愛をこめて
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自信家で、ポジティブで、けど周りを納得させることができるほどの実力を持っている人。
それが私なりの荒木先輩に対する見解。
時々気を抜いて食べ過ぎて、太ってしまうことがなければ、小学生の時からもしかしたら注目されていたかもしれないくらいセンスも才能もあるのに、なんでもっと努力しないんだろうって最初は思ってた。でも、違った。
それに気づきかけたのは選手権の決勝戦、ハーフタイムの時。
もちろん他の試合でも悔しそうにしつつも、すぐに気持ちを切り替えている一面を見たことはあった。だけど一番印象に深く残ったのがこの日の試合だった。
「この試合で化けてみせる」レオナルド・シルバと対等にやりあえるワールドクラスになってみせると言った彼は、完璧とまで言い切れるか私には分からないけれど、有言実行してみせた。
試合で勝ちを狙わない人なんていないけど、荒木先輩が勝利に執着する様子を見て、胸の中がざわめいた。胸に手を当ててみても、そのざわめきの理由は分からなかった。
優勝して通常の部活が始まった今でも、全く分からない。
そして完全に気づいたのは部活を終えた後。
もうすぐ荒木先輩の誕生日ということでマネージャーや部員の一部で集まって、サプライズをしようと話し合った帰り道だった。
いつも通り自転車に乗って、通い慣れた暗い夜道を進む。
冷え込んだ空気と時折吹く風が頬をかすめて、さっきまでファミレスでためた熱を冷ますどころか奪っていく。手袋をしていても指先は冷たいし、多分鼻先は真っ赤になっているんだろう。
ふわふわ昇っていく白い吐息を理由もなく出して遊びながら、車輪のシャーと勢いよく回る音を聞く。
するとダンッとかバンッとか、何とも形容しがたい音が入り込んできた。しかも近づいてくる。いや、私が近づいているといった方が正しいか。
ブレーキをかけて止まったのは、いつも通り過ぎている公園。音はここから聞こえてきていた。
気に留めずにそのまま帰ればよかったのに、変なところで好奇心旺盛な自分に少し嫌気がさす。
公園の奥の方にある街灯が、誰かを上から照らしていた。壁にボールを蹴って打ち付けたり、ドリブルしながら走り回ったり。
誰だろう、と目を凝らしていると、その人が見知った姿だと気づく。
「……荒木先輩?」
息を切らしてボールを追いかける真剣な横顔に釘付けになる。いつからいるのか、遠目でも分かるくらい汗をかいていて、真冬だというのに上着を脱いで走り回っている。
「はぁ……くっそ!」
膝に手をついて、深く呼吸を繰り返すその姿に胸が締め付けられる。
荒木先輩はお調子者でどうしようもないくらい呆れることもある人だけど、サッカーに関してはいつだって真っ直ぐなんだ。
太ってきては周囲に締められることもあるが、それは欠点だった心肺機能を高めるためだったこともあったと、思い出す。
それに、ここ一番という時には必ずコンディションを完璧にしてきてくれる。滅茶苦茶だけど真摯に向き合っているのが周りにも分かっているから、あんなにも頼られるのだ。
エースとして、江ノ高の柱として、心の支えとして。
見えないところで努力して、常にチャレンジ精神を忘れない。
「かっこいいな」
胸の中が温かい。口角が自然と上がって、何となくざわめきの理由が分かった気がした。
自転車を停めて、近くの自動販売機まで走る。スポーツドリンクを一本買って、再び走った。
「荒木先輩、お疲れ様です!」
「へ……うぉっ、苗字!?」
もっといろんな表情を見てみたい。
真剣な顔も、怒った顔も、戸惑った顔も、悲しげな顔も、からかっている顔も――そして笑顔も。
だから、少しだけあなたに向かって前進していいですか?
* * *
赤いガーベラの花言葉は「常に前進」「チャレンジ」
それが私なりの荒木先輩に対する見解。
時々気を抜いて食べ過ぎて、太ってしまうことがなければ、小学生の時からもしかしたら注目されていたかもしれないくらいセンスも才能もあるのに、なんでもっと努力しないんだろうって最初は思ってた。でも、違った。
それに気づきかけたのは選手権の決勝戦、ハーフタイムの時。
もちろん他の試合でも悔しそうにしつつも、すぐに気持ちを切り替えている一面を見たことはあった。だけど一番印象に深く残ったのがこの日の試合だった。
「この試合で化けてみせる」レオナルド・シルバと対等にやりあえるワールドクラスになってみせると言った彼は、完璧とまで言い切れるか私には分からないけれど、有言実行してみせた。
試合で勝ちを狙わない人なんていないけど、荒木先輩が勝利に執着する様子を見て、胸の中がざわめいた。胸に手を当ててみても、そのざわめきの理由は分からなかった。
優勝して通常の部活が始まった今でも、全く分からない。
そして完全に気づいたのは部活を終えた後。
もうすぐ荒木先輩の誕生日ということでマネージャーや部員の一部で集まって、サプライズをしようと話し合った帰り道だった。
いつも通り自転車に乗って、通い慣れた暗い夜道を進む。
冷え込んだ空気と時折吹く風が頬をかすめて、さっきまでファミレスでためた熱を冷ますどころか奪っていく。手袋をしていても指先は冷たいし、多分鼻先は真っ赤になっているんだろう。
ふわふわ昇っていく白い吐息を理由もなく出して遊びながら、車輪のシャーと勢いよく回る音を聞く。
するとダンッとかバンッとか、何とも形容しがたい音が入り込んできた。しかも近づいてくる。いや、私が近づいているといった方が正しいか。
ブレーキをかけて止まったのは、いつも通り過ぎている公園。音はここから聞こえてきていた。
気に留めずにそのまま帰ればよかったのに、変なところで好奇心旺盛な自分に少し嫌気がさす。
公園の奥の方にある街灯が、誰かを上から照らしていた。壁にボールを蹴って打ち付けたり、ドリブルしながら走り回ったり。
誰だろう、と目を凝らしていると、その人が見知った姿だと気づく。
「……荒木先輩?」
息を切らしてボールを追いかける真剣な横顔に釘付けになる。いつからいるのか、遠目でも分かるくらい汗をかいていて、真冬だというのに上着を脱いで走り回っている。
「はぁ……くっそ!」
膝に手をついて、深く呼吸を繰り返すその姿に胸が締め付けられる。
荒木先輩はお調子者でどうしようもないくらい呆れることもある人だけど、サッカーに関してはいつだって真っ直ぐなんだ。
太ってきては周囲に締められることもあるが、それは欠点だった心肺機能を高めるためだったこともあったと、思い出す。
それに、ここ一番という時には必ずコンディションを完璧にしてきてくれる。滅茶苦茶だけど真摯に向き合っているのが周りにも分かっているから、あんなにも頼られるのだ。
エースとして、江ノ高の柱として、心の支えとして。
見えないところで努力して、常にチャレンジ精神を忘れない。
「かっこいいな」
胸の中が温かい。口角が自然と上がって、何となくざわめきの理由が分かった気がした。
自転車を停めて、近くの自動販売機まで走る。スポーツドリンクを一本買って、再び走った。
「荒木先輩、お疲れ様です!」
「へ……うぉっ、苗字!?」
もっといろんな表情を見てみたい。
真剣な顔も、怒った顔も、戸惑った顔も、悲しげな顔も、からかっている顔も――そして笑顔も。
だから、少しだけあなたに向かって前進していいですか?
* * *
赤いガーベラの花言葉は「常に前進」「チャレンジ」