愛をこめて
名前変換
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とんでもない時間に鳴り響いた目覚まし時計が、壊れていることにキレかけ、起こしてくれなかったお母さんに文句を言いながら自身の片割れを叩き起こす。
「あと5時間」とかなんとかふざけたことを言い出した彼の頬を抓れば、痛がりながら飛び起きた。
辛うじて用意してあったお弁当を鞄の中に詰め込み、漫画よろしくトーストを咥えながら(お行儀が悪いと分かってるけれど)着替え、ついでに半身の分の教科書とお弁当も鞄に入れ――いつもなら自転車で余裕もって通学しているところだけれど、遅刻ギリギリなので二人揃って駅まで猛ダッシュする。
サッカーをやっている半身ならともかく、選手でもなんでもない私が時計と競争なんて無理なわけで、途中からは彼に腕を引っ張られながら息絶え絶えに到着した。
「良介、切符切符!」
「うわっ、定期切れてる!」
滅多に電車通学をしないせいで、改札で足止めを食らい、学生には痛いなけなしのお金で切符を買った。
ツイてない、ホントにツイてない。その上電車が目の前で動き出す。
……厄日なのかしら。
「はぁ……遅刻確定だよこれじゃ」
「ま、いーじゃん!」
「そういうこと言うから、試験前にタッちゃんに泣きつく羽目になるんだよ?」
「うっ……。でもさ、名前とこうやってのんびり学校に行くのもたまには悪くないじゃん。朝練とか部活とかで一日中バタバタしてさ、二人で行ける日なんて珍しくなっちゃったし」
「それはそうだけど……」
ごめんねタッちゃん。
今回の試験もあなたに勉強を頼ることになりそうです。
絶対お説教から始まるだろうなぁ、怒ると怖いもんなぁ、と今から泣きそうになりつつ、ベンチに座る――兄だか弟だか分からないけれど――片割れの良介を横目で見る。
こんなにもツイてない一日の始まりだというのにどこか楽しげで、ニコニコと笑っている。それを見たら「まぁいっか」と思えてしまう私は、やっぱり双子なんだなぁ。
「なぁ、そういえばもうすぐ俺らの誕生日じゃん?」
「そうだね。高校入ってから毎日があっという間だったから……この間16になったと思ったら17歳になるんだよね」
辛いことも楽しいことも、皆で経験してきた。良介に至っては涙を呑むようなこともあった。
いっぱい練習して、がむしゃらに走って、辛いことを吹き飛ばすくらい笑って。そうしているうちに夢のまた夢だと思っていた全国大会に行って。
「すぐ3年になって、次の国立なんてあっという間だ」
「うん……今度こそ優勝、だよ。国立を通過点にするんだから!」
「おう!」
にっと笑って、拳を突き合わせる。そして自信満々に宣言した。
「来年の誕生日プレゼントは、選手権優勝だかんな!」
「……今年は?」
「あー……」
「もう、良介ったら」
「悪かったって、名前。ちゃんと考えるからさ!」
必死に私の機嫌を直そうとする片割れがおかしくて、でも「怒ってないよ」と言ってしまうのもつまらなくて、意地悪する。
顔を逸らせば、慌てた声がさらに大きくなった。
プレゼントなんてどうでもいい。いつかのことを考えると不安になるから、少しでも長く傍にいられれば。
そして願わくば、彼が楽しくサッカーをしている姿を一秒でも長くこの目に焼き付けたい。高校サッカーに留まらず世界に羽ばたいていく良介を見ていたい。
忘れることなんて絶対にないと言いたいけれど、記憶はあやふやなものだから。だから人は昔から、記憶や思いをものに託すのだろう。
謝り続ける良介の肩に頭をこてん、と乗せる。すると今度は「気分悪くなったのか!?」と的外れに心配してきた。
ちがうよ、と言えばほっとした顔を見せてくれる。
「りょーすけ」
「なに、名前?」
「写真撮ろうね、一緒にいれる間は、ずっと」
「もちろん。記念日でも、そうでない日でも。おまえが望むならいつでも撮ろうな」
写真という枠の中に、小さな箱庭の中に思い出を詰め込んで。そうすれば時を留めたまま、その思い出を大事にできるだろうから。
電車を待つ間、私たちは特別な理由もなく写真を撮った。何でもない日でも、二人一緒なら特別なものに思えるの。
「プレゼントがなくてもさ、私は昨日のことも今日のことも、明日もきっと忘れない」
そう言うと、君が無邪気に笑った。
のんびりと通学した私たちを見た瞬間タッちゃん達が説教をし、そして良介にとって朗報を聞かされて、今日がツイてない日から幸せな一日に変わるまであと少し。
* * *
白いアネモネの花言葉=「期待」「可能性」「無邪気」
「あと5時間」とかなんとかふざけたことを言い出した彼の頬を抓れば、痛がりながら飛び起きた。
辛うじて用意してあったお弁当を鞄の中に詰め込み、漫画よろしくトーストを咥えながら(お行儀が悪いと分かってるけれど)着替え、ついでに半身の分の教科書とお弁当も鞄に入れ――いつもなら自転車で余裕もって通学しているところだけれど、遅刻ギリギリなので二人揃って駅まで猛ダッシュする。
サッカーをやっている半身ならともかく、選手でもなんでもない私が時計と競争なんて無理なわけで、途中からは彼に腕を引っ張られながら息絶え絶えに到着した。
「良介、切符切符!」
「うわっ、定期切れてる!」
滅多に電車通学をしないせいで、改札で足止めを食らい、学生には痛いなけなしのお金で切符を買った。
ツイてない、ホントにツイてない。その上電車が目の前で動き出す。
……厄日なのかしら。
「はぁ……遅刻確定だよこれじゃ」
「ま、いーじゃん!」
「そういうこと言うから、試験前にタッちゃんに泣きつく羽目になるんだよ?」
「うっ……。でもさ、名前とこうやってのんびり学校に行くのもたまには悪くないじゃん。朝練とか部活とかで一日中バタバタしてさ、二人で行ける日なんて珍しくなっちゃったし」
「それはそうだけど……」
ごめんねタッちゃん。
今回の試験もあなたに勉強を頼ることになりそうです。
絶対お説教から始まるだろうなぁ、怒ると怖いもんなぁ、と今から泣きそうになりつつ、ベンチに座る――兄だか弟だか分からないけれど――片割れの良介を横目で見る。
こんなにもツイてない一日の始まりだというのにどこか楽しげで、ニコニコと笑っている。それを見たら「まぁいっか」と思えてしまう私は、やっぱり双子なんだなぁ。
「なぁ、そういえばもうすぐ俺らの誕生日じゃん?」
「そうだね。高校入ってから毎日があっという間だったから……この間16になったと思ったら17歳になるんだよね」
辛いことも楽しいことも、皆で経験してきた。良介に至っては涙を呑むようなこともあった。
いっぱい練習して、がむしゃらに走って、辛いことを吹き飛ばすくらい笑って。そうしているうちに夢のまた夢だと思っていた全国大会に行って。
「すぐ3年になって、次の国立なんてあっという間だ」
「うん……今度こそ優勝、だよ。国立を通過点にするんだから!」
「おう!」
にっと笑って、拳を突き合わせる。そして自信満々に宣言した。
「来年の誕生日プレゼントは、選手権優勝だかんな!」
「……今年は?」
「あー……」
「もう、良介ったら」
「悪かったって、名前。ちゃんと考えるからさ!」
必死に私の機嫌を直そうとする片割れがおかしくて、でも「怒ってないよ」と言ってしまうのもつまらなくて、意地悪する。
顔を逸らせば、慌てた声がさらに大きくなった。
プレゼントなんてどうでもいい。いつかのことを考えると不安になるから、少しでも長く傍にいられれば。
そして願わくば、彼が楽しくサッカーをしている姿を一秒でも長くこの目に焼き付けたい。高校サッカーに留まらず世界に羽ばたいていく良介を見ていたい。
忘れることなんて絶対にないと言いたいけれど、記憶はあやふやなものだから。だから人は昔から、記憶や思いをものに託すのだろう。
謝り続ける良介の肩に頭をこてん、と乗せる。すると今度は「気分悪くなったのか!?」と的外れに心配してきた。
ちがうよ、と言えばほっとした顔を見せてくれる。
「りょーすけ」
「なに、名前?」
「写真撮ろうね、一緒にいれる間は、ずっと」
「もちろん。記念日でも、そうでない日でも。おまえが望むならいつでも撮ろうな」
写真という枠の中に、小さな箱庭の中に思い出を詰め込んで。そうすれば時を留めたまま、その思い出を大事にできるだろうから。
電車を待つ間、私たちは特別な理由もなく写真を撮った。何でもない日でも、二人一緒なら特別なものに思えるの。
「プレゼントがなくてもさ、私は昨日のことも今日のことも、明日もきっと忘れない」
そう言うと、君が無邪気に笑った。
のんびりと通学した私たちを見た瞬間タッちゃん達が説教をし、そして良介にとって朗報を聞かされて、今日がツイてない日から幸せな一日に変わるまであと少し。
* * *
白いアネモネの花言葉=「期待」「可能性」「無邪気」