Afterimage d'automne(中編)
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次の日。
(頭、痛ぇ……)
どうやら風邪を引いたらしい。
「ちっ……」
自業自得だ。手の甲を額に持って行ってため息をつく。
(もー最悪……)
プレイヤーには風邪ひかないとか、嘘をついてしまったため。どうにかばれない様に振舞うしかない。
とりあえずもう少し寝ようと、目を閉じたのだった。
次に目を開けると、あれから2時間近くは経っていた。
体はだるくて重く、どうにか体を起こすが重い頭痛がする。
(悪化してんなぁ……)
13はもたもた着替えるととりあえず部屋を出る。
これ以上悪化しないように水分や食事は摂らなくてはいけない。時計を見るともう11時だ。
共用スペースに向かうと、冷蔵庫の前で立っていたプレイヤーがこっちに気付く。
「あ、おはよー。遅かったね」
「おーぅ」
午前中から、テレビの前でマルコスやらソーンやらとゲームをするアタリを見ながら乾物入の方へ向かった。
(食い物……)
「あっ、ごめんサティ。昨日朝ごはん買い忘れてて。サティ分がありません……」
「……」
今日はついていないようだ。昨日もそうだったが。
「早めにどっかで昼ご飯食べよう、って話になってるんだけど……行く?」
(まじかよ……)
「……いいわ、腹減ってねぇし」
「いいの?」
「いい」
「じゃあついでに何か買ってこようか? 欲しいものあるなら言ってよ」
「別に、適当でいいぜ」
「……うん、分かった」
最悪だ。とりあえず顔でも洗ってこようと洗面台のある風呂場の方へ向かうが、歩くたびに頭痛がする。
「きっつ……」
冷たい水で顔を洗って、洗面台に手をつく。思ったより辛くて大きなため息をついた。
自業自得以外の何物でもなく、情けない。本当にもう、座り込みたい気分だが、
せめて自分の部屋に戻ってからにしなくては。さらにもう一度ため息をついた時だった。
「サティ……?」
「!」
背中からプレイヤーの声が聞こえて、ぎく、と肩を跳ねさせた。
「……、……なんだよ、顔洗いに来たのか?」
「いや、なんか……遅いなぁって」
「気のせいだろ、いつもと変わんねぇぜ」
「……ね、もしかして調子悪い……?」
プレイヤーが控え目に問うてきた。
「はぁ? 俺はいたっていつも通りだぞ」
両手を肩の高さまで上げて、いつも通りである事をどうにか伝えようとする。
「……? でも、いつもよりテンション低くない?」
「寝起きだからな」
プレイヤーはじっとこちらを見る。
(すげぇ見られてる……)
「ふぅん……」
「なんだよ、気持ち悪ぃな。俺部屋戻るかんな」
「うん、じゃあわたしたち昼ご飯食べてくるね」
「行ってこい」
プレイヤーに背中を向けて洗面台を離れ、部屋に戻るべく廊下を歩く。
(頭いってぇ……)
軽く頭を押さえながら部屋に戻ったのだった。とにかく休まなくては。
こんこん、と扉をノックする音が聞こえた。横になっていた13は目を開ける。
時計を見るがあれからまだ30分くらいしか経っていない。
(なんなんだよ、もう……)
ちったぁ休ませろよ、と思いながら13は返事をした。
「サティ、入るよ」
プレイヤーだ、ベッドに腰かける状態で扉の方を見ると、
部屋に入ってきたプレイヤーはエコバックを手に提げていた。
「お前いつからそんな食うの早くなったんだ?」
プレイヤーは食べるのが遅い、皆で食べていても彼女が食べ終わるのは殆ど一番最後だ。
「だって食べてないし」
「は?」
「はい」
プレイヤーはエコバックを渡してくる。
(え……)
その中にはスポーツドリンクとおにぎり、サンドウィッチ、後はりんごが入っていた。完全に病人セットだ。
(これは……バレてんなぁ……)
プレイヤーは何も言わないが、この感じだと、おそらくばれている
「好きなの選んで、残ったのはわたしが食べるから」
「後の奴らは?」
「今頃フードコートで好きなもの食べてると思う」
「…………」
という事は、プレイヤーは13の食事だけ買って、すぐに帰ってきたという事か。
「欲しくないなら、りんごだけでも切ってこようか?」
「……いや、いい」
13はサンドウィッチを受け取る。
「……じゃあ、りんごは切って冷蔵庫入れとくから好きに食べて?
もしかしたら他の子に食べられるかもだけど」
「…………」
「サティ?」
「なんでもねぇよ」
そう、とプレイヤーは短く言った。
「じゃ、お休みー」
プレイヤーは背中を向けて手を上げると、部屋を出て行った。
「……んとに、かわいくねぇな。アイツ」
大人しく自分に騙されていればいいものを。
13は軽く食事をとると、もう一度ベッドに入るのだった。
しかしプレイヤーはもう1時間ごとくらいに13の様子を見に来る。
「いいから、寝かせろよっ……。鬱陶しい……!」
「ご、ごめん……気になって……」
多少気の利く奴かと思ったが、やはりそうでもないようだ。
「ほっといてくれ」
「…………」
さっさと出て行ってくれないだろうか、と思う。
「……昨日は、ごめんなさい……」
「はあ? 何の話だよ」
「無理矢理自腹で着き合わせた上に、わたしが帰り傘買うのケチったから……。申し訳、無くって……」
プレイヤーはやや俯いて言った。
「…………」
今、この体調では相手にするのもだるいのに。プレイヤーは変わらず自分勝手だ。
「もう、やらないようにする……」
(……やめろよ)
やらないようにする、とかいう問題でもないのに。確かに昨日は面倒な事が9割だったが、
それ以上にプレイヤーが楽しそうだった。それをやめる必要はないと思うのだ。
好き勝手に行動して、好き勝手に話して、プレイヤーが13にだけ見せる姿。
あんな風に楽しそうにされると、多少付き合ってやってもいいかもしれない、と思ってしまうのだ。
いつも、他のメンバーと居るときの。不自然に落ち着いていて、不自然に大人びている姿を見ているより、
信号機に文句を言ったり、可愛くない事ばかり言ったり。
よっぽど昨日のような姿でいる方が見ていて面白いのに。
(お前の“本当”はこっちなんだろ)
それならそれでいいと思うのだ。ただ、相手にするのは何倍もめんどくさいが。
「……毎回はめんどくせぇからな」
「たまにはいい?」
(こいつ食いつき早ぇ……)
「そっちの方が楽なんだろ?」
「……」
「たまには相手してやるよ。おら、もういいだろさっさと出て行け。部屋に入ってくんな」
「……サティ」
「なんだよ」
「ありがとね」
「……。……俺も悪かった」
プレイヤーは、え、と首をかしげる。
「嘘ついた」
「嘘くらいついてもいいよ」
プレイヤーは何でもないように答えた。優しく聞こえるが、同時に残酷な言葉だ。
「わたし別に困ってないし。それで一方的に困った状態になったのはそっちだし」
まぎれもない事実である。
「ただ……毎回気付けるとは限らないよ」
「気付いていらねぇよ」
「じゃあ……次から気づいたらその都度言ってあげるね」
「ケッ、嫌な奴」
その3時間後。
「……だから、入ってくんなっつったろ……っ」
「心配で……」
「鬱陶しいわ! 帰れ!」
end.
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