この日だけは空けといてくださいね、という玲ちゃんが指定してきたのは誕生日の前日の夜と当日。

それで多少は察してしまうものの気になる気持ちを抑えて今日まで仕事を頑張ってきた。

意地でも休みを取ろうと仕事を捌いていった。

もちろんそういう時こそ仕事というのは積み重なっていくもので帰る頃には日付は無慈悲にも変わってしまっていた。

先に眠っていてもいいよとメッセージを送ったけれど見ただけみたいできっと起きているのだろう…と急いで帰った。

帰ってみれば静かで何があったのかと思う程だ。

リビングに入ると彼女の寝息が聞こえてきた。

さすがに待たせすぎたな…なんて思ってソファの方をのぞくとすよすよと寝ているお姫様。

眠り姫はキスで目覚めるんだっけかなんて言う欲望を抑えて俺は彼女をベッドに運ぼうとする。

ふと気付いた机の上は丁寧にラップがけされている色とりどりの料理。

『渡部さんって好きな料理とかありますか？』

そう聞かれた時に玲ちゃんの料理ならなんでも好きと答えたけどそうじゃなくて、と言われた理由がわかった気がした。

海外に行くことが多いからつい日本食というのはいつ食べても美味しく感じてしまうから和食と答えたことを思い出す。

机の上にあるのは焼き魚と里芋の煮付けにほうれん草のおひたし。

「っ…はは。これは…さすがに驚いたなぁ。」

ついびっくりして声を出せば彼女は身じろいだ。

そしてゆっくりと目を開けるてはっとした表情のままおかえりなさい！と言ってくれた。

ただいま、と返した俺に笑顔を向けてくれただけで俺の頬も一緒に緩んでしまうんだから本当に彼女には敵わない。

「あっ！悟さん！お味噌汁とご飯もあるのでちょっとだけ待っててくださいね！」

と言って目が覚めたばかりとは思えない張り切りっぷりでご飯とお味噌汁を取りに行く。

味噌汁を温め直してくれているのかガスコンロが点火する音が聞こえてくる。

そんな彼女の優しさに仕事の疲れが溶けていくようだ。

そしてしばらくすれば湯気のたった味噌汁とご飯が目の前に出された。

「すみません…煮物とか出しっぱなしで覚めちゃったんですが…あっ！嫌だったら電子レンジで温めてきますから！」

そういった彼女を制止して俺は玲ちゃんの作ってくれた食事を食べ始める。

俺は味噌汁にまず手を出す。

温かくて、豆腐とわかめの入ったシンプルな味噌汁なのに彼女が作ってくれただけでも特別に思える。

「本当に美味しいよ。玲ちゃんは俺の好みすごくよく分かってくれてるよね。」

1口1口大切に食べて、味わって、ここまで食事を楽しめる時間はなかなかないだろうと言うほど。

「そこまで言ってくれると調子に乗って危険物が出来上がるのでやめてください。」

そう言って笑う彼女に俺もつられて笑った。

もちろん言っていたことが面白かった、というのもあるけれど玲ちゃんが笑っていることが嬉しくて、つられてしまった。

「はー…もうほんと、君は俺を幸せにするスペシャリストだよね。」

「あはは、それなら悟さんは私を幸せにするスペシャリストですよ。」

もう一度顔を見合わせて笑い合った。