日常

この先も何度でも

2024/01/10 21:21
───霜月二十五日、子ノ刻・儀式の洞窟───



黒喰:………………。

雪白:くーろさまー!

黒喰:雪白………何故まだ起きているんだ………もう子の正刻を過ぎたよ、早く寝なさい。

雪白:えー………急におとうさんみたいなこと言ってどうしたの?クロさま……。

黒喰:一応、父親ではあるんだが…………まぁいいか。

雪白:クロさまこそ、今日はねてないよー?

黒喰:先日、錦の秘蔵の酒を大量に呑んでしまってね………鑑と連帯責任で一本残らず返せとの事だから、こうやって扇子作りを手伝っているんだよ。

雪白:あの時のだね!おじさん、かわいそう……。

黒喰:確かに鑑には悪いことをしたと思っているさ………だからこうやって………って、話が逸れたな。雪白、なんでまだ起きているのかな。

雪白:えへへー……今日はなんの日でしょーか!

黒喰:金型の日。

雪白:ぶー!そうだけど、そうじゃないでしょー!

黒喰:分かっているさ……私の誕生日だろう?

雪白:あたりでーす!わたしがいちばんにおめでとうって言いたかったから、起きてたの!

黒喰:そうか………ありがとう。

雪白:それでね、そんなクロさまにプレゼントを用意しました!

黒喰:プレゼント?

雪白:じゃーん!にがおえでーす!
(ごそごそと取り出して黒喰の目の前で広げて)


黒喰:似顔絵………。
(広げられた絵を見る。色鉛筆で描かれた自分の横に雪白、その横に一人の女性が描かれていて)


雪白:おかあさんも描いてみたの!はい!

黒喰:………そうか…、良く描けているね。
(差し出された紙を受け取りつつ)


雪白:ほんと?実はねクロさま………プレゼント、もういっこあるんだよ!

黒喰:……………?

雪白:これ!
(出されたのはかつて自分が置いていった襟巻きで)


黒喰:………?私の襟巻きだね。やっと返してくれる気になったのかな。

雪白:クロさま、ずっとさむがってたもんねー!

黒喰:昔はそりゃあしてなかったが、今ではこれを着けていない方が落ち着かないくらいさ。

雪白:でもね、これはまえの襟巻きとはちがうよー?

黒喰:…………?違う……とは、……!これは………。
(畳まれていた襟巻きを広げ。すれば、襟巻きの端の方に六花の刺繍が二つ入っていて)


雪白:むらさきのおにいさんにね、ししゅうのやり方おそわったの!わたしの白と、おかあさんの名前の色の糸を使ったんだよ!

黒喰:………………………。

雪白:………クロさま?どうしたの………!?!
(急に黙り込んだ黒喰を不思議に思い、下から覗き込んで。すると音もなく涙を流しており)


黒喰:…………あ……いや、……すまない。
(涙が頬を伝う感覚に気付いてそれを拭いつつ)


雪白:いやだった……?

黒喰:………違うんだ、雪白。………参ったな………この歳にもなって、嬉しくて涙が出るなんて、体験したことが無かったからね。
(ふるふると首を横に振りながら)


雪白:そうなんだ!えへへー……サプライズ、大成功!

黒喰:…………折角なら、雪白が巻いてくれるかな。

雪白:襟巻き?

黒喰:ああ。

雪白:分かった!じっとしててねー?
(黒喰の前に膝立ちになり、首元に襟巻きを巻いてあげて)


黒喰:ふふ…………君の匂いがする。

雪白:クロさまが帰ってくるまでわたしがずっともってたもん!

黒喰:そうだね………雪白。

雪白:なーに?

黒喰:この先も何度でも………私の誕生日を祝ってくれるかな。

雪白:………!えへへ………そんなの、あたりまえだよ!

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