縛り付ける。
「……ちょっと、びっくりしただけ。……自分の弱さと向き合うのはやっぱり怖いね」
「…………」
プレイヤーは言いながら少し笑って見せる。
「プレイヤー、さん……」
「はい?」
「……なんでもないよ」
そう、とだけプレイヤーは答えたのだった。
「取あえず、また気が向いたら連絡お願いします」