少し気が小さく、リリカちゃんが苦手なプレイヤーです
きみのいちばん(中編)
お名前変更※推奨
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
次の日、朝食を取りに行こうと台所のある部屋に向かう。
大あくびをしながら部屋に入ると大きい窓から日が差し込んで明るかった。
(パンあったよね……)
昨日のパンの残っていた数を思い出しながら棚を見る。
「羽乃さんっ……!」
ソーンの声だった。その声はまっすぐプレイヤーに向けられていて、ソーンは今まさにマルコスと
同じように部屋に入ってきたプレイヤーに飛びついた。
「おはよ、ソーン」
「おはようございます! 今日ガンナーミッションですよね? 一緒に入りましょう。
それと、この間羽乃さんの持っていた楽譜も見たいです……!」
「いいよ」
分かりやすく喜ぶソーンの頭に誰かが手を置いた。
「ソーン、プレイヤー殿も忙しいんだ、あまり困らせるなよ。すいませんプレイヤー殿」
アダムだった。
「ううん、大丈夫。気にしないで」
プレイヤーは笑って首を振る。アダムは困っているが、ソーンは嬉しそうだし、
プレイヤーも気にしていないようだった。それを背中で聞きながら、マルコスは朝食の準備をする。
「よぉ、羽乃。元気かー」
アタリの声がした。
「アタリくん、おはよっ」
プレイヤーの明るい声だ。自分の時とはえらい違いだな、と思いながら、
アタリと話して楽しそうに笑うプレイヤーに少し目をやる。
元気ないかもしれないと思ってもいたが、本人はそうでもないらしい。
(僕と居るときにあんな顔しないな)
だから、何、という事も無いが。なんのためにプレイヤーが自分と一緒に居るのかよく分からない。
マルコスは部屋を後にしたのだった。部屋に戻る途中の廊下。
「マルコス君」
「!」
リリカの鈴の転がるような声がした。ただ、その声は自分に向けられたものではないようだった。
「今日は、本当にありがとう」
「そんな……! 僕は当たり前の事をしたまでだよ。リリカちゃんの援護本当に助かったよ! ありがとう」
「……」
どちらもオリジナルのマルコスとリリカで、試合の帰りのようだ。リリカは少し照れたように笑った。
「リリカ、嬉しいな」
明るい色彩の二人だった。オリジナルの自信がある声、自分とは大違いだ。
黒いパーカーで顔を隠すようにスマホの画面に目を落とすと、二人とすれ違ったのだった。
「マルコスくん……」
「なに」
いつものこの会話だ。その日の夜中、マルコスの部屋にプレイヤーが訪ねてきた。時計は12時半くらい。
まだ風呂も入っていないし、起きている時間ではあるが。
「もし、寝るところだったら全然いいんだけど。HAの練習付き合ってくれると嬉しいです……」
「いいよ」
「えっ?」
「え、って何……?」
ぶんぶんプレイヤーは首を振った。
「別にまだ起きてる時間だし、まだ風呂も入ってないし……。時間は遅いけど」
「……うん」
プレイヤーは遠慮がちに頷く
「……僕だってさ、これだけ負けが込むとちょっと悔しいんだよ」
「ご、ごめんね……わたしが下手、だから……」
プレイヤーはまたそんな風に言う。
「そのために、今から練習するんでしょ」
す、とプレイヤーの方に視線を移す。
そういえば今までプレイヤーの目をまともに見たことなかったな、と漠然と思った。
彼女の目は思ったより明るい色をしているようだ。
「うん……よろしくね、マルコスくん」
プレイヤーと一緒に誰もいない廊下を歩く。特に会話もないし、距離感も微妙である。
HAの練習。最初より命中率も滑り成功率も高いが、彼女は試合中慌ててしまってこれができなくなる。
永遠とそれを繰り返すだけの練習だが、集中するので他の事も考えなくていいし。
軽いウォーミングアップのような感じでマルコスは嫌いではなかった。
軽く汗が滲んできたあたりでプレイヤーから終了の指示が来て、マルコスは足を止めたのだった。
「マルコスくん、遅くまでありがとう」
戻るとプレイヤーが礼を言ってきた。マルコスは「別に」とそっけなく返事をする。会話は続かない。
「じゃあ、僕戻るね」
「……うん」
とプレイヤーは僅かに笑った。アタリやソーンに向ける笑顔とは違うものだ。
マルコスはプレイヤーに背中を向けると部屋を出て言ったのだった。