蒼い風
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「大丈夫か」
山道で足を滑らせ尻餅をついていると、頭上から声が降ってきた。
声から一寸遅れて、やがて大きな体が目の前に着地する。花は驚きを隠せぬまま、あんぐりと口を開けてその姿を見上げた。
「あんたは、事務員の」
「…あ、花です。六年の七松くんよね」
そうだ、と返事をしながら小平太はしゃがみ込んだ。花の右足にそっと触れてから、ううむと首を捻る。
「挫いてるな」
「ちょっと滑っちゃって…」
「早く見せた方がいいな。腫れるかもしれん」
おぶされ!と言って瞬時に背中を向ける小平太に、花はいやいや、と首を振る。
「あの大丈夫、ありがとう。学園まで歩けるよ」
「ん?ああ、そうか」
その格好じゃ、おぶさるの難しいもんな。
話を全く聞いていないのか、小平太はニカッと笑うと有無を言わさぬ速さで花を横抱きにした。
「ええっ!ちょっと、」
「よーし、すぐ着くから掴まってろ!」
「待っ…」
言い終わる前に小平太の足は力強く地面を蹴り、次の瞬間にはふわりと宙に浮かぶ。花は声にならない叫びを上げながら、小平太の襟にしがみついた。
「ごめん!重くない!?」
「なあに、これも鍛錬だ!」
気にするな!と高らかに笑うと、小平太は学園に向かってスピードを上げた。
「伊作!花を見てやってくれ!」
「小平太…花さん!」
保健室の扉を勢いよく開けて叫ぶ小平太に、部屋の奥から慌てて伊作が飛び出してきた。一緒にいた保健委員の下級生たちも、慌てて花の元へ集まってくる。
怪我自体は大したことはなく、斜面での転倒で足を軽く捻っただけであったが、伊作は丁寧に診て手当をしてくれた。花が手当てを受ける間、小平太は胡座をかいてその様子を見守っていた。
「ごめんね七松くん。さっきは何か用事の途中だったんじゃない?」
伊作が包帯を準備する間、そばで待つ小平太に向かって花は小声で謝った。
「気にするなと言っただろう。それにお前を抱えて走るのも鍛錬の一つだ」
鍛錬…と花は小さくごちる。
「花さん、しばらくは足元に気をつけてくださいね」
「ありがとうございました。ごめんなさい、お世話になっちゃって…」
「偶然小平太が通りかかって良かったです。それにしても小平太、花さんを呼び捨てはさすがに失礼なんじゃないかい?」
「んん?そうか?」
「あ、いえ、私は別に気にしないけど…」
「花ちゃんと呼ぶか」
は、と小さく口を開いた後、花はやや赤面して首を振った。
「呼び捨てでいいよ。なんか、ちゃん付けされる方が慣れないしくすぐったいから」
「花でいいな。私のことも小平太でいいぞ」
な!と小平太は笑いかけると、花の背中を一度軽く叩き、風のように医務室を出て行った。
伊作がやれやれと苦笑を漏らし、どうもすみませんねと小平太に代わって花に非礼を詫びるのであった。
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