宮玲まとめ
夢小説設定
この小説の夢小説設定デフォルト→泉 玲
玲ちゃん受けがダメな方は自分の名前やゲームで使っている名前を入れて楽しんじゃってください。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ケーキと香りと金木犀
「いらっしゃいませ。」
私は仕事終わりにいつもカフェに寄る。
開いてる時は、だけど。
「こんばんは、ただいま、豪さん。」
「ふふ、こんばんは。おかえりなさい。玲さん。今日もお疲れ様です。」
何度か来たのにも関わらずまだ慣れない豪さんのお店に少し緊張する。
お店の中は美味しそうなコーヒーと、チョコレートのような甘い香りがしていた。
今日は人も少なくて楽しそうに話す女性の2人組とコーヒーを静かに嗜んでいる男性が1人だ。
相変わらず、ここはすごくいいお店であるようだ。
「今日は、早く上がれたんですか?」
「はい。連絡しようか迷ったんですが…お店に来たいなって思っちゃって。閉店まで時間ありましたし!」
柔らかく曲線を描く目といつものふわふわとした髪。
いつも見ているはずなのにカフェで見ると余計にかっこよく見えるから不思議だ。
「嬉しい。俺がちゃんと仕事してる所、見ていてくださいね?」
笑顔でそう言うと豪さんはカウンターに入っていく。
私はそれを見ながらコーヒーを飲むためにもあえてカウンター席へ座った。
慣れた手つきでサイフォンを使ってコーヒーを入れる宮瀬さんは本当に絵になるような美しさで正直日本人とは到底思えない程だ。
例えばだけど…ローマのフォロ・ロマーノなんかに立ってても違和感が無いかもしれない。
なんて言うのは言い過ぎかもしれないけど。
さらに信じられないのはそんな人が私の恋人、というところだ。
「もうそろそろお庭は落ち葉が沢山なんじゃないですか?」
「そうですね、でも落ち葉ばかりでは無いですよ。」
「そうなんですか?」
そう言って笑う姿を見ただけでも目の保養すぎて眩しい。
窓から見える街灯に照らされたテラス席やもちろんこの室内も色々な植物達が植えてあって本当に見事だった。
緑色の実がつき始めたオリーブ。
白い花が映える秋明菊。
秋といえばと咲かせるコスモス。
室内を独占するかのように立っているシュロチク。
一つ一つがのびのびとテラスと室内を彩っている。
そこから、豪さんの植物たちへの愛情がよく見えた。
「九条邸の方では金木犀が咲いていましたから。」
「金木犀ですか…!いい香りがしそうですね!」
「もう花は摘んでしまったのですがまだお庭がいい香りしているんですよ。」
「そうなんですね…ちょっとでも見れたら良かったのに…」
ここの所九条さんも忙しいのかあえていないし九条邸にもなかなか行けていない。
単純に私が忙しいというのもあるのだが時間を作ってでも豪さんの作った庭を見に行きたいほどだ。
「でも、花を摘んだのでもう少し金木犀が楽しめますよ。」
それを聞いて私はえっとちょっとびっくりする。
「少し待っていてくださいね。確か…冷蔵庫の奥にしまってあって…」
カウンターの奥に行き冷蔵庫の中を探しているのかガサガサと音が聞こえる。
「あっ、ありました。」
そう言って豪さんは黄色が鮮やかなケーキを持ってきた。
ふんわりとした美味しそうなパウンドケーキだ。
「今日、玲さんが来てくれてよかった。まだ他のお客様には出していないので。」
「え、こんな美味しそうなものをですか?」
「このパウンドケーキ、よく見てくれませんか?」
そう言われてパウンドケーキを見るとオレンジピールのような鮮やかなオレンジ色が混ざっていた。
「オレンジ…とかですか?」
「ふふ、ハズレです。これは九条家のお庭で取った金木犀です。」
「えっ?!」
本当によく見ると花びらの形をしていてあの甘い香りがほんのりとした。
「こ、これがあの金木犀ですか…?!」
「はい。10月の間の、季節限定ケーキです。少し待っていてくださいね、盛り付けますから。」
そう言いながら豪さんはお皿を1枚手にとって丁寧にケーキを盛り付けていく。
「はい、完成です。でももう少しだけ待っていてくださいね。」
私の目の前に置かれたお皿にはパウンドケーキと柔らかそうなホイップクリームがふんわりと乗せられていた。
「最後の仕上げに…このシロップをかけるんです。」
そう言ってケーキの上にかけられたシロップにも金木犀の花が入っていた。
「わぁ…すごく綺麗ですね!」
ケーキの上にも、ホイップクリームの上にも金木犀が綺麗に咲いている。
「今日頑張った玲さんへのご褒美。それから、明日頑張る玲さんのための元気チャージです。」
甘い香りと、涼しげなアイスコーヒーの香り。
そして幸せそうな恋人の笑顔。
それだけでももう満足感に満たされる。
「はい、お待たせしました。ふわふわ金木犀のケーキです。」
「ふふ、美味しそうです。」
「見た目はバッチリ…と。味もお口に合うといいのですが。」
フォークを差し出されて私はそれを受け取る。
「じゃあ…いただきますね。」
「はい。召し上がれ。」
シロップをつけて生クリームも少し一緒に乗せて。
1口、食べた。
その瞬間、秋の香りが口いっぱいに広がる。
金木犀の甘酸っぱいあの不思議な香りと程よい甘さのシロップ。
そして甘ったるくなりすぎないようにさっぱりとしている生クリーム。
全てが全て合わさると驚くくらい美味しかった。
「お味はどうでしょうか…」
「美味しいです…その…ほっぺが落ちそうなくらい!」
「ほっぺが落ちそうなくらい?」
「それくらい美味しいです。シロップが甘くてでもそれをしつこくさせないみたく生クリームがさっぱりしてて…そのふたつに負けないくらいふわふわなパウンドケーキが優しい甘さで…もう最っ高に美味しいです!」
感想を言ってからもう一口食べる。
もちろんなのだがやっぱり美味しくてもう一口…もう一口と手が伸びてしまう。
「やっぱり豪さんの作るケーキは最っ高に美味しいです!見た目も綺麗なので女性の方に人気が出そうです…!」
「ふふ、玲さんからそう言って貰えると自信が持てますね。一応試作品でしたので兄さんや桐嶋さんの分で良ければ出せますから言ってくださいね。」
「それは残しといてあげましょう?!九条さんに申し訳ないですし豪さんのケーキきっと楽しみにしてますから!」
幸せな会話は、九条家の人達も入っている。
それを聞くだけでも、胸がぎゅっとなった。
ぎゅっとなってる所がバレないようにサイフォンで入れてある香りの高いコーヒーを1口飲んだ。
もちろんそれも、美味しい。
1口飲んだだけでも幸せな香りが広がる。
仕事終わりのコーヒーだから余計に美味しく感じる。
ここを初めとする少し先の未来が、優しく温かく感じた。
「宮瀬さん、このケーキいつ発売ですか?」
「10月の後半からですよ。もう少しだけシロップに漬けておこうと思って。玲さんが欲しいならいくらでも用意しますよ?」
「それはこのカフェのファンとしてはずるい気がして…なんならこのケーキに5000円くらい払いますから!お釣りはいりませんってやつです!」
「ふふ、じゃあ5000円で玲さんが好きな物いっぱい用意しなくてはいけませんね。」
「それは魅力的過ぎませんか…」
幸せな今と、これからの話。
その未来は近くて、遠い未確定な未来なんか見えやしない。
でもこの近い未来の約束が続く度、真っ暗な道はない気がした。