少し気が小さく、リリカちゃんが苦手なプレイヤーです
きみのいちばん(中編)
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「お茶! ライステCポータル登れた!」
「おー、ようやく姉貴もマルコスらしい動き出来たか。どうやって勝った?」
「ラスト30秒で上段登って、リリカ倒した。それにダメカの秒数も読めたよ!」
「やるじゃん、羽乃……!」
バトルステージから戻ると、プレイヤーの弟とアタリが迎えてくれた。
プレイヤーは嬉しそうに報告しに行く。それをなんとなく眺めたあと、マルコスはリリカの姿を探す。
さっき思い切りキルしてしまったから。
「ご、ごめんなさい……リリカのせいで……」
「気にしないでください、リリカさん。すぐに助けに行けなった私にも責任があります」
少し離れたところで、泣いてしまったリリカをアダムが励ましているのが見えた。これはいかなければ。
とリリカの方へ向かおうとしたところ、先にプレイヤーの弟がリリカの元へ向かう、流石にリリカ推しだ。
(弟さん、早い……!)
負けじとマルコスもリリカの方へ向かう。
「仕方ねぇよ、上段上がれるの知らなかったんだよな?」
プレイヤーの弟が穏やかな声で言った。
「ごめんなさい……」
リリカのデキレを見ると、マルコスより低くて。
急に上段に上ってきた鬼マルコスを見た時は相当怖かっただろうに。そう思うと心がいたい。
「な、泣かないでリリカちゃん。僕の方がごめんね……! 怖かったよね」
「段差のギリギリでいるか。ポータルの後ろの方にいればマルコスの枝でも登れないんだぜ?
次から気を付ければ大丈夫だって!」
「ずるいよアタリくん! それは僕のセリフ……!」
他人の攻略方法をそう簡単に伝えないで欲しい。まあ、相手がリリカだから許すが。
「……!」
リリカやプレイヤーの弟と話していたアタリがふと、何かに気付いたように顔を上げる。
「羽乃……?」
「どうかした?」
「いや、羽乃がいないなって思って」
言われて、そういえば、と周りを見回すとプレイヤーの姿がなかった。
「先帰っちゃったのか?」
「……」
マルコスはみんながいた場所を後にし、プレイヤーの姿を探す。リリカの所に居たいのももちろんだが、
一人で出て行ったプレイヤーも少し気になる。行く義理などない……筈なのだが。
……頑張ってるのに、人気ない、とか見てくれないとか。絶対嘘だよ。マルコスとかお茶が良い例だよね
彼女が言っていたのはこの事だったのか、と妙に納得の思いだった。
「もう……面倒だな、あの人」
マルコスは頭を掻いた。ただ、今回はマルコスから見ても頑張っていたように見えたので。
多少はフォローを入れてやろうと思い立ったのだ。
「プレイヤーさん」
「っ!」
びくっ、と肩を跳ねさせるのが分かった。プレイヤーの後ろに着くと、
彼女は振り向き僅かに驚いた顔をする。
「マルコス……?」
「お疲れ様」
「……うん、今日はありがとう」
プレイヤーはすぐに視線を廊下の先に向け、マルコスの方を見ようとしない。
「……分かりやすいでしょ?」
プレイヤーが仕方なさそうに言った。
「そうだね」
「マルコスだって、リリカちゃんの所に居て良かったんだよ。わたしに気を遣わなくても。
ただでさえリリカちゃんに会う機会が少ないのに」
プレイヤーがマルコスの方を見る事は、ない。
「君は分かりやすすぎだよ、気付いて欲しい時にわざと距離をとろうとする」
「……いいよ、気にしなくても、放っておいてくれれば。わたしが勘違いするといけないし」
「どういう意味?」
「リリカちゃんより、わたしを気にかけてくれたって思っちゃう。
マルコスにとってはリリカちゃんが一番なんだから、あの子と一緒に居ればいいと思う」
「……拗ねてるの?」
「…………」
「完全に拗ねてるじゃん」
「拗ねてるけど、いいの。マルコスにそこまでは求めないよ」
「求めないって、何を」
「そこまでの気遣い」
「あんな様子で一人で出て言って、よくそんなこと言うよね」
わざわざ見に来てやったのに、その反応がこれか。
少し勘に触って、強く言い返すと。プレイヤーがこちらに向いた。
「仕方ないじゃん……! わたしはリリカちゃんみたいにはなれないからね」
プレイヤーが早口で、強い声で言った。
「小さくて、かわいくて、頑張り屋で。素直で、明るくて……何を言われてもずっとまっすぐで、
みんなのために頑張って……。わたしはリリカちゃんになれないから、
ここにマルコスがいるわけないんだよ」
「っ…………」
酷い言葉だ、と思った。
「いるわけないって……。じゃあ、君は。もし僕がオリジナルマルコスなら。僕を見てくれてたの……!?
僕はここに居るのに、どうして見えない振りをするの? ずっと僕を待っててくれたんじゃないの……!?」
どれくらいかに感じた激しい感情と言うものに、マルコスも思わず言い返す。
あの時のアタリの言葉は嘘だったのか、それともただの聞き間違いだったのか。
(ああ、そっか)
プレイヤーの言葉に裏切られた気持ちになったのは、あの時アタリの話が嬉しくて、信じていたからだ。
「もういいよ」
マルコスはプレイヤーに背中を向けようとするがその服をプレイヤーが掴んだ。
「待っ……」
「放してよ、僕はここに居るわけないんだもんね……!」
どうせ、自分はマルコスのニセモノで、プレイヤーが待っていたのは、“自分”ではなくて、
オリジナルマルコスだ。そんなこと最初から分かっていたのに、信じた自分がいけなかった。
「待ってよ、ごめん……! 今の、謝る、から……!」
「いい加減にしてよ、君のわがままについて行けない」
「ついてこなくてもいいから……! もう二度と」
「わけわかんな――」
プレイヤーが上から重ねるように早口で言った。
「わたしは、マルコスの……一番になりたかったの……! けどそんなのなれるわけないじゃん、
わたしの一番はマルコスだから。だから、マルコスは一番大切なコの所に行ったらいいんだよ。
中途半端に近寄ってこられると、期待しちゃうから……!」
「…………」
プレイヤーが涙を浮かべたまま言う、
マルコスはその信じられないプレイヤーの言葉を聞いて、あぜんとする。
「それに、わたしが一番好きなのは、オリジナルじゃなくて、君だから。
コンパスを始めた時からずっと待ってて、来てくれた時は本当に嬉しかったよ。
……わたしなんかの所に来てくれてありがとうね」
やがて彼女はゆっくりマルコスの服を離した。
(今の、は……)
殆ど告白されたようなものだが。
「……じゃあ、おやすみ」
彼女は離れると、背中を向けて自分の部屋のある方へ戻って行く。
(待ってよ)
マルコスはその背中に向かって手を伸ばす。昔感じていた冷たい感覚に無意識に心臓が鳴る。
待って、離れていかないで。
(僕、何か悪いことした?)
望まずに手に入れた才能、優秀過ぎた自分から離れていく人々の姿が彼女と重なった。
「羽乃、さん……っ」