少し気が小さく、リリカちゃんが苦手なプレイヤーです
きみのいちばん(中編)
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次の日。マルコスが水でも飲もうと台所のある部屋に入った時だ。
「あ、おはよ。マルコスくん」
「……うん」
先に来ていたプレイヤーが挨拶をしてきたので、返事はするが、マルコスはプレイヤーの方を見なかった。
用事を済ませてコップを台所の洗い場に置いて部屋を出ていこうとした時だ。
「よぉ、マルコス!」
「うわっ、ちょっと急に肩組まないでよ。危ないでしょ」
「ゲームしねぇ?」
「えぇ……、プレイヤーさんとすればいいじゃん」
「今日あいつ用事あってもう戻るんだってよ」
「一人でもできるでしょ」
「二人の方が面白いぜ? どうせ暇だろ?」
リリカをだしにして断ることもできるのだが、アタリがしつこく誘ってくるので、断るのが面倒くさく、
結局付き合ってやることにしたのだった。
「だから、無理だって! アタリくんに勝てるわけないじゃん」
「なんだよ、つまんねぇな。羽乃くらい食いついてこい」
「あの人と一緒にしないでよ」
「次、僕やります……!」
面白そうだ、という事でソーンも混ざっていて。今日用事もないらしいアダムも今は一緒だった。
昨日プレイヤーが持ってきていたおかしを拝借して、まるで放課後の友達の家のようだ。
ソーンもアタリに挑戦するが当然勝てる訳もなく。
「うう……また負けてしまいました……」
ソーンはもう一度アタリに挑戦する。
「ソーンがあれだけゲームに夢中になるのって意外だね」
「最初は俺も思いましたけど……でもまあ、この姿が普通なんでしょうね。
温室に閉じ込められて、大人たちと会話しているより」
アダムはどこか感慨深そうに言った。たしかに、そうかもしれないな、
とマルコスはゲームに夢中になっているソーンとアタリを見た。
「どうですか? プレイヤー殿との試合」
「え、あー……。大体想像してる通りだよ。あの人アタッカースゴイ苦手みたい」
ですよね、とアダムは苦笑する。
「あの人、アダムと長いの?」
「まさか、使用率を見ていただければ大体分かると思いますよ」
使用率? と思ってマルコスはプレイヤーの使用率を確認する。
(あ……)
マルコスのプレイヤーの使用率、上からアタリ、ソーン、マルコスとアダムがほぼ同率。
「アダムが来たの最近?」
「いいえ、私が来たのはソーンのすぐ後です。4枚目のヒーローチケットですね」
という事は、もう半年以上経っていることになる。けどマルコスが来たのはほんの2か月くらい前だ。
思ったよりプレイヤーとの同行回数が増えていて驚く。
「マルコスと羽乃ってさぁ、仲悪ぃの?」
ふと、ソーンとの試合が終わっていたアタリがソファの下から見上げてきた。
「え……?」
「挨拶しねぇし、羽乃笑わないし。お前もだけど」
「喧嘩ですか?」
ソーンが心配そうにアタリと同じ感じでソファの下から見上げながら言った。
「け、喧嘩するほどの仲じゃない、よ……」
「あんなに一緒に試合に出てるのにか?」
「そういえば羽乃さんとマルコスさんが話してるの見ないですよね」
「……え、そんな風に見えてる?」
いや、確かにプレイヤーと居るときはいつも気まずいが。ソファの下で少年二人が頷いた。
「あの人、って呼んでるし」
「君たちと一緒にしないでほしいなぁ」
ふむ、とアタリが顎に手を持っていった。
「どうして羽乃の前でその表情できないかな……」
「どういう意味……?」
「その、マルコスって感じの表情とか空気とか? いつもぎくしゃくしてて変な感じだぜ」
「いや、あのだから。君たちみたい一緒にいた時間が長い人と一緒にしないでよ」
まだまともに会うようになって1か月程度だ。
「羽乃さん、とてもいい人ですよ」
ソーンが言った。
「初めて会っても初めてな感じあんまりしないタイプの奴だよな」
うんうん、とソーンが頷いた
「それは君たちだからでしょ……」
うーん、とアタリが考える仕草をした。
「……お前ってさ、羽乃がマルコスに会いたくてコンパス始めたの知ってるか?」
「……えっ?」
あれ、聞いてなかったのか? とアタリが首をかしげる。表では平静を装うが、そこそこ驚きの事実だった。
「ずっとマルコスくん来ないかなって、言ってたんだぜ?
それにあいつがマルコスシーズンで必死でS1登ろうとしたのも、おまえに会うためだからな」
「え、うそ。そうなの?」
マルコスは初めてプレイヤーと出会った時の事を思い出す。
来てくれて、本当にありがとう。
その時の言葉の優しい響きに今ようやく気付く。初めて聞いた時はそうでもなかった、おどおどしていて、
すごく控えめにこちらを見ていて。いい感じを受けなかったのは確かだ。正直嫌なのかな、と思った。
今のアタリの話を聞くと、プレイヤーはもしかすると“驚いて反応できなかった”のかもしれない。
「お前さぁ、そんな嫌か?」
「何が」
「羽乃と一緒なの」
(……!)
「別に、嫌な、訳じゃ……」
「ならいいじゃん」
アタリはあっさり言ったのだった。
「ごめんマルコスくん……」
「もういいってば……」
ボッコボコにされていつも通りだ。
(痛い……)
試合前にマルコス使いのプレイヤーの弟から助言を受けて、いつもより頑張っていたプレイヤーだが、
おかあさん+ひめたるとか初心者には無理な話だし。HAで近づく前にやられるし、
そもそもプレイヤーのHAの命中率はまだ高いとは言えない、
命中したとしてもマルコスの体力調節ができないプレイヤーは
中途半端に逃げてしまって結局撃ちもらし、やられるような状況だ。
「またたくさん怪我させた……」
ごめん、とプレイヤーは謝罪を重ねる。プレイヤーはアタッカーが苦手だ、
試合中やその前後に手が震えるくらいには、確かにあれではカードの切りミスも増えてしまう。
試合の終了したプレイヤーたちが横を通り過ぎていく。
「野良マルコス絶滅しろって話だろ、リリカと来いよ」
(ッ……)
びく、と肩が震える。
「HA当てれない奴がマルコス使うなって」
さり気なく話しながら彼らは離れていくが。
(今、の……)
わざと聞こえるように言ったな、とマルコスは思った。
彼女ももちろん自分も結構頑張っているのに流石にちょっとムカついて、
何か言ってやろうかと一瞬思ったが。
「ごめんね、マルコスくん……。わたしの、せい……」
「……っ」
目の前でプレイヤーが僅かに俯いて言った。
「もっとしっかり、動ければよかった……んだけど。ごめんね……」
完全に俯いたプレイヤーの声はかすれていて、ああ、また泣いてしまったな。とマルコスは思った。
そもそもプレイヤーがマルコスと組んで楽しそうにしているところなんて見たことがあるかどうかも分からない。
(君は、それでいいの……?)
彼女が自分といる事に、むしろ罪悪感を感じてくる。
「もういいってば」
「ごめん……」
「だから――もう……」
マルコスはため息をついた。
「あのね、僕だってアタッカーなんだから怪我することもあればやられることもあるし、
さっきみたいに文句言われることもあるよ。
君がアタッカー苦手なのは十分わかってるし、ガンナー怖いのもよく分かる」
「……」
「だから……」
だから、なんなんだろう。いやその先に来る言葉なんてわかっているのだが。
「……僕をもっと頼ってよ。……僕だって、君がいないと戦えないんだから」
「……!」
プレイヤーが僅かに驚いた様子を見せた。
「……そ、そういえばそうだね」
ヒーローは一人では戦えない、一緒にプレイヤーがいて、それで初めて戦う事ができる。
何かにようやく気付いたようにプレイヤーは苦笑する。
「たしかに……そうだわ」
「僕、どうせニートだし、練習したければもっと呼んでくれていいよ。遠慮されると逆にやりにくいんだから……」
「頑張ります」
ぎこちない会話だった。
「あとさ」
「はい」
とプレイヤーは返事をする、まるで先生や上司に指示をされた時のような返事の仕方だ。
「あの、だから……遠慮されるとやりにくいって僕言ったよね」
「あ、ごめ……」
「ごめんは無しだよ」
プレイヤーは口を閉じた、このプレイヤーはとても扱いにくい。
まあ、それに関しては自分もきっと同じなのだろうが。
「ずっと気になってたんだけど、君に“くん”付けされると変な感じだからやめてよ」
「マルコス、さん……?」
はぁ、とマルコスは思わずため息をついた。
「マルコスでいいって言ってるの。君僕の話聞いてた?」
「き、聞いてた……つもりなんだけどな……」
彼女は苦笑した、なんたってこのプレイヤーはこんなに自信がないのだろう、
他のヒーローと居るときは特別そんな感じは受けないのに。一瞬、まるでリリカのようだ、と思った。
本人は頑張っているのだろうが、それが上手くいっていないようだ。
でも、前よりは話せるようになったかな、とマルコスは思うのだった。