愛をこめて
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見ているだけで元気になれそうな、早春を告げるその黄色い花に、彼は似ている気がした。
春の風に揺れながら空高く咲き乱れる花々。寒さを忘れさせられるほど目を見張るような黄金の絨毯に心が温まったように、彼の笑顔を見ればたちまち心がぽかぽかとするのだ。
そんな花も、その花に似ている彼も、大好きだった。
「さいっあく」
ゴホッと咳をひとつ。喉の奥が焼けるように痛い。
頭も鈍痛が走り、体全体が重石をつけたように重くて、少しの身動きも億劫だ。ベッドの中にいる分寒気は酷くないけれど、近くの医院に診てもらおうと重い身体を引きづって歩いた午前中は、寒さで顔が真っ青だったらしい。
「インフルエンザじゃなかっただけ良かったじゃないの」
「良くない! 今日は大切な日だったのに……」
「自分の身体とどっちが大事なの」
「うぅ……」
ぴしゃり、とお母さんに言いくるめられ、何としてでも学校に行こうとしていた私は現在進行形で布団とお友達だ。這ってでも行きたかったけれど、よく考えれば周りにうつすわけにもいかない。溜息をついて布団の中に潜り込んだ。
今日に限ってどうして風邪をひくの、私。38度越えの頭を回転させ、悪態をついてみるものの虚しさばかりが生まれる。
今頃彼は学校の皆から祝われてるだろうなぁ。
明るくてムードメーカーで、好かれやすい彼のことだから、プレゼントもいっぱい貰っているかもしれない。
「マコにおめでとうって、最初に言ってあげたかったな」
別に一番じゃなければいけないとか、そう言うわけじゃないけれど。
要は気持ちの問題だ。他の誰かからお祝いされている姿を見て「でも一番に言ったのは私だもの」と優越感に浸りたいだけ。
変なところで対抗心を抱いてしまうのだ。人気者のマコが好きで付き合っているはずなのに、嫉妬して独り占めしてしまいたくなる。
自分に嫌気がさして考えるのは止そうと目を閉じれば、睡魔は簡単にやってくる。けれど熱のせいで深い眠りには入ってくれず、寝ては醒め、寝ては醒めという浅い睡眠を繰り返した。
『名前、だいじょーぶ? 風邪つらい? おれが早く治るおまじないやってあげる!』
『ほんと? すぐ治ってマコくんと遊べる?』
『遊べるさ! ほら、目をつぶって』
『ん……』
まだ小学校に上がるか上がらないかくらいの時のことだ。風邪で寝込んだ私をお見舞いしてくれたマコが、小さな手で私の頭を撫でながらおまじないをしてくれた。
微睡の中、懐かしい夢に頬が緩む。そう、今みたいにマコは優しく撫でてくれたのだ。
そして、ふと気づく。
――夢なのになぜ撫でられている感覚があるの。
ぱっと目を覚ませば、ベッド脇に座り込んでいたその人が驚いた声を出した。
一瞬で見れなくなってしまった直前の表情に、どきっとする。ぐしゃぐしゃと少し強めに私の頭を撫で、マコがにかっと笑う。
「大丈夫か、名前?」
「マコ……」
「なんだなんだ、んな寂しそうな顔すんなって!」
「だって……一番に言えなかったもん」
「お祝いよりも風邪を治してもらった方が、俺は嬉しいぜ?」
マコは私の気持ちを操れる天才だと思う。拗ねている私を、たった一言で、その笑顔で機嫌よくさせてしまえるのだから。
ぽかぽかと春の陽気のように温まっていく胸に、頬が緩んでいく。
「良くなったらさ、誕生日お祝いしてくれよ。二人きりでさ」
「うん……」
ベッドで横になったままの私の頭をぽんぽんとする。心地よさで目を細めつつ、照れ隠しで布団を深くかぶる。
それは反則。
どれだけ私を幸せにすれば、マコは気が済むの。
「そうだ、おまじないしてやろうか?」
「ん……して?」
「っ……バッカ、言葉足りないっての。危うく別の意味に捉えそうになっただろ」
「……変態」
「思春期なんだから仕方ねーだろ!」
ふふ、と堪えきれずに笑う。するとマコも頬を少し赤くしながら、いつもみたいな顔で笑った。ああ、幸せだなぁ。
コツン、と額同士が合わさる。
鼻と鼻が擦れてしまいそうな、お互いの呼吸が手にとって分かるような距離にはっと息を飲む。
いつの間にか二人の手が指を絡めるように結ばれていた。導かれるように目を閉じれば、心地よい睡魔が再び近づいてくる気配がした。
風邪がうつっちゃうかもしれないでしょ、なんて文句は治ってからたっぷりしてあげよう。今は全てを委ねて。
「早く元気になーれ」
太陽みたいに、あの花――菜の花みたいに見るだけで元気になれるマコの笑顔が大好きだ。でも、目覚めたらまた見れるだろうか。
一瞬垣間見た、今まで見たことないくらい大人びた優しげな微笑みを。
* * *
黄色の菜の花の花言葉=「元気いっぱい」「快活な愛」「小さな幸せ」
春の風に揺れながら空高く咲き乱れる花々。寒さを忘れさせられるほど目を見張るような黄金の絨毯に心が温まったように、彼の笑顔を見ればたちまち心がぽかぽかとするのだ。
そんな花も、その花に似ている彼も、大好きだった。
「さいっあく」
ゴホッと咳をひとつ。喉の奥が焼けるように痛い。
頭も鈍痛が走り、体全体が重石をつけたように重くて、少しの身動きも億劫だ。ベッドの中にいる分寒気は酷くないけれど、近くの医院に診てもらおうと重い身体を引きづって歩いた午前中は、寒さで顔が真っ青だったらしい。
「インフルエンザじゃなかっただけ良かったじゃないの」
「良くない! 今日は大切な日だったのに……」
「自分の身体とどっちが大事なの」
「うぅ……」
ぴしゃり、とお母さんに言いくるめられ、何としてでも学校に行こうとしていた私は現在進行形で布団とお友達だ。這ってでも行きたかったけれど、よく考えれば周りにうつすわけにもいかない。溜息をついて布団の中に潜り込んだ。
今日に限ってどうして風邪をひくの、私。38度越えの頭を回転させ、悪態をついてみるものの虚しさばかりが生まれる。
今頃彼は学校の皆から祝われてるだろうなぁ。
明るくてムードメーカーで、好かれやすい彼のことだから、プレゼントもいっぱい貰っているかもしれない。
「マコにおめでとうって、最初に言ってあげたかったな」
別に一番じゃなければいけないとか、そう言うわけじゃないけれど。
要は気持ちの問題だ。他の誰かからお祝いされている姿を見て「でも一番に言ったのは私だもの」と優越感に浸りたいだけ。
変なところで対抗心を抱いてしまうのだ。人気者のマコが好きで付き合っているはずなのに、嫉妬して独り占めしてしまいたくなる。
自分に嫌気がさして考えるのは止そうと目を閉じれば、睡魔は簡単にやってくる。けれど熱のせいで深い眠りには入ってくれず、寝ては醒め、寝ては醒めという浅い睡眠を繰り返した。
『名前、だいじょーぶ? 風邪つらい? おれが早く治るおまじないやってあげる!』
『ほんと? すぐ治ってマコくんと遊べる?』
『遊べるさ! ほら、目をつぶって』
『ん……』
まだ小学校に上がるか上がらないかくらいの時のことだ。風邪で寝込んだ私をお見舞いしてくれたマコが、小さな手で私の頭を撫でながらおまじないをしてくれた。
微睡の中、懐かしい夢に頬が緩む。そう、今みたいにマコは優しく撫でてくれたのだ。
そして、ふと気づく。
――夢なのになぜ撫でられている感覚があるの。
ぱっと目を覚ませば、ベッド脇に座り込んでいたその人が驚いた声を出した。
一瞬で見れなくなってしまった直前の表情に、どきっとする。ぐしゃぐしゃと少し強めに私の頭を撫で、マコがにかっと笑う。
「大丈夫か、名前?」
「マコ……」
「なんだなんだ、んな寂しそうな顔すんなって!」
「だって……一番に言えなかったもん」
「お祝いよりも風邪を治してもらった方が、俺は嬉しいぜ?」
マコは私の気持ちを操れる天才だと思う。拗ねている私を、たった一言で、その笑顔で機嫌よくさせてしまえるのだから。
ぽかぽかと春の陽気のように温まっていく胸に、頬が緩んでいく。
「良くなったらさ、誕生日お祝いしてくれよ。二人きりでさ」
「うん……」
ベッドで横になったままの私の頭をぽんぽんとする。心地よさで目を細めつつ、照れ隠しで布団を深くかぶる。
それは反則。
どれだけ私を幸せにすれば、マコは気が済むの。
「そうだ、おまじないしてやろうか?」
「ん……して?」
「っ……バッカ、言葉足りないっての。危うく別の意味に捉えそうになっただろ」
「……変態」
「思春期なんだから仕方ねーだろ!」
ふふ、と堪えきれずに笑う。するとマコも頬を少し赤くしながら、いつもみたいな顔で笑った。ああ、幸せだなぁ。
コツン、と額同士が合わさる。
鼻と鼻が擦れてしまいそうな、お互いの呼吸が手にとって分かるような距離にはっと息を飲む。
いつの間にか二人の手が指を絡めるように結ばれていた。導かれるように目を閉じれば、心地よい睡魔が再び近づいてくる気配がした。
風邪がうつっちゃうかもしれないでしょ、なんて文句は治ってからたっぷりしてあげよう。今は全てを委ねて。
「早く元気になーれ」
太陽みたいに、あの花――菜の花みたいに見るだけで元気になれるマコの笑顔が大好きだ。でも、目覚めたらまた見れるだろうか。
一瞬垣間見た、今まで見たことないくらい大人びた優しげな微笑みを。
* * *
黄色の菜の花の花言葉=「元気いっぱい」「快活な愛」「小さな幸せ」