日常
ぼくのやりたいこと~前編~
2023/05/16 21:16───甘味処・望月───
紅:鳴巳様?これは何処に置きますの?
鳴巳:えっ……あ、ここに……。
紅:本当に器用ですわね……鳴巳様……。
(カーネーションの形の練り切りを見ながら)
鳴巳:い、いや………ぼくなんて、そんな………。
紅:それはお母様にあげられるんですの?
鳴巳:あ、いえ………ぼくは孤児なので、………。
紅:………ごめんなさい、配慮が足りてませんでしたわね。
鳴巳:……あ、頭を上げてください……!紅さんはなにも悪くないです……!これは、店長さんに渡そうと思って……。
紅:あら、そうでしたのね……そういえば、鳴巳様はどうして望月にいらっしゃったんですの?
鳴巳:ぼ………ぼくが、里で行き倒れてた所を店長さんに拾って頂いたんです………。
紅:あ!鳴巳様がいらした時の事を詳しく聞きたいですわ!
鳴巳:ええっ!?
紅:私も手伝いますから、是非話して下さります?
鳴巳:………お、面白くないですよ……?
紅:折角昔の皆様の事が知れるんですもの!
鳴巳:じゃあ、少しだけ……。確か、あの頃も丁度皐月の頃だったと思います…………。
───***年前、妖怪ノ里───
雀:なーるみちゃん?
鳴巳:…………!な、なんでしょうか………。
(声をかけられ、近くの椅子の影に隠れて)
雀:いやー、えっと……大丈夫?ずっとお部屋にこもってたらつまらなくない?ほら!今日は天気もいいし、どこか出掛けましょう?
鳴巳:……………大丈夫……です、…………外は、苦手なので………。
雀:あら、そう………ご、ごめんなさいね?でも、たまには空気の入れ替えしてね……?
鳴巳:………………すみません……。
雀:いいのよ!じゃあ、何か入り用だったら呼んでね?
雀:……………。
満朔:おかえりー……って、どしたの?雀。
雀:心の壁っ!!!
(拳で机を叩きつつ)
満朔:あー……あの子?
雀:行き倒れてて助けてからもう一ヶ月よ!?一ヶ月!!人見知り激しそうだなーとは思ってたけど、アタシ達に距離ありすぎない……!?
満朔:まー、慣れてないんでしょ……俺等にもこの世界にも。ほら、大将言ってたじゃん。多分、元人間だろうって……前世の記憶が無いとはいえ、急に妖怪達の中に放り込まれて戸惑ってるんじゃない?
雀:でも、それにしてもよ……!慣れてなさすぎるっ……!あの子、表情だって全然変わらないし、やりたいこと全く言わないじゃない………。
満朔:人間が妖怪に生まれ変わる時に記憶は全て消されるらしいんだけど、うっすらと前世の情報が引き継がれてる時があるんだと。だから、元からああかもしんないし。無理にしたいこと聞かなくても……。
雀:でもね朔ちゃん……アタシはね、折角妖怪としてこの場所に来たんだから、この世界を楽しんでほしいのよ。あの部屋の外にはまだまだ鳴巳ちゃんの知らないことだって沢山あるもの!
満朔:まぁ、雀の言うことも一理ある。
雀:でしょう?
満朔:でも、雀はちょっとそれをあの子に押し付け気味なんじゃない?
雀:ガーン!!
満朔:んー………分かったよ。俺からも声かけてみる。
雀:えっ……本当?
満朔:情報屋、今暇だしねー。雀も買い物にでも行ってきたら?
雀:そうね………じゃあ、そうさせてもらおうかしら。
満朔:ん、行ってらー。
***
コンコン
鳴巳:……………!…………ど、うぞ……。
満朔:よ。
(すりガラスの引戸を開けながら)
鳴巳:……………………。
(依然として椅子の影に隠れたまま様子を窺っていて)
満朔:そんな警戒しなくても、取って食ったりしないよ。
鳴巳:……………!?えっ、あの………!
満朔:ははっ。じゃあ、今日は俺の話にでも付き合ってもらおうかなー。
(椅子に背を向けるように座りなから)
鳴巳:……………………え、と……。
満朔:どう?この生活慣れた?
鳴巳:……………………。
満朔:ま、そう簡単には慣れる訳ないか。自分がなんの妖怪なのかは分かってんの?
鳴巳:………………そ、総大将……様が………鳴釜……だと、教えてくれました………。占いが出来るって……言ってたんですけど………。
満朔:ほー。
鳴巳:……………占いに必要な道具も頂いたんですけど……良く分からなくて…………。
満朔:まだやってないんだ?
鳴巳:……………………。
満朔:じゃさ、ちょっと今やってみたら?
鳴巳:…………い、今……!?
満朔:そ。良く分からないからやってないだけでしょ?じゃあ、試しにやってみたらいいじゃん。
鳴巳:で………でも……、順序とか………ほ、ほんとうによく分からないんです…………。
満朔:鳴巳さ、『上手くやらなきゃ』とか『失敗するかも』とか思ってるだろ。
鳴巳:!!
満朔:失敗してもいいんだよ。そもそも、最初の頃からビシビシ当ててきたらそれはそれで怖いし。
鳴巳:……………も、もしも……悪い結果が出て………良くない事が起こったら………どう、しますか………?
満朔:俺が守ってやるよ、それくらい。
鳴巳:…………えっ……?
満朔:あー…………、ほら。その悪い結果で鳴巳にもし危険が及びそうになったら、の話ね。
鳴巳:…………………………。
満朔:少しやる気出た?
鳴巳:………………少し、だけ……。
満朔:じゃあ、善は急げだ。ちょっと道具持ってきてみてよ。
鳴巳:…………………はい……。
***
満朔:釜……と……。
鳴巳:撞木です………これで釜を打って……出た反応で吉兆を見る、と…………。
満朔:へー…。
鳴巳:…………じ、じゃあ……やってみます……。
満朔:待った。やるなら内容を決めないと。
鳴巳:内容………ですか……?
満朔:自分の事なのか、他人の事なのかとか……決められないなら俺が決めるけど……。
鳴巳:お、ねがいします……。
満朔:じゃあ、今日これからの鳴巳の行動について。
鳴巳:………ぼくの…………分かりました……。
(息を整えれば、釜を撞木でそっと打ち)
満朔:……………………。
鳴巳:…………!
満朔:なんか分かった?
鳴巳:………未の刻頃、北西方向に吉。運命を変える出会いあり……。
満朔:おー……なんか、それっぽいね。
鳴巳:………………、こんなものですかね……?
満朔:上出来。じゃ、未の刻辺りに一緒に出掛けようぜ。確か、雀が買い物に出てるから合流して……。
鳴巳:えっ!?
満朔:運命を変える出会い、だよ?確認してみないと。
鳴巳:で……でも……。
満朔:一人で踏み出せないなら、俺が横に居てやるから。
鳴巳:…………っ!
満朔:だから、一緒に行こう。決まり。
鳴巳:…………分か、りました…。
紅:鳴巳様?これは何処に置きますの?
鳴巳:えっ……あ、ここに……。
紅:本当に器用ですわね……鳴巳様……。
(カーネーションの形の練り切りを見ながら)
鳴巳:い、いや………ぼくなんて、そんな………。
紅:それはお母様にあげられるんですの?
鳴巳:あ、いえ………ぼくは孤児なので、………。
紅:………ごめんなさい、配慮が足りてませんでしたわね。
鳴巳:……あ、頭を上げてください……!紅さんはなにも悪くないです……!これは、店長さんに渡そうと思って……。
紅:あら、そうでしたのね……そういえば、鳴巳様はどうして望月にいらっしゃったんですの?
鳴巳:ぼ………ぼくが、里で行き倒れてた所を店長さんに拾って頂いたんです………。
紅:あ!鳴巳様がいらした時の事を詳しく聞きたいですわ!
鳴巳:ええっ!?
紅:私も手伝いますから、是非話して下さります?
鳴巳:………お、面白くないですよ……?
紅:折角昔の皆様の事が知れるんですもの!
鳴巳:じゃあ、少しだけ……。確か、あの頃も丁度皐月の頃だったと思います…………。
───***年前、妖怪ノ里───
雀:なーるみちゃん?
鳴巳:…………!な、なんでしょうか………。
(声をかけられ、近くの椅子の影に隠れて)
雀:いやー、えっと……大丈夫?ずっとお部屋にこもってたらつまらなくない?ほら!今日は天気もいいし、どこか出掛けましょう?
鳴巳:……………大丈夫……です、…………外は、苦手なので………。
雀:あら、そう………ご、ごめんなさいね?でも、たまには空気の入れ替えしてね……?
鳴巳:………………すみません……。
雀:いいのよ!じゃあ、何か入り用だったら呼んでね?
雀:……………。
満朔:おかえりー……って、どしたの?雀。
雀:心の壁っ!!!
(拳で机を叩きつつ)
満朔:あー……あの子?
雀:行き倒れてて助けてからもう一ヶ月よ!?一ヶ月!!人見知り激しそうだなーとは思ってたけど、アタシ達に距離ありすぎない……!?
満朔:まー、慣れてないんでしょ……俺等にもこの世界にも。ほら、大将言ってたじゃん。多分、元人間だろうって……前世の記憶が無いとはいえ、急に妖怪達の中に放り込まれて戸惑ってるんじゃない?
雀:でも、それにしてもよ……!慣れてなさすぎるっ……!あの子、表情だって全然変わらないし、やりたいこと全く言わないじゃない………。
満朔:人間が妖怪に生まれ変わる時に記憶は全て消されるらしいんだけど、うっすらと前世の情報が引き継がれてる時があるんだと。だから、元からああかもしんないし。無理にしたいこと聞かなくても……。
雀:でもね朔ちゃん……アタシはね、折角妖怪としてこの場所に来たんだから、この世界を楽しんでほしいのよ。あの部屋の外にはまだまだ鳴巳ちゃんの知らないことだって沢山あるもの!
満朔:まぁ、雀の言うことも一理ある。
雀:でしょう?
満朔:でも、雀はちょっとそれをあの子に押し付け気味なんじゃない?
雀:ガーン!!
満朔:んー………分かったよ。俺からも声かけてみる。
雀:えっ……本当?
満朔:情報屋、今暇だしねー。雀も買い物にでも行ってきたら?
雀:そうね………じゃあ、そうさせてもらおうかしら。
満朔:ん、行ってらー。
***
コンコン
鳴巳:……………!…………ど、うぞ……。
満朔:よ。
(すりガラスの引戸を開けながら)
鳴巳:……………………。
(依然として椅子の影に隠れたまま様子を窺っていて)
満朔:そんな警戒しなくても、取って食ったりしないよ。
鳴巳:……………!?えっ、あの………!
満朔:ははっ。じゃあ、今日は俺の話にでも付き合ってもらおうかなー。
(椅子に背を向けるように座りなから)
鳴巳:……………………え、と……。
満朔:どう?この生活慣れた?
鳴巳:……………………。
満朔:ま、そう簡単には慣れる訳ないか。自分がなんの妖怪なのかは分かってんの?
鳴巳:………………そ、総大将……様が………鳴釜……だと、教えてくれました………。占いが出来るって……言ってたんですけど………。
満朔:ほー。
鳴巳:……………占いに必要な道具も頂いたんですけど……良く分からなくて…………。
満朔:まだやってないんだ?
鳴巳:……………………。
満朔:じゃさ、ちょっと今やってみたら?
鳴巳:…………い、今……!?
満朔:そ。良く分からないからやってないだけでしょ?じゃあ、試しにやってみたらいいじゃん。
鳴巳:で………でも……、順序とか………ほ、ほんとうによく分からないんです…………。
満朔:鳴巳さ、『上手くやらなきゃ』とか『失敗するかも』とか思ってるだろ。
鳴巳:!!
満朔:失敗してもいいんだよ。そもそも、最初の頃からビシビシ当ててきたらそれはそれで怖いし。
鳴巳:……………も、もしも……悪い結果が出て………良くない事が起こったら………どう、しますか………?
満朔:俺が守ってやるよ、それくらい。
鳴巳:…………えっ……?
満朔:あー…………、ほら。その悪い結果で鳴巳にもし危険が及びそうになったら、の話ね。
鳴巳:…………………………。
満朔:少しやる気出た?
鳴巳:………………少し、だけ……。
満朔:じゃあ、善は急げだ。ちょっと道具持ってきてみてよ。
鳴巳:…………………はい……。
***
満朔:釜……と……。
鳴巳:撞木です………これで釜を打って……出た反応で吉兆を見る、と…………。
満朔:へー…。
鳴巳:…………じ、じゃあ……やってみます……。
満朔:待った。やるなら内容を決めないと。
鳴巳:内容………ですか……?
満朔:自分の事なのか、他人の事なのかとか……決められないなら俺が決めるけど……。
鳴巳:お、ねがいします……。
満朔:じゃあ、今日これからの鳴巳の行動について。
鳴巳:………ぼくの…………分かりました……。
(息を整えれば、釜を撞木でそっと打ち)
満朔:……………………。
鳴巳:…………!
満朔:なんか分かった?
鳴巳:………未の刻頃、北西方向に吉。運命を変える出会いあり……。
満朔:おー……なんか、それっぽいね。
鳴巳:………………、こんなものですかね……?
満朔:上出来。じゃ、未の刻辺りに一緒に出掛けようぜ。確か、雀が買い物に出てるから合流して……。
鳴巳:えっ!?
満朔:運命を変える出会い、だよ?確認してみないと。
鳴巳:で……でも……。
満朔:一人で踏み出せないなら、俺が横に居てやるから。
鳴巳:…………っ!
満朔:だから、一緒に行こう。決まり。
鳴巳:…………分か、りました…。